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ヤドカリ刑事 消え逝く灯  作者: 春原 皇峰
3/3

後編


      6

 

八戸と秋山が、信濃中野署に戻ると、刑事課の中が慌ただしかった。

 刑事課の中には、森田課長の姿は無く、大河内と川崎が、今にも信濃中野署を、出ようとしていた。

 刑事課に戻ってきた、八戸と秋山に、気が付いた、大河内と川崎が、

「お帰りなさい、主任」

 と、口裏を、合わせるようにして、いって八戸を迎えた。

「なにか、慌ただしい気がするけど、どうかしたのか?」

 と、いって八戸は、廻りを確認しながら、きいた。

「はい、山ノ内町の平和観音の前で、今井幸太郎が、刺されたそうです。今、課長と石山が、幸太郎の様子を確認する為に、病院に向っています」

 と、川崎が、いった。

 川崎から、今井幸太郎が刺されたと、聴かされた八戸は、

「今井幸太郎が、刺された!」

 と、驚いた顔をして、いった。

「えぇ、幸太郎は、腹部を、下の方から斜めに、かなり深く刺されたらしくて、油断を許さない状態だそうです」

 と、いって、大河内は、幸太郎の刺された状況を八戸に、説明した。 

「幸太郎が、誰にやられたかは、わかっているんですか?」

 と、秋山は、きいた。

「誰に刺されたかは、分かりませんが、幸太郎が刺された現場から、二十代位の男性が、逃げる様に、その場を立ち去るのを、目撃されています」

 と、大河内は、伝えた。

「二十代位の男性が、幸太郎の刺された現場から逃げるのを、目撃した」

 と、八戸は、腕を組んで、首を傾げる様にしながら、いった。

「はい。その逃げた、男性ですが、山西健治に似ていたということです」

 と、川崎が、いった。

「山西健治に似た男が、幸太郎の刺された現場から、逃げ去るのを目撃した…」

 と、八戸は、いうと、そのまま、黙ってしまった。

「やはり、仲間内のお金を巡っての争いなんでしょうか?」

 と、秋山は、いった。

「八戸のリュックの中に入れてある携帯が、鳴った。

リュックの中から、携帯電話を取り出し、着信画面を確認すると、森田と表示されていた。

「はい、八戸です」

 と、いって、電話に出た。

「八戸君、今井幸太郎が、運ばれた病院にいるんだけど」

 と、森田は、いった。

「はい。今、大河内と川崎からききました。幸太郎が、平和観音の前で、刺されたそうですね」

 と、いって、八戸は、話した。

「その、幸太郎だけど、今、死亡が確認されたわ」

と、いって、森田は、幸太郎が死亡した事を説明した。    

「幸太郎が、死亡した!」

 と、八戸は、いった。

「えぇ」

 と、森田は、いった。

「病院に運ばれた時に、今井幸太郎は、携帯電話を、持っていなかったんですか?」

 と、いって、八戸は、幸太郎が、携帯電話を持っていたかを、きいた。

「今井幸太郎が、病院に運ばれて来た時は、何も、所持していなかったらしいわ。幸太郎を刺した犯人が、その時に、持ち去った可能性が高いわね」

 と、森田は、話した。

「その、幸太郎が刺された現場から逃げ去った犯人ですが、山西健治に、似ていたと、いうことですが?」

 と、八戸は、いった。

「らしいわね。それと、幸太郎は、犯人の物と思われる、頭髪を少し、握り閉めていたらしいけど、毛根の部分が、無くて、DNA鑑定は、ミトコンドリアDNAは、検出できるらしいけど、難しいらしいわね」

 と、森田は、答えると、

「これから、山西健治を、重要参考人から、今井幸太郎を、殺害した可能性のある、容疑者の候補に切り替えて、捜索開始します」

 と、いった。

「分かりました」

 と、いうと、八戸は、携帯電話を、持つ手を、変えて、

「ところで、今井幸太郎が、亡くなったことは、もう、幸太郎の御家族には、お伝えしたんですか?」

 と、きいた。

「今、石山君が、御家族に、連絡しているところよ」

 と、いって、森田は、後ろで幸太郎の家族に電話をしている、石山に振り向いて、答えた。

「分かりました、課長は、この後、どうしますか」

 と、八戸は、きいた。

「とりあえず、御家族に会ってから、そちらに、戻るわ」

 と、森田は、いった。

「はい」

 と、八戸は、いって、首を上下に振って、答えた。

「それで、八戸君はこれから、今井幸太郎の住んでいた、信州中野駅近くにある、プリンス三号館の二○九号室に、向って貰えるかしら」

 と、森田は、いった。

「はい、分かりました。私も、先ほど、幸太郎の住まいを、正太郎から、聞いたところでした。幸太郎の住んでいた駅の近くのプリンス三号館に向います」

 と、いって、携帯を切って、背中のリュックに戻した。

 森田と、八戸のやり取りを訊いていた秋山は、

「行きますか?」

 と、きいた。

「そうだな」

 と、いって、八戸は、上下に、首を動かして、うなずくと、信濃中野署を出発した。

 八戸が、今井幸太郎の住んでいた、プリンス三号館の前に着くと、先に、警察車両が一台停まっていた。

 警察車両の運転席のドアが開いて、中から石山が出てきて、

「八戸主任」

 と、いって、声を、掛けてきた。

「石山、課長は、まだ病院か?」

 と、八戸は、きいた。

「はい。課長は、家族の方が来るまで、病院に、残るそうです。私は、一緒に八戸主任と行動するようにと、廻されました」

 と、いって、石山は、説明した。

「よし、とりあえず、幸太郎の部屋に入ってみよう。石山は、幸太郎の部屋の鍵を借りて来てくれ」

 と、八戸は、いって、二階の幸太郎の部屋に向う階段を、上り始めた。

 二○九号室の前に来て、秋山が、ドアのノブを掴むと、

「開いていますよ」

 と、いうと、そっと、ドアを開けて、中に入った。

 八戸と、秋山が中に入ると、高岡の時と同じ様に、荒らされていた。

「またか…」

 と、中の様子を見て、八戸は、呟いた。

「しかし、いったい誰が…」

 と、秋山も、幸太郎の部屋の中の状況を見て、いった。

 しかし、高岡の部屋が荒らされていた時と違い、部屋の中全体が荒らされてはいたが、盗るものを盗らずに、途中で、立ち去った様に、見える所があった。

 管理人から、二○九号室の鍵を、借りて来た、石山は、既に、八戸達が幸太郎の部屋の中に入っていると知り、八戸達に続いて中に入ると、

「これは、また、酷いですね」

 と、部屋の中の様子を、確認してから、いった。

「石山、私達が、来る前に、ここから、誰か出て行かなかったか?」

 と、いって、八戸は、石山に尋ねた。

「いえ、誰も、出て行きませんでしたよ」

 と、石山が、答えると、奥の部屋から、物音が、聞こえた。 

八戸と石山は、物音が、聞こえた部屋のドアを開くと、バイクのヘルメットを被ったまま、窓から、飛び降りる人物を見た。

慌てて、飛び降りた、人物を追って、窓に向って走っていくと、幸太郎の部屋から、飛び降りた人物を、バイクに乗った人物が、轟音を発てて迎えに来て、飛び降りた人物を、乗せると、この場から、直ぐ様、立ち去っていった。

「石山、あのバイクを、追ってくれ」

 と、八戸は、外の走り去るバイクを、指差しながら、石山に、いった。

「はい」

 と、いって、窓から、バイクを確認した石山は、バイクを追って、車を出した。

 石山が、バイクを追っていくと、八戸は、溜息を吐いた。

部屋の中に、手がかりが、残っていないかを、調べ始めると、荒らされている部屋の床に、青色のケースを見つけた。

「主任、主任」

 と、秋山は、手を動かして、八戸に、〈来てください、来てください〉と、二回呼ぶようにして、呼んだ。

「どうした」

 と、いって、秋山に、近づきながら、八戸は、きいた。

秋山が、床に落ちていた青色のケースを拾うと、

「これ、先程、今井製薬で、今井正太郎に、見せてもらったのと、同じケースじゃないですか」 

と、いって、ケースの蓋を、開くと、中には、梨江の殺害現場で、梨江が、握り締めていた、黒曜石で作られた蛍の部分が、取れているカフスが、入っていた。

「これって、もしかして、羽野梨江を殺したのが、今井幸太郎って、事ですか?」

 と、秋山は、掌に乗せた、蛍のカフスを見ながら、いった。

 とりあえず、秋山は、八戸に渡して、よく確認してもらおうとした時に、掌からポロリっと、落ちてしまった。

「あっ!」

「ヤバイ」

 落ちた衝撃に、ケースの中身が、全て飛び出し、底の部分も、取れてしまった。

〈まずかったな〉

 と、思って、秋山は、その場から目を背けた。

「ん?何だ、これは!」

 と、八戸は、いって、底の部分に着いていた、物を拾った。

 八戸の声を聞いて、拾い上げた物を、観た秋山は、

「鍵ですか」

 と、きいた。

「そうらしいな、わざわざ、こんな所に隠す様に、入れておくなんて」

 と、八戸は、呟くと、

「とりあえず、森田課長に連絡して、この部屋の現場検証を、お願いしてもらおう」

 と、いった。

「あ、私から、連絡します」

 と、いって、秋山は、森田の携帯に電話を掛けようとした。

「今、病院にいるから、課長、携帯切っているかもな」

 と、八戸は、いった。

 秋山は、森田の携帯に、繋がらないのを確認すると、

「本当だ、繋がらない」

 と、いった。

「仕方ない、秋山、鑑識に連絡だけ入れておいてくれ」

 と、八戸は、いった。

「はい」

 と、秋山はいって、首を上下に動かして、うなずいた。 

 秋山が、鑑識に連絡をしている時に、八戸は、玄関にふらっと、移動した。幸太郎の部屋の中に入った時は、荒らされていた事に、気をとられて、気が付かなかったが、玄関の隅には、額の中に入れて、写真が飾られていた。

 写真には、湖の近くで、羽野梨江、遠山雄太、橋本光、山西健治、高岡栄吉、今井幸太郎の六人が、写っていた。

八戸は、写真を拾い上げると、

「少なくともこれで、六人の関係を、証明することが、出来る」

 と、八戸は、思った。

 八戸と秋山は、信濃中野署に戻り、鍵を、調べることにした。

 八戸が、プリンス三号館の外に出ると、ちょうど、鑑識が到着した。

 今井幸太郎の二○九号室の部屋の状況を、到着した鑑識に説明して、八戸と秋山は、信濃中野署に向った。

 信濃中野署に戻ると、そこには、長野南若穂署から、蟲倉が、八戸と秋山の来るのを、待っていた。

「蟲倉さん、お疲れ様です」

 と、秋山が、いった。

「蟲倉さんは、長野南若穂署で、指揮をしているはずですが、こんなに、頻繁に来ても大丈夫なんですか?」

 と、八戸は、きいた。

「あぁ、俺がいなくても、あいつらは、うまくやってくれるはずだ」

 と、いって、蟲倉は、首を上下に振って、答えた。

八戸は、今井幸太郎の部屋で、手に入れた鍵と写真の話をすると、蟲倉に梨江、遠山、光、山西、高岡、幸太郎の六人が写っていた写真楯を、手渡した。

八戸から、六人の写っている写真楯を、手渡された蟲倉は、

「やはり、あの六人は、繋がっていたんですね」

と、いって、両手で確りと、掴みながら、確認した。

「はい、しかし、これで彼らも、知らぬ存ぜぬは、できません」

 と、八戸は、いった。

「ところで、蟲倉さんは、どんな目的で、いらしたのですか?」

 と、いって、蟲倉に尋ねた。

「そうそう、実は、山西健治と羽野梨江が、母違いの兄妹だと判明したらしいと、報告を受けたので、知らせておこうと思って」

 と、いって、蟲倉は、話した。

「え!山西健治と羽野梨江が、兄妹と判明したですって?」

 と、秋山が、驚いた顔をして、いった。

 蟲倉は、データファイルを取り出すと、秋山に渡して、

「以前、山西が刺された時のDNAのデータが残っていて、そのデータと、梨江が殺害されたときに入手したDNAデータを照合した結果、一致したそうだ」

 と、蟲倉は、説明した。

「なるほど、そうすると、恭子叔母さんが、山西と光が、峰泉に泊まっていた時に、まるで、仲の良い兄妹みたいだったと、話した事が、納得できますね」

 と、八戸は、蟲倉の話を聴いて、恭子が、話していた事を、いうと、

「羽野梨江と兄妹と言うことは、双子の光とも兄妹と、言う事になりますね。二人は、恋人同士といった関係で、峰泉に来たのではなくて、兄妹で遊びに来ていた、という事だったんですね」

 と、いった。

「なるほど」

 と、首を上下に振って、うなずきながら、蟲倉が、いった。

「でも、この写真の二人は、それほど、似ていませんね、双子なのに」

 と、秋山は、いった。

「一卵性双生児じゃないのかもな」

 と、八戸が、いった。

「あ、これ、長野中央銀行の貸金庫の鍵じゃないか?」

 と、蟲倉は、八戸の左手に、持っている鍵を見て、いった。

「本当ですか」

 と、八戸は、蟲倉に尋ねた。

「あぁ、間違いないな」

 と、いうと、蟲倉は、

「後、橋本光の住んでいる場所が、判明したぞ、梨江のロイヤル・スタイルというマンションから、歩いて、十五分位の所に有るアパートに、住んでいるらしい」

 と、いった。

 光の住んでいる場所が、分かったと聴いた

八戸は、

「それを、先に行ってくださいよ」

と、いって、なんで、先に行ってくれないのかと、ガクッと、一瞬、力が抜けた。

「でも、なんで、光は、マンションを買ったのに、態々、梨江にマンションを譲って、自分は、安いアパートを借りて、住んでいたんでしょうか?」

 と、いった。

「そういわれてみれば、確かに、変だよな」

 と、蟲倉は、いった。 

「お願いします」

 と、いって、八戸は、蟲倉に、長野中央銀行の貸金庫の鍵を渡すと、黒色の小さいリュックの中に入っている、携帯が、鳴った。

 八戸は、リュックから携帯を取り出すと、携帯の画面に、石山と表示されているのを確認して、

「石山か、どうだ」

 と、いって、携帯に出た。

「八戸主任、すいません、長野市に入った辺りで、バイクを見失いました」

 と、いって、石山が、バイクを見失ったことを、伝えた。

 石山から話を聴いた八戸は、バイクで逃げたのが、二人という事と、飛び降りた人物が、男性にしては、小柄という点を考えて、

「そうか、わかった。バイクに乗っていたのは、恐らく山西健治と、橋本光だ」

 と、いった。

「どうして、バイクで逃げたのが、山西と光だと、思ったのですか?」

 と、石山は、尋ねた。

「梨江が殺される以前から、二人は、仲の好かった事と、梨江、高岡、遠山、幸太郎が、亡くなったいま、梨江に関係する人物で、二人で行動するとしたら、羽野隼雄や、今井正太郎が、バイクに二人で乗っているとは、考えられない。だとしたら、橋本光と山西が、逃げたと考えた方が、普通だな」

 と、八戸は、いった。

「なるほど」

 と、石山は、うなずいた。

「光のアパートは、梨江の住んでいたマンションから十五分の所に有るらしい、山西と光が、光のアパートに、立ち寄って行く可能性は、まだ十分有るから石山も、向ってくれ。私達も、用意して、直ぐに光のアパートに向うから」

 と、八戸は、光のアパートの場所を、石山に、伝えた。

「了解しました」

 と、いうと、石山は電話を切って、車を、光のアパートに向けた。

「蟲倉さんは、長野中央銀行に行って、その貸し金庫の鍵を使って、中身を確認して来て貰えますか。私たちは、これから、光のアパートに向います」

 と、八戸は、いった。

「わかった、気を付けてくれ」

 と、蟲倉は、いって、信濃中野署を出た。

「秋山、行くぞ」

 と、八戸が、いった。

「わかりました」

 と、秋山は、いって、信濃中野署を出て、橋本光のアパートに、向った。

 石山が、光のアパートに着くと、先ほど、長野市に入る前に見失った、今井幸太郎の部屋から飛び降りた人物が、乗っていたバイクが、停めてあった。 

「これは、先ほど見失ったバイク」

 と、いって、石山は、バイクを見ると、光の部屋に向って、走った。

 光の部屋のドアには鍵が掛かっておらず、開いたままとなっていたが、部屋の中には、橋本光も、山西健治の姿も、なかった。

 石山は、光の部屋を調べ始めると、

「逃げた後か」

 と、いって、呟いた。

 しばらくすると八戸と秋山が、光のアパートに着いた。

「石山、どうだ」

 と、八戸が、きいた。

「一足違いで、逃げられました」

 と、石山は、八戸にいった。

「しかたない、とりあえず、光と山西の行き先の手がかりが、残っていないか、捜してみよう」

 と、八戸は、いった。

しばらく、手がかりを、捜していると、八戸のリュックの中の携帯電話に、電話が掛かってきた。リュックの中から右手で携帯電話を取り出すと、

「はい、八戸です」

 と、いって、電話に出た。

「八戸君、先程、八戸君から預かった、長野中央銀行の、貸し金庫の中身を、今、確認したら」

 と、蟲倉は、いうと、

「中身は、お金だったんだけど、無理矢理銀行のATMを壊したときに吹き付けられる、インクが付いた二億円だった」

 と、応えた。

「インクが吹き付けられていたと言う事は、そのお金は、五年前に、下諏訪銀行を襲ったときに、盗んだ十億円の中の二億円と言う事ですか」

 と、いって、八戸は、きいた。

「そうらしいな、他の八億円は、ATMの中に入れる前だったから、吹き付けられなかったらしいが、その二億円だけは、無理矢理、機会を壊した時に、お金にインクが付いたらしい」

 と、蟲倉は、いった。

「なるほど、すると、インクの付いていなかった八億円は、使えても、付いていた二億円の方は使えず、かと言って、捨てたり、燃やしたりも出来ずに、銀行の貸し金庫に隠したと言う訳ですか」

と、八戸は、首を上下に、動かして、うなずきながら、いった。

「殺害された、羽野梨江、遠山雄太、高岡栄吉、今井幸太郎以外の山西健治と橋本光を、重要参考人から、下諏訪銀行十億円強奪の容疑者として、全国に、指名手配する事が決まった。それと、今井正太郎も、会社から姿を消したらしい。銀行強盗を計画して実行したリーダーとして、指名手配する事になったらしいぞ」

 と、蟲倉は、八戸に、伝えた。

「え、今井正太郎も、姿を、暗ましたんですか?正太郎の奴、長野中央銀行の貸金庫の中に預けて有った二億円を、見つけられて、焦って、逃げたな。分かりました、蟲倉さん、ありがとうございました」

 と、八戸は、いって、電話を、切った。

「よし、下諏訪の羽野隼雄に、もう一度、会いに行ってみよう。山西や、光がもし向うとしたら、下諏訪だろう、可能性は、低いが、もしかしたら、父親の隼雄に会いに戻っているかもしれないからな。そして、正太郎も下諏訪に…」

 と、いって、下諏訪に在る羽野梨江の実家に向った。

 

      7

 

 八戸は、車のドアを開けると同時に、

「羽野さん」

 と、いって、車を飛び出して、隼雄の家のインターホンのボタンを、押した。

「はい、どちら様ですか」

 と、いって、昨日から一睡もしていないのか、目の周りにクマを作った状態で、隼雄は出て来た。

「失礼します、梨江さんと光さん、そして、

貴方の息子さんの山西健治さんの、事で、少しお話を、聞かせていただけますか」

 と、八戸は、いって、尋ねた。

「健治がどうして、私の息子だと分かったのですか?」

 と、目を赤くした状態で、隼雄は、聴き返した。

「はい、梨江さんが亡くなった時に、採取したDNAと山西健治さんが刺された時のDNAが一致したので、それで父親か、母親が、同じ、しかし、母親が同じというのは、考えづらい、だとしたら、山西健治さんのお母さんと貴方との間の息子さんでしょう」

 と、いって、八戸は、きいた。

「はい、確かに、そうです」

 と、隼雄は、力なくいうと、

「どうぞ、中へ入ってください」

 と、いって、家の中に入れた。

「失礼します」

 と、いって、八戸は、家の中に入った。

 家の中に入ると、昨日の梨江が風俗に勤めた事を怒っていた口調とは、裏腹に仏壇に梨江の写真を飾ってあった。

仏壇の前で隼雄は、正座して手を合わせると、隼雄の後ろから八戸と秋山も、正座をして、仏壇に手を合わせた。

「健治は、梨江の母親の橋本静と、結婚する前に、若気の至りというのですか、浮気をしてしまい、浮気をした山西千春との間に出来たのが、健治です」

 と、いって、隼雄は、

「梨江と光が、小学校を、卒業する直前に、それが静に知られて、離婚するきっかけとなりました。ただ私も、その時、静が、浮気をしていたのを、知っていた為に、子供を互いに、一人ずつ引き取るという形で、離婚が、成立しました」

 と、いって、離婚した事情を、話した。

「分かりました。ところで、奥さんは、別れてから、亡くなったと、聴きましたが、奥さんが、亡くなる前に浮気をしていた相手を、どなたかご存知ですか?」

 と、いって、八戸は尋ねた。

「はい、静が、浮気をしていた相手というのは…」

 と、いって、隼雄は、

「昔からの私の親友の今井製薬の現社長の今井正太郎です」

 と、話した。

「え!今井正太郎!」

 と、いって、秋山が驚いた顔をして、聴き返した。

「はい、私と、今井正太郎、高岡栄吉とは、昔、この下諏訪町の近所に、住んでいた友達です」

 と、いって、隼雄が話した。

「今井正太郎だけでなく、高岡栄吉とも、近所で、知り合いだったんですね」

 と、いって、八戸が尋ねた。

「はい、栄吉や正太郎とは、物心付いた頃から知っていたので、静の浮気相手が、正太郎だったと知った後も、静とは、分かれましたが、正太郎とは、友達付き合いを、続けてきました」

 と、隼雄は、いった。

「なるほど、正太郎が、あの時、言いたくなかったのは、浮気の事も遭ったが、幼馴染だったと知れて欲しくなかったという事も、有ったのかもしれないな」

 と、八戸は、いった。

「昔から、私達三人は、蛍が、好きで、その蛍をいつまでも、守りたいと誓いを起てて、創ったのが、蛍は地球を救う会です。私は、下諏訪で取れる黒曜石を利用して、その黒曜石に蛍を刻んだカフスをデザインして、創りました」

 と、いって、隼雄は、話した。

「なるほど」

 と、八戸はいって、首を上下に動かして、うなずくと、

「処で、羽野梨江さんと橋本光さんが、つい最近、ここに、いらしていたのではありませんか?」

 と、いって、きいた。

「どうして、梨江が、ここに来たと想ったんですか」

 と、いって、隼雄は、きいた。

「もしかしたら、亡くなった梨江さんは、光さんと健治さんと一緒に、一週間程前に、峰泉に泊まりに来る前に、貴方に何か伝えようと、ここに来たのではと思って、本当は、貴方を含めた四人で、峰泉に、宿泊しようとしていたのではないかと、思って」

 と、いって、八戸は、下諏訪に来るまでに考えていた事を、真剣な顔で、隼雄に、きいた。

「はい、確かに、一週間程前に、私に話しが有るといって、梨江が来ました。しかし、光と健治は、来ませんでした」

 と、隼雄は、いった。

「やはり、峰泉に来る前に、梨江さんは、ここに来ていたんですね」

 と、八戸は、いった。

「はい、確かに、梨江に、光と健治も向こうにいるので、一緒に泊まりに行かないかと、誘われました。しかし、梨江が数年前に、風俗に勤めているという事を、聴かされていた私は、怒りからか、まともに梨江と、向き合って、話をしようともしないで、そのまま、梨江を追い帰す様にして、帰してしまいました。梨江は、追い返されるのを予想していたのか手紙を、玄関の下駄箱の上においていきました」

 と、隼雄は、いうと、

「しかし、どうせ碌な事を書いた物ではないと思って、そのままゴミ箱の中に、手紙を投げ入れました」

 と、隼雄はいって、話した。

「えぇ!持ってきた手紙を捨てた!」

 と、いって、秋山は、驚いた。

「しかし、まだ外に捨てていなかったので、昨日、お二人と話をしてから、この手紙を拾い上げて、中身を確認しました」

 と、隼雄は、いった。

「なんだ」

 と、秋山は、いって、ふぅと、溜息をついた。

隼雄は、クシャクシャになった茶色の封筒を、八戸に渡した。

 梨江が残した白い封筒に入った手紙には、五年前に下諏訪の銀行を、襲う仲間に、橋本光、山西健治、そして、遠山雄太の三人が、無理矢理、会社の遣り繰りに困っていた今井正太郎、今井幸太郎、そして、工場の借金に困っていた高岡栄吉に、仲間に入れられた事が、書かれていた。

「これが梨江さんの手紙」

 と、いって、渡された手紙の内容を確認すると、八戸は、隼雄にきいた。

「はい、梨江が調べたことを、私に伝える為に書いて残したようです」 

 と、いって隼雄は、首を上下に動かして、うなずくと、

「梨江が、風俗を始めたのは、五年前の銀行強盗の事をちゃんと、調べて、光と健治を自首させるためだったようです。こんなことなら、梨江が来た時に、話を聞いてやっていれば、こんな事には、ならなかったかもしれない」

 と、酷く沈んだ顔で、梨江と話をしなかった事を、悔やみながら、いった。

「これを見ると、光さんと健治さんは、五年前に会社の遣り繰りをする、お金に困っていた今井正太郎や、高岡栄吉に無理矢理、銀行強盗を、行なう仲間に、入れられたようですね。そして、梨江さんは、その銀行強盗を行った六人の事を調べていた」

 と、八戸は、いった。

「そうすると、主任、銀行強盗を行なった六人は、橋本光、山西健治、遠山雄太、今井正太郎、今井幸太郎、高岡栄吉の六人だったと言う事になり、その中には、羽野梨江は、いなかったと、言う事になりますね」

 と、秋山は、いった。

「らしいな」 

 と、いった八戸の持っていた白い封筒の中から、ポトリっと、一枚の写真が落ちた。

 落ちた写真を八戸が、拾うと、諏訪湖を背景に見える場所で、羽野梨江、橋本光、山西健治、遠山雄太の四人が、写っていた。

「この写真は?」

 と、八戸が、隼雄に尋ねた。

「あぁ、ここは、梨江と光が私と一緒に、よく蛍を見に行っていた場所ですよ」

と、隼雄は、写真を見て、いった。

「もしかしたら、光さんと健治さんは、今井正太郎をここに呼び出して、殺害しようとしているのかもしれません。この場所に連れて行ってください」

と、八戸は、いった

「本当ですか!」

 と、いって、秋山は、いった。

「恐らく、正太郎は、今そこに、呼び出されて向っている可能性がある」

 と、いって、八戸は、力説していうと、隼雄に、

「隼雄さん、この場所まで、私たちを、案内してください」

 と、いった。

「分かりました。行きましょう」

 と、うなずくと、隼雄は、八戸と秋山を写真の場所まで一緒に案内すると、いった。

「秋山、ちょっと、運転していってくれ」

 と、八戸は、いって、助手席に座った。

「分かりました」

 と、いうと、秋山は、運転席に座って、八戸と隼雄がシートベルトを掛けるのを確認すると、

「行きます」

 と、いって、車を動かした。

 八戸は、車を動かす前に外した背中のリュックを、ギュッと、両手で抱き締めながら、

貝殻に閉じこもる様にして、目を閉じて、考え出した。

「梨江の残した手紙を見ると、梨江は、五年前の下諏訪銀行十億円強奪事件の六人のメンバーの中にはいなかった。梨江が調べた六人のメンバーは山西健治、橋本光、遠山雄太、高岡栄吉、今井幸太郎、今井正太郎と書かれていた。梨江は、その六人の事を調べていただけのようだが、恐らく、この手紙を渡さずに、隼雄を誘うことができたら、山西と、光と一緒に、峰泉に泊まりに行くつもりだったんだろうな。そして、旅行が終わり次第、自首をする積もりで三人は、考えていたんだろうな」

 と、八戸は、考えると、

「しかし、そんな、仲のいいような、兄弟の山西や、光が、梨江を呼び出して殺したというのは、考えづらいな、そうだ、やはり、梨江が峰泉に行く前に今井正太郎が高岡と幸太郎に、梨江の三人の殺害を、命じたんだろうな。そう考えると、高岡は、梨江を殺害された、山西と光が復讐したと考えた方が、辻褄が合うな。幸太郎も山西と光に、やられたんだろうな。そして、遠山は、恐らく、梨江達に、情報を流して挙げ句に、正太郎達に、殺害された。しかし、梨江が、犯人ではなかったとすると、五年前になぜ、山西を刺したかという謎が残っている。事件の事を迫られた山西と光が、梨江を刺したというのなら、動機も分かるが、梨江が、山西を刺したという動機が分からない。光と山西が正太郎を殺害する前に、なんとしてでも、早く見つけて止めないと…」

 と、思った。

八戸は、隼雄に案内されて、四人の写っていた諏訪湖近くの梨江と光と一緒に、蛍を見にいっていたという、場所の近くに到着すると、

「恐らく、山西健治と橋本光は、今井正太郎を、この近くに呼び出して、殺害しようとしている。山西健治と橋本光が、今井正太郎と接触する前に、なんとしてでも、見つけるんだ」

 と、八戸は、力強く、言い放った。

八戸が、言うと、散り散りになって、捜し始めた。

「こんな処に呼び出して何の用だ?」

 と、正太郎が、山西と光にきいた。

「梨江と、遠山を殺したのはお前だろ」

と、いって山西は、一歩前に踏み出すと、携帯の留守番電話に録音されていたレコーダを再生した」

「山西、梨江を殺害したのは、高岡と幸太郎だ、あの日、僕は、梨江から、話が有ると言われ、湯田中駅で会う約束でいたが、少し、遅れてから行くと、梨江が、車で高岡と幸太郎に、連れ去られて行くのを見た。その翌日に北志賀で、梨江が首を絞められて、殺害されていた、犯人は、高岡と幸太郎だ。すまなかった山西、僕が、もっと、早く着いていれば、梨江が殺されることは無かったのに」

 と、留守番電話に、遠山の声が録音されていた。

「……」

 と、正太郎は、録音された、遠山の声を聞かされても、黙っていた。

「なぜ、梨江を殺した」

 と、山西が、いうと、唇を強く噛締めて、震える右手で、折りたたみ式のナイフを握って、今にも、正太郎に襲い掛かろうとしていた。

その後ろから、光が、山西に寄り添う様にして、

「梨江や私達が自首をするつもりでいたら、梨江の口を封じる様に、高岡と幸太郎に、指示をしたのは、あんたでしょ」

 と、今にも、泣きそうな声で、叫んだ。

「俺達は、五年も経ってしまったけど、やっと、自分から、罪を償う気持になって、あんた達にも、自首を、進めようとしていただけだ。脅すつもりなんかは、これっぽっちも無かった。しかし、あんたは、下諏訪の強盗事件の事を、梨江から聞いた途端に、梨江を殺しやがって」

 と、いって山西は、声を荒げて、叫んだ。

「私は、栄吉と幸太郎に、金で説得しろと、いっただけだ。殺したのは、栄吉の奴と幸太郎が、勝手にした事だ。私は、悪くない」

 と、ナイフを見せられても、あまり動揺せずに、正太郎は、いった。

「このヤロー」

と、いって、山西は、右手に持ったナイフを振り上げた。

「山西止めろ」

と、いって、八戸は、正太郎に、飛び掛かろうとする山西を、呼び止めた。

 八戸に、呼び止められると同時に、山西と光は、素早く、正太郎の後ろに廻り、ナイフを、正太郎の首に当てて、

「来るな」

 と、いった。

「もう、正太郎の罪も、明らかになる、梨江さんが、望んでいたように、これからでも、自首してくれ」

 と、八戸は、いった。

「もう遅いんだ、俺達は、梨江を殺した高岡と幸太郎の二人を殺した、そして、最後に、遠山を幸太郎に殺す様に命令した、こいつを殺して俺達も、梨江の処に往く」

 と、山西は、大声を出して、いった。

「健治、光、もうこんな、馬鹿な事は、止めろ」

 と、八戸の後ろから、隼雄が、山西と、光に、いった。

「お父さん!」

 と、光が、隼雄を見て、いった。

「親父!」

 と、山西も、光に続いて、いった。

「こんな事をしても、梨江は、浮かばれないぞ、もう止めてくれ」

 と、隼雄は、両腕を広げて、その場にしゃがみこんで、いった。

「お父さん、御免なさい。こんな事に、なる前に、会って、謝りたかった」

 と、光は、いって、謝った。

「騙されて、銀行強盗の仲間に入れられた時に、直ぐに、自首をすればよかったんだ」

 と、山西は、いうと、

「五年前に梨江が『なぜこんなマンションを手に入れられたか』って、聴いてきた時に、争ったりしなければ、梨江も、誤って、俺を刺して、刑務所に行かずに、みんなこんな、苦しい思いもしないで、済んだはずなのに」

 と、いった。

「今井正太郎の罪は、これから、必ず、こちらで、明らかにして、必ず裁く。もう、梨江さんが、望んだように、自首をして、自らの罪を償ってください。そして、罪を償って出て来たら隼雄さんと一緒に、みんなで好きだった蛍を、また見に行ってください」

 と、八戸は、叫んでいった。

「健治、光、またみんなで、蛍を、見に来よう」

 と、隼雄は、いった。

 山西は、そのまま、ナイフを握り締めていた手を、緩めると、その場に、ナイフを落とした。

 山西と、光の二人は、隼雄の前に来ると、しゃがみ込んで、涙と洟を流してその場に、泣崩れた。その二人の顔は、幼い子供が、心から謝る時の様に、幼く見えた。

 三人がしゃがみ込んでいる横を、秋山が、通って、

「下諏訪強盗事件を行った犯人、及び、羽野梨江、遠山雄太の殺害を命じた犯人として、逮捕します」

 と、いって、手錠を取り出し、正太郎に掛けると、そのまま、車に連れて行った。

「山西と、光は、どれ位の罪になるんでしょうか?」

 と、秋山が、話しかけた。

「銀行強盗を行なった時点で、自首をしていれば、無理矢理、仲間に入れられたと、言う事で、上々借料が望めたんだろうが、梨江が殺され、復讐の為に、二人も人を殺めてしまった。かなり、永くなるだろうな」

 と、八戸は、いうと、

「でも、隼雄さんと、そして梨江さんの好きだった、蛍を、一緒に見るという目的があるから、どんなに永くても、我慢して、頑張れるはずだ」

 と、いって、答えた。

「そうですね」 

 と、いって、秋山は、返事をした。

 八戸は、光も、山西もこれからは、間違えた道に、決して進まずに、力強く、生きて行くと、信じた。

事件が解決した後、八戸、秋山、蟲倉の三人は、お酒を飲もうと森田に捕まり、一緒にお酒を飲む破目になった。

四人で飲んでいると、森田は、赤ワインを入れたグラスを、右手に持ちながら、

「本当に、あんた達は、女の良い所がどこに有るのか理解していないのよ」

 と、既に出来上がった状態で、絡むようにして、愚痴を延々と漏らし始めた。

「蟲倉さん、森田課長って、昔から、飲むとこんな風に人に絡みつく様に、愚痴を溢すタイプだったんですか?」

 と、いって、八戸は、横に座っている蟲倉に、小声で、尋ねた。

蟲倉は、顰め面をして、

「あぁ、サッキーのヤツ、酒は人一倍強い上に、酔ってくると、人に絡み付く様にして、愚痴を延々と、溢し始めて、本当に大変だったよ」

 と、いって、八戸に小声で、いった。

 森田は、

「そこの二人。何を、こそこそ、そこで話しをしているの?」

 と、八戸と蟲倉を、睨み付けながら、いった。

「いえ、何も」

 と、二人は、声を揃えて答えた。

 そのまま、しばらく、四人で、飲んでいると、急に、八戸の背中のリュックの中の、携帯電話が鳴り、電話に出た。

 八戸の携帯に電話を、掛けてきたのは、恭子だった。

「ヤドカリちゃん。明日、早苗さんと由希さんが、帰るから、もう一度、これから、蛍を探しに行かない?」

 と、恭子は、きいた。

「分かりました、じゃあ、靖子を迎えによこして貰えますか。靖子が付いたら、急いで、峰泉に向かいます」

 と、八戸は、答えた。

「分かったわ、じゃあ、直ぐ、靖子さんに、行って貰うから、待っていて」

 と、いうと、恭子は、電話を切って、靖子に、八戸から、迎えに来て欲しいと、言われた事を、伝えた。

 八戸は、秋山、森田、蟲倉に、峰泉に来て欲しいと伝えた。秋山と蟲倉は、直ぐにこの場から離れたいと、思ったのか、行くと答えたが、森田は、もっと、ここで飲んでいたいと、答えた。

八戸は、以前森田が、峰泉の温泉に入りたいと、言っていたことを思い出して、皆で、蛍を探しにいっている間に、峰泉の温泉に、入っていてくださいと、いうと、やっと、行くと答えた。

 四人を乗せて、靖子が運転する車が、峰泉に付くと、峰泉の外に恭子、曜子、早苗、由希の四人が出ていて、待ちくたびれたと、言わんが如く、

「ヤドカリちゃん、早く、行こう」

「おにぃちゃん、お疲れ様」

「早く行きましょう」

「皆さん、お疲れ様です」

 と、次々に、挨拶をした。

「恭子叔母さん、ちょっとお願いがあるんだけど、私達が、蛍を探しにいっている間に、森田課長を、温泉に、入らせて貰いたいんですが、いいですか?」

 と、いって、八戸は、説明した。

「あ、畏まりました、どうぞ、こちらへ」

 と、いって恭子が、森田を、峰泉の中に案内しようとすると、一匹のゲンジボタルが、ふわっと、八戸達を、照らすように、飛んできた。

 一匹のゲンジボタルが、飛ぶ姿を眺めていると、

「綺麗」

 と、由希が、呟いた。

「初めて、蛍の飛んでいる姿を、観たけど、やっぱり、機械なんかの光と違って、神秘さを、何か感じますね」

 と、早苗が、いった。

「夜の灯ですね」

 と、曜子が、いった。

「そうですね」

 と、秋山が、いった。

「温泉もいいけど、この蛍の輝きも、又、風流よね」

 と、森田も、振り返って、いった。

「こういう、自然の輝きを、いつまでも、大事にしないと、いけないんだよな」

 と、八戸は、いった。


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