第44話 聖剣を掲げる虚栄
「ねえ、ルーナ。ユニーク武器って、珍しいだけなの? それとも、何か特別な能力があるの?」
「う~ん。ユニーク武器だからって、必ずしも強いわけじゃないよ~」
「……そうなの?」
「うん! 普通の武器とは違って、その武器だけが持っている特別な性質があることも多いんだよ~。だから、使い方によっては面白いことになるかもね~!」
「使い方によっては、ね……」
私はもう一度、手元の剣を見つめた。
確かに、ほかにはない特別な武器なのかもしれない。けれど、説明文に書かれているのは、敵を欺くための罠としての使い方ばかりだ。
(結局、まともな武器としては期待できそうにないわね……)
期待していただけに、残念だ。
「まあ、せっかく手に入れたんだし、大切に保管しておきましょうか」
そう言って剣を置こうとしたとき、骸骨兵士たちの並ぶ列から、カタッ、カタッと骨の触れ合う音が聞こえた。目を向けると、一体の骸骨兵士がこちらに向かって歩いてくる。
ほかの骸骨兵士たちは相変わらず微動だにせず命令を待っているのに、その一体だけは違っていた。背筋を伸ばし、まるで自分こそが彼らの中で最も優れた存在だと言わんばかりに、堂々と胸を張っている。
(……また、この子なのね)
私はその姿を見て、思わず苦笑した。
骸骨兵士の中で唯一のユニーク個体。固有のユニークスキル『虚栄』を持ち、なぜか自分を特別な存在だと信じて疑わない骸骨兵士だ。
そんな骸骨兵士が、私の手元にある剣をじっと見つめていた。
「……もしかして、この剣が気になるの?」
問いかけると、骸骨兵士は大きく頷き、ゆっくりと自分の胸に手を当てた。どうやら、自分にこそ相応しい武器だと言いたいらしい。
「ふ~ん?」
ルーナが興味深そうに、その骸骨兵士と剣を交互に見比べた。
「アトラちゃん、その子に持たせてみたら~?」
「え? でも、これって罠に使うような武器なのよ?」
「いいじゃない~。せっかく欲しそうにしてるんだから!」
「……まあ、どうせ使い道ないし……いいか」
私は少し迷ったあと、骸骨兵士に剣を差し出した。
すると、その骸骨兵士は両手で恭しく剣を受け取った。
そして、すぐさま剣を高々と掲げる。
まるで、ついに自分に相応しい至高の武器を手に入れたとでも言うように。
「…………」
「…………」
「……なんだか、ずいぶん気に入ったみたいね」
「えへへ~。よかったね~!」
ルーナは楽しそうに笑っていた。
私は改めて、その骸骨兵士の姿を眺めた。
(まあ、本人が気に入ったのなら、それでいいのかしら……)
……ただ、罠に使うことを推奨されたレプリカの聖剣を、そこまで誇らしげに掲げられると、少し複雑な気分になる。
◇◇◇
「……そういえば、ルーナ」
「なぁに~?」
「この子たちにも名前をつけてあげない?」
私はルーナに視線を向けた。
「私、ルーナにに名前をつけてもらって、水魔法とか使えるようになったじゃない。 だったら、この子たちにも名前をつけてあげれば、新しいスキル増えて戦力の補強になるんじゃないかしら」
特に、これから防衛戦が控えているのだから、少しでも戦力を増強しておきたい。
けれど、ルーナは珍しく困ったように首を傾げた。
「う~ん……それはちょっと難しいかな~」
「どうして? 名前をつけるだけじゃないの?」
「ううん。名付けって、ただ名前をつけることじゃないんだよ~」
ルーナは少しだけ真面目な表情になった。
「名付けっていうのは、その子が自分の配下にするっていうことなの。だから、名前をつける側も、名前をもらう側も、心の底から相手を認めていないと成立しないんだよ~」
「……相手を認める?」
「うん。ただ名前をつけたいとか、強くしてあげたいって思うだけじゃ駄目なの。ちゃんと相手を自分の配下として受け入れて、相手も自分を認めてくれないとね~」
「なるほど……」
私は少し考え込んだ。
「じゃあ、私があなたに名前をつけてもらったときも、そうだったの?」
「そうだよ~!」
ルーナは嬉しそうに頷いた。
「でもね、たぶんアトラちゃんの場合は、ちょっと特殊だったんじゃないかな~?」
「特殊?」
「だって、最初に会ったときのアトラちゃんは、わたしのことを家賃の代わりにお世話する相手だと思ってたでしょ~?」
「……まあ、そうね」
私は苦笑した。
「ここに住ませてもらう代わりに、家賃分のお手伝いをするって約束したのよね」
「そうそう~。最初は嫌がってたよね~」
「当たり前でしょう。何もしないあなたの分まで、全部私がやるんだから」
「えへへ~。でも、結局いっぱいやってくれてるよね~」
「それは……」
言い返そうとして、言葉に詰まった。
確かに、今では食事の用意から身の回りの世話まで、すっかり私が担当している。
「たぶんね、アトラちゃんはわたしのお世話をしなきゃいけないって思っていたから、それが配下としての自覚みたいなものにつながったんじゃないかな~?」
「配下としての自覚……?」
「うん。最初は家賃の代わりだったかもしれないけど、私の面倒を見るのは自分の役目だって、アトラちゃん自身が受け入れてくれてたでしょ~? 私もアトラちゃんを自分の配下として迎えたいと思っていたし、そういう気持ちが重なったから、名付けが成立したんだと思うよ~!」
「なるほど……」
最初は、ただ自分の居場所を確保するための約束だった。
けれど、いつの間にかルーナの世話を焼くことが当たり前になっていた。
食事を用意して、一緒に過ごして、ときにはルーナに助けられて。
(……確かに、今さらルーナのいない生活なんて考えられないわね)
「それにね、名付けっていうのは、名前をつける側だけの気持ちじゃ駄目なんだよ~。名前をもらう側も、相手を自分の主として認めて、配下になることを受け入れていないといけないの」
「つまり、お互いに相手を認めていないと成立しないってことね」
「そういうこと~!」
「じゃあ、私が名前をつけたいと思っても、相手が認めてくれなかったら駄目なのね」
「うん。無理やり名前をつけることはできないんだよ~」
私は骸骨兵士たちの方へ視線を向けた。
「でも、私の場合は名前をつけてもらったあと、水魔法とか、いろんなスキルが使えるようになったじゃない? この子たちにも同じようにスキルをつけてあげられたらと思ったんだけど……」
「あ、それはちょっと違うよ~」
「え?」
「名付けをしただけで必ずスキルが増えるわけじゃないよ~。それに、名前をつけるのは強くするためじゃないからね~」
「……そうね。少し目的を履き違えていたわ」
私は苦笑した。
戦力の補強になるかもしれない。そんな打算が先に立っていたけれど、本来の名付けはそういうものではないらしい。
「じゃあ、この子たちの中で名付けができそうなのは誰なの?」
「う~ん……」
ルーナは骸骨兵士たちを見渡した。
「たぶん、あの『虚栄』を持ってるホネホネさんかな~」
「やっぱり、この子なのね」
私は先ほど聖剣エクスカリバーのレプリカを渡した骸骨兵士に目を向けた。
その骸骨兵士は、相変わらず剣を高々と掲げている。
「ほかのホネホネさんたちは、私たちの命令に従ってくれるけど、あれは召喚されたときから決められた命令に従っているだけみたいなんだよね~。自分の意思で私たちを認めているかどうかは、ちょっと分からないの」
「なるほど……」
「でも、あの子は違うよ~。『虚栄』のおかげで自分の意思を持っているし、従属命令にも逆らえるでしょ~? だからこそ、自分で相手を認めることもできるんじゃないかな~」
「確かに、ほかの子たちとは明らかに違うわね」
さっきだって、自分から私のところへやってきて、エクスカリバーのレプリカを欲しがっていた。
あれも、誰かに命令されたわけではない。
「でも、あの子が私たちを主として認めているかどうかは、まだ分からないわよね?」
「うん。そこは実際に確かめてみないとね~」
ルーナはわくわくした様子で、骸骨兵士を眺めた。
「それと、もう一匹いるよ~!」
「もう一匹?」
「コウモリちゃん!」
ルーナは、近くを飛び回っている一匹のコウモリを指差した。
「この子は、わたしたちにすっかり懐いてるでしょ~? アトラちゃんの指にも止まるし、わたしのところにも来てくれるし!」
「そうね。前にカメラを取り付けたときも、名前欲しがってたわね」
「そう、あれは私たちを主として認めてるからこそだったと思う~」
「じゃあ、名付けができそうなのは、この骸骨兵士とコウモリの二匹くらいなのね」
「たぶんね~!」
私は改めて二匹の姿を眺めた。
一匹は、誇らしげに偽の聖剣を掲げる骸骨兵士。
もう一匹は、私たちの周りを楽しそうに飛び回る小さなコウモリ。
(この子たちに名前をつける、か……)
どちらも、ほかの魔物たちとは少し違う存在だ。
せっかくなら、本人たちにも気に入ってもらえる名前を考えてあげたい。
「ふふっ。ちょっと真剣に考えてみようかしら」
「うん! 素敵な名前をつけてあげようね~!」




