第43話 銀色の光
「もう最後の一つね」
私は残った箱を見つめた。
(九つ目で上級武器のミスリルソードまで出たんだもの。さすがに、これ以上の当たりは期待できないわね)
ここまでの結果だけでも十分すぎるほどだ。最後は何が出ても、文句はない。
「それじゃあ、いくよ~!」
ルーナは楽しそうに、最後の箱へ指を伸ばした。
「せーのっ!」
タップした瞬間――。
画面が、銀色の光に包まれた。
「…………え?」
思わず目を見開く。
九つ目の箱からミスリルソードが出たときは、金色の光だった。
けれど、今回は違う。
画面いっぱいに広がる銀色の輝き。無数の光の粒子が渦を巻き、中央に一本の剣のシルエットが浮かび上がっていく。
「わぁ~! すごいすごい! さっきよりもキラキラしてるよ~!」
ルーナが興奮した声を上げる。
やがて、光がゆっくりと収まっていった。
そして、画面に表示されたのは――。
【聖剣エクスカリバー: 150,000,000 PT】
「…………」
「…………」
一瞬、時間が止まったような気がした。
「…………いち、おく?」
数字を何度も見直す。
150,000,000 PT。
「…………えええええええええっ!?」
思わず椅子から立ち上がってしまった。
「ちょ、ちょっと待って!? 一億五千万!? これ、本当に一億五千万って書いてあるの!?」
画面に顔を近づけ、もう一度桁を確認する。
見間違いではない。
何度見ても、表示されている数字は変わらなかった。
(い、いちおくごせんまん……!?)
先ほどのミスリルソードですら45,000 PTだったのに。
その約3,333倍。
もはや、比較することすら馬鹿らしくなるような金額だった。
「ルーナ! これ、すごいわよ! 本当にすごいわ!」
私は思わずルーナの両肩を掴んだ。
「え、そうなの~?」
「そうなの~? じゃないわよ! 聖剣よ、聖剣! それもエクスカリバーよ!?」
「えくす……かりばー?」
「伝説の聖剣の名前よ! こんなものが本当に手に入るなんて……!」
興奮で胸がいっぱいになる。
45,000 PTのミスリルソードですら、十分すぎるほどの大当たりだった。
それなのに、最後の最後で一億五千万ポイントの聖剣が出るなんて。
(ルーナの引き、どうなっているのよ……!)
「ねえ、ルーナ。あなた、もしかしてものすごく運がいいんじゃない?」
「そうなのかな~? えへへ、私、すごい?」
「すごいなんてもんじゃないわよ!」
私は興奮したまま、画面に表示されたエクスカリバーを見つめた。
(これほどの武器なら、どれだけの力を秘めているのかしら……)
ミスリルソードのことなど、すっかり頭から抜け落ちていた。
今の私の頭の中は、目の前の聖剣でいっぱいだった。
そのとき、画面が切り替わった。
──────────────────
【武器ガチャ:結果確認】
・戦闘用メイス ×2
・鉄製の片手剣
・兵士用の長槍
・ハンドアックス
・鉄製ダガー
・鉄製ロングソード
・鉄製バトルアックス
・ミスリルソード
・聖剣エクスカリバー
以上、10個の武器を召喚しますか?
[召喚する]
[キャンセル]
──────────────────
「……召喚するに決まっているでしょう!」
私は迷うことなく、[召喚する]を押した。
すると、テーブルの上に次々と光の粒子が集まり始めた。
戦闘用メイス、片手剣、長槍、斧、ダガー。
十本の武器が、順番に姿を現していく。
九つ目に現れたミスリルソードは、刀身が美しい銀色の輝きを放っていた。装飾も細部まで丁寧に施されており、それだけでも十分に目を奪われる逸品だった。
しかし、最後に現れた剣は、それすら霞んで見えるほどの存在感を放っていた。
銀白色の刀身が光を受けて輝き、柄には精巧な装飾が施されている。
「…………っ!」
思わず息を呑む。
先ほどのミスリルソードも素晴らしかった。けれど、目の前に現れた剣は、その美しさをさらに上回っていた。
すらりと伸びた刀身は、まるで月の光をそのまま閉じ込めたかのように澄み渡り、柄には目を見張るほど精巧な装飾が施されている。
剣全体から漂う神々しさは、ほかの武器とは明らかに一線を画していた。
(これが……聖剣エクスカリバー……!)
私は、ほかの武器には目もくれず、その剣をおそるおそる手に取った。
「すごい……本当にきれい……」
重量は見た目ほど重くない。
「ねえ、ルーナ。これ、すごいわね!」
「…………」
「こんなものが手に入るなんて思わなかったわ! まさか、一億五千万ポイントの武器が出るなんて……!」
私は興奮したまま、剣をルーナに見せた。
すると――。
「…………」
「どうしたの?……ルーナ?」
「……アトラちゃん」
「何?」
「それ、たいした武器じゃないよ」
「…………え?」
思わず、動きが止まった。
「に、偽物ってこと?」
「うん~。多分そう」
「ちょ、ちょっと待って。何を言っているの?」
私は手元の剣を見下ろした。
どう見ても、普通の剣には見えない。
しかも、ショップの表示は間違いなく【聖剣エクスカリバー】だった。
「でも、ほら。ショップにも聖剣エクスカリバーって……」
「う~ん……そう表示されてるのは知ってるけど……」
「だったら、どうしてそんなこと言うのよ?」
「だって、それが召喚された十個の武器の中で一番弱いもん」
ルーナはきっぱりと言い切った。
(……どういうこと?)
私は改めて剣に視線を落とし、スキルを発動した。
「解析!」
ピコン。
半透明のウィンドウが展開される。
┌──────────────────
│ 【対象詳細:聖剣エクスカリバー】
│
│ ・分類:聖剣
│ ・等級:神話武器
│ ・状態:正常
└──────────────────
「……ほら!」
私は表示されたウィンドウをルーナに見せた。
「ちゃんと聖剣エクスカリバーって出ているじゃない!」
「う~ん……」
ルーナは画面を覗き込むと、少しだけ首を傾げた。
「ねえ、アトラちゃん。ちょっと貸して~」
「え? これ?」
「うん。ちょっとだけね~」
私は戸惑いながらも、剣をルーナに手渡した。
ルーナは受け取った剣を、しばらく眺めていた。
それから、刀身にそっと指先を触れさせる。すると、銀色の刀身に、かすかな光が走ったように見えた。
「はい。もういいよ~」
「え? もう?」
ルーナは何事もなかったかのように剣を返してきた。
「これで、アトラちゃんにも分かるよ~」
「……どういうこと?」
私は首を傾げながら、もう一度、剣に向かってスキルを発動した。
「解析!」
ピコン。
表示されたウィンドウを確認した瞬間――。
「…………え?」
思わず、目を疑った。
───────────────
【中級武器:聖剣エクスカリバー(レプリカ)】
【備考】
伝説の聖剣エクスカリバーを模して作られたレプリカ。外見だけなら本物と見紛うほど精巧に作られており、聖剣の名を騙って敵を欺くにはうってつけの一品。敵の注意を引きつける囮や、油断した相手を誘い込む罠としての使用を強く推奨する。
なお、聖剣としての特殊な力は一切備わっておらず、攻撃性能も見た目ほど高くはない。とはいえ、刃はきちんと付いている。もしかしたら、銀の剣よりは切れ味がいいかも?
───────────────
「…………は?」
私は思わず、解析結果を二度見した。
(囮? 罠としての使用を推奨? それに、ただの銀の剣よりは切れ味がいいかもって……)
最後の一文に至っては、もはや説明する気があるのかすら怪しい。
「…………なんで最後だけ疑問形なのよ」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
「ほら~! やっぱり偽物だったでしょ~?」
隣では、ルーナが得意げに胸を張っていた。
「いや、偽物なのは分かったけれど……」
私は手元の剣を見下ろした。
見た目だけなら、先ほどのミスリルソードにも引けを取らないほど美しい。それなのに、説明文では囮や罠としての使用を推奨されている。
(……それにしても、これって結局いくらの武器なのかしら)
最初の表示では150,000,000 PTという、とんでもない金額がついていた。けれど、実際にはレプリカだ。
私は気になって、ショップを開いた。
「ちょっと調べてみましょう」
検索欄に『聖剣エクスカリバー』と入力する。
しかし、画面に表示されたのは――。
【該当する武器はありません】
「……あら?」
今度は『聖剣エクスカリバー(レプリカ)』と入力してみた。
けれど、結果は変わらない。
【該当する武器はありません】
「……どういうこと?」
私は首を傾げ、ルーナに視線を向けた。
「ねえ、ルーナ。この剣、ショップで検索しても出てこないんだけど。そもそも、これって何ポイントの武器なの?」
すると、ルーナはショップのウィンドウを覗き込み、何やら納得したように頷いた。
「うんうん。そういうことね~」
「そういうことって?」
ルーナは私の顔を見て、にっこりと笑った。
「アトラちゃん、おめでとう~!」
「……え?」
「それ、ユニーク武器だよ~!」
「…………ユニーク武器?」
思わず聞き返した。
「うん! 普通のショップには並んでいない、世界で一つだけの武器なの~!」
「えっ、じゃあ、これって……」
「すっごく珍しいものを引き当てたんだよ~! よかったね、アトラちゃん!」
ルーナは嬉しそうに笑っている。
私は改めて、手元の剣を眺めた。
聖剣のレプリカで、中級武器。それなのに、ユニーク武器。
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