第41話 ガチャ?
「……ふぅ。おいしかったぁ~」
ルーナは満足そうにお腹をさすりながら、椅子の背もたれに身体を預けた。
「ごちそうさまでした」
私も箸を置き、空になったアルミホイルの包みを片付ける。
(……アルミホイル、ね)
頭の中をもう一度整理する。
地下の祭壇へ続く階段は、千段を超える長い通路だ。
敵は重厚な金属鎧を身にまとい、その階段を下りてこなければならない。
(まともに正面から戦う必要はないわ。あの階段の長さを利用すれば……)
まだ具体的な仕組みは考えなければならない。けれど、今あるポイントだけでも、十分に撃退できそうだ。
しかも、明日の正午までには、ポイントは5,000 PTを軽く超える。
(でも……すべてがうまくいくとは限らない。保険が必要ね……)
そう考えながら、私はショップ画面を開いた。
「ねぇ、ルーナ」
「ん~?」
「少し相談があるんだけど」
「なぁに~? 夕食のこと~?」
「違うわよ!」
私はため息をついた。
「今いる骸骨兵士たちの装備を整えたいの」
視線を横へ移す。
そこには、相変わらず整然と並んでいる骸骨兵士たちの姿があった。
どの骸骨も、手ぶらだ。『あの個体』だけは、素手でも十分だと言いたげに、ぐっと胸を張っているけれど。
「この子たち、武器を持っていないでしょう? 敵は全身を重厚な金属鎧で固めているし、素手で攻撃してもまともにダメージを与えられないと思うのよ」
「そっか~。じゃあ、剣とか槍を買ってあげようよ~! かっこいいのがいい~!」
「そうね。問題は、その値段なんだけど……」
私はショップの武器カテゴリーを開いた。そこには、剣、槍、斧、メイス、盾、弓と、さまざまな武器が並んでいた。
【鉄製の片手剣:150 PT】
【兵士用の長槍:200 PT】
【戦闘用メイス:300 PT】
(……一本ずつ買っていたら、結構な出費になるわね)
十五体分となれば、二千ポイントは下らない。
(これから他のことにも、ポイントを使うかもしれないもの。できるだけ残しておきたいわ)
何かいいものがないかと、武器の欄をスクロールしていると、画面の端に見慣れない商品が表示された。
──────────────────
【武器ガチャ】
初回限定・10連ガチャ:1,000 PT
・武器10枠確定
・通常ショップ販売価格の合計1,500 PT以上保証
・中級武器以上、1枠確定
・初回購入限定
──────────────────
「…………」
思わず画面をじっと見つめた。
「アトラちゃん、どうしたの~?」
「……ガチャよ」
「がちゃ?」
「何が出るか分からない、運任せの商品よ」
「わぁ~! おもしろそう!」
「面白そうじゃないわよ。何が出るか分からないものに、大事なポイントを使えるわけないでしょう!」
私は即座に画面を閉じようとした。
けれど、その指が止まる。
(……待って)
もう一度、説明文を読み直す。
『通常ショップ販売価格の合計1,500 PT以上保証』
つまり、最低でも購入額の1.5倍相当の武器が手に入るということだ。
(普通に購入するよりお得なのは間違いないわね……。しかも、中級武器が一つは確定)
もちろん、欲しい武器が出るとは限らない。
それでも、最低保証があるなら、完全な運任せというわけでもない。
「……悪くないわね」
「アトラちゃん、買うの~?」
「ちょっと……考えさせて」
私は画面を凝視したまま、腕を組んだ。
(十本じゃ、五体分足りないわね。残りは、出た武器に合わせて買い足せばいいけど……)
武器ばかり増やしても、戦える数は変わらない。何か他に手はないかと画面をめくっていると、別の項目が目に入った。
【魔物関連ガチャ】
「……こういうのもあるのね」
魔物の召喚に関係する商品らしい。
気になって開いてみると、魔物の召喚券だけが排出対象ではないみたいだ。
──────────────────
【魔物関連ガチャ】
初回限定・10連ガチャ:1,000 PT
・魔物関連 10枠確定
・通常ショップ販売価格の合計1,500 PT以上保証
・魔物召喚 1枠確定
・初回購入限定
排出対象
・魔物召喚券
・魔物関連素材
・魔物の餌
──────────────────
(なるほど……魔物そのものだけじゃなくて、関連用品も出るのね)
私はふと、前の下級召喚券の内容を思い出した。
┌───────────────
│ 【下位魔物召喚リスト】
│ ・番犬型ゴーレム(1,500 PT)
│ ・ウッドゴーレム(1,200 PT)
│ ・骸骨兵士(1,000 PT)
│ ・プチデビル(800 PT)
│ ・スライム(500 PT)
│ ・魔導コウモリ(500 PT)
│ ・ゴブリン(300 PT)
│ ・マンドラゴラ(200 PT)
└───────────────
一番安い魔物でも200 PTする。10連ガチャでも、必ず強力な魔物が手に入るわけではない。
(しかも、魔物召喚以外に素材や餌まで含まれているのよね……)
ガチャの詳細によると、魔物召喚が確定するのはたったの1枠だけ。
残りの9枠は、魔物関連の素材や餌が出る可能性があるということだ。
(……ちょっと待って。これ、かなり紛らわしい売り方じゃない?)
しかも、最低保証の1,500 PTというのも、10枠すべての販売価格を合計したものにすぎない。
極端な話、200 PTのマンドラゴラ一体と、残りの9枠が素材や餌ばかりだったとしても、合計で1,500 PT相当になれば保証の条件は満たされてしまう。
(初回限定10連に、1,500 PT以上保証……。一見お得に見えるけど、これって実質、魔物が一体しか手に入らない可能性もあるのよね)
「……これ、詐欺みたいな売り方ね」
思わず本音が漏れた。
「え~? でも、魔物さんが出るんでしょ~?」
「そうだけど、欲しい魔物が出るとは限らないでしょう? 今回は見送るわ」
私は呆れながら、魔物関連ガチャの画面を閉じた。
やっぱり、魔物を増やすよりも、今いる十五体の骸骨兵士を活かす方がいい。
……ただ、もう一つ確認しておきたいことがあった。
「ねぇ、ルーナ。ちょっと聞いてもいい?」
「なぁに~?」
「あなた、前に魔法の威力を細かく調整するのが苦手だって言っていたでしょう?」
「うん~。そうだよ~」
「例えばなんだけど……最初から最小限の火力で、小さな火球を作ることはできる?」
「小さな火球~?」
ルーナは少し考えるように首を傾げた。
「う~ん……それならできるよ~」
「えっ、本当に?」
「うん。大きな火球を弱くするのは苦手だけど、最初からちっちゃな火を作ることならできるもん」
ルーナは楽しそうに指を振った。
すると、彼女の指先に、小さな炎が灯った。
「ほら~。これくらいなら平気だよ~」
炎は小さく揺れながら、ルーナの指先に浮かんでいる。
(……なるほど。大きな魔法の威力を弱めることはできなくても、最初から小さな火を作ることはできるのね)
「ちなみに、それを同時にたくさん作れたりする?」
「全然簡単だよ。いくらでも作れるよ~」
「そう……」
私はもう一度、地下へ続く長い階段を頭の中に思い浮かべた。
千段を超える階段。重厚な金属鎧。そして、限られたポイント。
(……これなら、いけるかもしれない)
まだ確認しなければならないことは多い。けれど、少なくともルーナの魔法を作戦に組み込める可能性は見えてきた。
「よし。少しずつ形になってきたわね」
「えへへ~。私も明日お手伝いできそう~?」
「ええ。明日の防衛戦は、ルーナの力が必要よ」
「わぁい! 頑張る~!」
嬉しそうに両手を上げるルーナを見て、私は小さく微笑んだ。
あとは、骸骨兵士たちの装備ね。
私は再びショップ画面を開き、最初に見つけた武器ガチャへと視線を戻した。
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