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第4話 甘い誘惑

(これだわ……!)


購入ボタンを押した瞬間、目の前に小さな光の粒子が舞い、洒落た箱が現れた。


『高級チョコレート詰め合わせ:10 PT』


10 PT。生成ポイントでいえば、わずか6分に相当する。この城のポイント事情を思えば、勇気のいる出費だけど───必要経費、必要経費。


手のひらサイズの、紺色の箱だった。金色のリボンがかかっていて、持ち上げただけで、ほのかに甘い香りがもれてくる。


私は箱の蓋を開け、一粒をつまみ取った。そして、ベッドで完全に寝入りかけているルーナに向かって、静かに一歩を踏み出した。


「……ルーナ」


「んぁ……なにぃ……? いっしょに寝るの……?」


「ルーナ、ポイントの上限解放しに地下行きましょ」


「えぇー……、めんどうくさい……寝るーーー」


「はぁー、ルーナこれを食べても、まだ寝ていられるかしら?」


「ええ〜……なに……むぐっ!?」


抵抗する間もなく、私はルーナの口の中にチョコレートを強引にポイッと放り込んだ。


「んむぐっ……!? なに……ひとの口にヘンなもの入れ……っ!?」


モグモグと噛んだ瞬間、ルーナの身体がビクッと跳ね上がった。


「……っ!?!?!?」


真っ赤なルビー色の瞳が、カッと見開かれる。


「な、なにこれぇぇぇ……!? 甘くて、とろけて……こんなの食べたことない……!!」


あまりの美味しさに、瞳をうるうると輝かせるルーナ。


「ふふん、チョコの味に驚いた? 今のはほんの挨拶代わりよ」


「あいさつ、これで、あいさつ……!?」


ルーナは信じられないものを見る目で、私の手の中の箱を凝視した。


「ほかにも、あるの……?こんなのが、まだ……?」


「えぇ、箱の中にもたくさんね」



「もっと!もっと頂戴! その箱の中身のチョコ全部食べたい!!」


「だーめ! これから地下に行って上限解放を終わらせたら、このチョコ全部あげてもいいわ!」


「……!! ホントに……!?」


「ええ、本当よ! だけど、上限を解放しなきゃ、4日後に敵に攻め込まれてチョコどころじゃなくなるわよ!」


ルーナはチョコの箱とふかふかのベッドを交互に見比べた。

チョコレートか、眠気か。二つの誘惑がルーナの中で激しくぶつかり合っているのが、手に取るようにわかる。


(……まぁ、勝負は見えてるんだけど)


長い、長い数秒の沈黙の後──


「行く!! 地下行くーーー!! 私のチョコのためにーーー!!」


あれほどベッドから動こうとしなかったルーナが、自ら勢いよくベッドを飛び出した。


そして案の定、「クラクラする……」と、ぐにゃりと倒れかけた。


(現金なやつ……!!)


呆れつつも、やる気ゼロだったルーナを動かすことに成功した。


「倒れないで立ちなさい! 行くわよ、地下の祭壇へ!」


◇◇◇


寝室を出ると、私たちはルーナを先頭に長い廊下を進んだ。

壁の蝋燭はどれも火が消えていて、窓から差し込む月明りだけが、足元を青白く染めている。


人の気配がまるでない。これだけの広さの城にたった二人きり。改めて思うとぞっとするほど静かな場所だった。


かなり歩いたその先に、ずっしりとした雰囲気を纏う扉が現れた。



扉を押し開けると、そこには吸い込まれそうなほどの漆黒と、地下へと続く石造りの階段が伸びていた。


「暗っ……足元が全然見えないわね」


「うぅ〜……まどろっこしいなぁ……チョコが遠ざかる……」


ルーナがだるそうに指先をかかげた。

すると、彼女の指先から鮮やかな真紅の光球がふわりと浮かび上がり、階段を明るく照らした。


(あ、やっぱりこの世界……魔法とか普通にあるのね)


「照明よし! チョコへ向かって突撃ーーー!!」


「ちょっと、チョコじゃなくて祭壇でしょ!?」


ルーナは頭上に赤い光を浮かべたまま、猛スピードで階段を駆け降りていった。


「あ、待ちなさいって……っ!」


速い。一応、私が置いていかれないようにチラチラ振り返って少し速度を落としてくれているようだが、それでもついていくのが限界だ。


カツン、カツン、と石の階段を叩く私たちの足音が、暗闇の奥へと吸い込まれていく。

下へ行けば行くほどひんやりとした冷気が肌を刺し、空気が重くなっていくのが分かった。


(どこまで続くのよ、この階段……!)


「ルーナ、もっと光を足元に向けて! 踏み外しそうなのよ!」


「えぇ〜、大丈夫だよ〜! 私の鼻にはもう、チョコの甘い香りが届いてる気がするもん!」


「届くわけないでしょ! 気のせいよ!」


頭上の赤く揺れる光を追いかけながら、必死に脚を動かす。


「はぁ、はぁ……っ!!」


呼吸が乱れ切った頃。

ようやく階段の終わりが見え、私たちの眼前に重厚で巨大な石造りの大扉が現れた。


ずっしりとした威圧感を放つ扉の表面には、複雑な魔法陣のような刻印が刻まれている。

ここが、おそらく城の地下深部――『祭壇』の入口だ。

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