第30話 お買い物は計画的に
骸骨兵士たちが雑巾を手に去っていくと、寝室はようやく静かになった。
さっきまで窮屈だった寝室が嘘みたいに広く感じる。カタカタという足音が遠ざかっていくのを聞きながら、私は小さく息をついた。
「さて。作戦会議の続きをしましょうか」
ベッドに腰を下ろし、インベントリから『トラップ×10』を呼び出す。ルーナも抱き枕を抱えたまま、横から画面をのぞき込んできた。
「鳴子は、もういらないわね。コウモリたちが城の外を見張ってくれてるし、城の中には骸骨兵士たちもいるもの」
「そうだね〜。教えてくれる子がいるなら、いらないかも〜」
「じゃあ、残りは落とし穴、粘着床、煙幕噴射器、転移板ね。……でも、その前に」
指先で画面をなぞっていた手を止めて、根本的なことに気づいた。
「ねぇルーナ。そもそも、防衛戦って、どうなったら終わりなの? ルールがあるんでしょう?」
「うん。多分ね〜、太陽が一番高くなったときに始まって、沈むまでに決着がつかなかったら、守った側の勝ち。あとは、どっちかが戦闘不能になるか、降参するか、だったと思う〜」
「……ってことは、半日ってところね」
私は顎に指を当てて、考え込んだ。
(勝つ方法は三つ。耐えきるか、全員を戦闘不能にするか、降参させるか。ルーナは魔法を使わないから、相手を倒すのは現実的じゃない。なら、狙うべきは……)
そこで、もう一つ確認しておきたいことが浮かんだ。大事なことだ。
「ルーナ、確認なんだけど」
「なぁに〜?」
「ルーナが誰も殺さないのはもちろんだけど、私も魔物たちも誰も殺さない。……それでいいわね?」
ルーナは、ぱちぱちと瞬きをして、私の顔を見つめた。それから、ふわりと、嬉しそうに笑った。
「うん。それがいい〜」
「……よかった」
ほっとして、肩の力が抜ける。
(まぁ、私も相手を殺す覚悟なんて、ないんだけど)
「じゃあ、狙うのは、耐えきるか、降参させるかね。つまり、時間を稼げば稼ぐほど、こっちが有利ってこと」
「そうそう〜。さすがアトラちゃん〜」
「でも、半日も稼げる罠なんて、あるのかしら……。ねぇ、もし私たちが、半日ずっと逃げ続けたら、どうなるの?」
「逃げ切ったら、耐えたことになるよ〜。私たちの勝ちだね〜」
「へぇ、逃げてもいいのね」
それなら、戦場を古城全体に広げる必要はない。守る場所を一か所に絞って、そこへ続く道を、罠でびっしり埋めれば――。
「決まりね。決戦のとき、私たちがいるべき場所は、地下の祭壇よ」
「えぇ〜……」
ルーナの顔が、みるみる曇っていった。
「アトラちゃん。またあの階段、くだるの〜? めんどうくさい〜……」
「そんなこと言ってられないでしょ」
「だって、あの階段、すっごく長いんだよ〜」
「だからいいのよ」
私は、ぴしゃりと言い切った。
「長い階段は、敵にとっても長いの。しかも、地下へ向かう一本道。横道も、逃げ場もない。罠を仕掛けるなら、これ以上の場所はないわ」
「トラップの中身は、これからゆっくり考えましょう。階段に仕掛ける、ってことだけ決めておけばいいわ」
「はーい〜」
方針は決まった。あとは、何をどう置くかだ。そこは、時間をかけて考えたい。
ふと、別の心配が浮かんできた。
「……ただ、敵がいつ、どこから、どれくらいの数で来るのか、前もって分かればいいんだけど」
「コウモリさんたちが、見てくれるんでしょ〜?」
「そうなんだけど、コウモリが見たものを、私たちが直接見られるわけじゃないのよね。戻ってきて、鳴き声で報告してもらうしかなくて……」
そこで、思いついた。
「あぁ、そうだ。コウモリに、カメラをつけられないかしら」
「かめら〜?」
「小さな機械で、見たものを映像にして残してくれるの。それをパソコンの画面で見られれば、敵の動きが丸わかりよ」
「ぱそこん〜?」
「地球の道具よ。ショップに、売ってるはず」
私は検索欄に、『カメラ用品』と打ち込んでみた。
──────────────────
・カメラ(小型・SDカード式) 30 PT
・SDカード(64GB) 5 PT
・ノートパソコン 1,000 PT
──────────────────
「うーん、結構するわね……。あ、でも待って。パソコンを買ったところで、電気がないと動かないじゃない。この城に電気なんて通ってないでしょ?」
「でんき〜?」
「雷みたいな力を、道具に流すの。地球の機械は、だいたいそれで動くのよ」
私は、画面を切り替えて、『発電』と検索した。
──────────────────
・ソーラーパネル(100W・折りたたみ式) 600 PT
・ポータブル電源(小容量) 500 PT
──────────────────
「アトラちゃん、これ何~」
「太陽の光で、電気を作って、こっちの箱に貯めておけるの。パソコンを使うのは、一日に一時間くらいで十分だから、この大きさなら足りるはずよ」
「へぇ〜。お日様の力を、箱に入れておけるんだ〜」
「そう。使いたいときだけ、箱から電気を出すのよ」
ここまでをまとめると、こうなる。
──────────────────
【偵察システム】
・カメラ(小型・SDカード式) 30 PT
・SDカード(64GB) 5 PT
・ノートパソコン 1,000 PT
・ソーラーパネル(100W) 600 PT
・ポータブル電源(小容量) 500 PT
合計:2,135 PT
──────────────────
「でも、どうやってこれ使うと相手の情報、わかるの〜?」
「そこなのよ」
私は、指を一本立てた。
「カメラは、見たものを映像にして残してくれる機械なの。その映像を、カードみたいな小さな板に覚えさせておけば、あとで取り出して、パソコンで見られるわ」
「見たものを、覚えておく板なんだ〜」
「そう。SDカードっていうの。小石ぐらいの大きさだけど、映像がたくさん入るのよ」
「へぇ〜」
「本当は、電波で映像を飛ばして、今起きていることをそのまま見られたら、いちばん便利なんだけどね。ただ、届く距離が短いから、城の外まで飛ばすには、中継機っていう別の機械がいるの」
「それも、お高いの〜?」
「ええ。だから、まずは一番簡単な方法で試すわ。コウモリが戻ってきたら、カメラからカードを取り出して、パソコンで見る。その場で見られないけど、仕組みが単純で、確実なの」
「なるほど〜。戻ってきてから見るんだ〜」
「そう。うまくいったら、今起きていることを見る方法を考えればいいわ」
画面を閉じて、ふぅ、と息をつく。
「……ずいぶん考えたわね」
「アトラちゃん、お疲れさま〜。……ねぇ」
「なに?」
「私、お腹すいちゃった〜」
窓の外は、いつの間にか、うっすらと茜色に染まっていた。
お読みいただきありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけましたら、ページ下の【★評価】や【ブックマーク】で応援していただけると嬉しいです!




