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第29話 「ホネホネさんだ~」

迷うことなく[YES]のボタンを押した。


【下級魔物召喚券20枚の引き換えを確認。20体の魔物を『召喚者の周辺』へ召喚します】


「……え? 周辺って――」


そのとき。寝室全体が青白い光に覆われた。


床に細い光の線が、急速に広がっていく。やがて複雑な模様を刻みながら、幾重もの円を形作っていった。


「……魔法陣?」


ひとつ、またひとつ。寝室の床のあちこちで、青白い光の円が灯っていく。私は思わず一歩後ずさった。


最初に出現した魔法陣から、白い骨が現れる。まずは足先。次に膝、腰、胸、肩へと順に組み上がり、最後に目の部分へぽっかりと穴の空いた頭蓋骨が乗った。


カタ、カタと乾いた音を立てて、1体の骸骨兵士が現れた。


(……本当に、出てきたわ)


呆然と見つめる私の前で、その骸骨兵士はゆっくりと首を回し、こちらを向いた。それから――ピシッと音が出そうな勢いで、こちらに敬礼してみせた。


(……え、挨拶? ちゃんとしてるのね)


そんなことに感心している間にも、召喚は止まらない。2体、3体、4体……。気がつけば、ベッドの周りをずらりと骸骨兵士が取り囲んでいた。


「ちょ、ちょっと待って……!」


昼間ならともかく、夜なら完全にホラー映画のワンシーンだ。

だが、彼らは襲ってくる気配もなく、ただ行儀よく整列して私の指示を待っている。


(召喚された魔物はちゃんと私たちのことを主だと思ってくれるのね)



挿絵(By みてみん)



安堵したその時だった。天井からバサバサと羽音が響く。


顔を上げると、天井近くで小さな三体の魔導コウモリが、くるくると円を描いていた。


足元でも、何かがぷるん、と揺れた。


見下ろすと、青く透き通った塊が二つ、ぷるぷると震えている。スライムだ。


「……あなたたちも、ここに出るのね」


彼らから返事はないけれど、二体のスライムはどこか嬉しそうに、ぷるぷると私の足元へ身を寄せ合ってきた。


やがて、魔法陣がひとつ、またひとつと消えていき、部屋に静けさが戻った。


改めて室内を見回してみる。


整列した骸骨兵士が15体。天井を旋回するコウモリが3体。足元で身を寄せ合うスライムが2体。


計20体。


広々とした寝室が魔物で埋め尽くされ、圧迫感がすさまじい。


「……全員、ここに召喚されたわけね」


思わず声が漏れた。


そのとき──ベッドの方から、ぽつりと小さな声が聞こえた。


「……わぁ」


振り返ると、ルーナがベッドの上に座ったまま、目を丸くして部屋を見回していた。さっきまで呆れ顔だったのに、いつの間にか、ルビー色の瞳がきらきらと輝いている。


「……すごい。いっぱいいる」


ぽつりとつぶやくと、ルーナは布団からすごい勢いで出ると、そのまま一気にいちばん近くにいた骸骨兵士の前まで突進していった。


骸骨兵士は少し困ったように首をかしげたが、ルーナは無理やりその手を奪い取ると、上下にぶんぶんと振り回した。


カタ、カタ、と骨が鳴る。


「……あ。カタカタいってる〜!」


ぱっと顔を上げたルーナが、私を振り返った。


「見て見てアトラちゃん! ホネホネさんの手を握ったら、カタカタいってるよ〜!」


(カ……カタカタカタカタッ……!?)


ルーナに強烈な力で手を振り回されている骸骨兵士は、困惑したように助けを求めて私に視線を投げていた。可哀想に、骨なのに冷や汗が見える。


「ちょっとルーナ! その子、困ってるから手を離しなさい」


「えぇ〜? だって可愛いんだもん〜」


ルーナが頬をぷくーっと膨らませる。


見かねた私が割り込んでルーナの手を引っ剥がすと、解放された骸骨兵士は安堵したように胸を撫でおろす動作を見せ、コソコソと列の後ろへ引っ込んでいった。


(骸骨兵士って、こんなに感情豊かなのね)


ルーナはまだ名残惜しそうに、今度は足元のスライムを指でツンツンとつついている。


スライムは嬉しそうにぷるぷると揺れている。


「わぁ〜、ぷにぷにしてて冷たくて気持ちいい〜」


「ちょっとルーナ、手、溶かされたりしないでしょうね……?」


「大丈夫だよ〜」


そう言って、ルーナをスライムを抱きかかえ始めた。


広い寝室とはいえ、魔物20体とルーナが戯れる空間はカオスそのものだ。


(……だめだわ。この空間に呑まれてたら、いつまで経っても終わらない!)


「……よし。いつまでも遊んでないで、そろそろこの子たちの『役割』を決めないとね」


パンッ! と手を叩いて仕切り直すと、ルーナは「え〜」と名残惜しそうにしながらも、スライムを離した。


「まずは魔導コウモリ3体。あなたたちは城の周囲と上空の偵察ね。何か異変がないか監視しなさい」


「きゅいっ!」


コウモリたちは高く一鳴きすると、開いた窓から外へと飛んでいった。


「次にスライムは1階と2階のフロアに1体ずつ配置して、落ちているゴミの処理や、床の汚れの吸収を担当しなさい」


ぷるんと一揺れして、スライムたちも従順に部屋の外へと出ていく。


「そして最後は、骸骨兵士15体。あなたたちには城内の巡回と……徹底的な清掃をやってもらうわ! 1階は8体、2階は7体で担当しなさい!」


私は近くにあった雑巾を手に取り、床に膝をついて見せた。


「いい? 雑巾はこうやって両手でしっかり持って、体重をかけながら前へ押すの! 廊下の隅々までピカピカに磨き上げるのよ!」


命令を受けた骸骨兵士たちは、カチャカチャと音を立てて一斉に動き出した。


14体の骸骨兵士たちは、一切の感情を見せない。完璧な作業機械のように黙々と雑巾を受け取ると、何の反応も示さず、命令に従って寝室の外へ向かい無感情に床を拭き始めた。


文句も言わなければ、楽しそうにも辛そうにもしない。まさに無機質な兵隊だ。


……だが。


「……ちょっと、あなた何やってるの?」


1体だけ、明らかに異彩を放っている個体がいた。


さっきルーナに手を振り回されて冷や汗を流していた、あの骸骨兵士だ。


そいつは私の雑巾がけのレクチャー中、なぜか偉そうに骨の腕を組み、『フムフム』と知的な雰囲気を出しながら深く頷いていたのだ。あたかも自分だけは現場監督であるかのように。


「あなたもちゃんと掃除しなさい!」


私が指を差して注意すると、その骸骨兵士はビクッと体を跳ねさせ、慌てて雑巾をひったくると、急いで拭き掃除に取り組み始めた。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


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