↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/46

第25話 城防衛基本セット

「ほんとよ。ほら、見なさい」


私が画面をルーナの顔の前まで引き寄せると、とろんとしていたルビー色の瞳が、数秒かけてゆっくりと焦点を結んだ。


「……ほんとだぁ。15,000 PTって書いてある〜……」


「でしょ? これでようやく城防衛基本セットが買えるのよ」


「そっか〜……よかったねぇ、アトラちゃん……」


そう言うと、ルーナはふにゃりと笑って、そのままシートの上へ崩れ落ちた。


「ちょっと! 寝直さないの!」


「だってぇ……お日様、あったかいんだもん……」


「さっきまで『お布団が呼んでる』って言ってたのは誰よ。ほら、起きて起きて」


肩を揺すっても、ルーナは「うぅ〜」と唸りながら、猫のように丸まるばかりだ。


「ほら、早く起きて!置いていくわよ」


「アトラちゃん。おんぶして~」


「はぁー……本当にもう、しょうがないわね。……階段の手前までだからね? 階段は自分で上がりなさいよ」


「はぁーい」


私は小さく溜め息をつきながら背中を向けて屈むと、ルーナは待ってましたとばかりに首元へ抱きついてきた。


「へへ〜、アトラちゃんの背中、落ち着く〜……」


「はいはい、揺らさないの」


私はピカピカに磨き上げた真っ白な石畳を踏みしめながら、古城の玄関へと向かった。


重厚な大扉を押し開けて城内に入り、階段の前まで進む。


「ほらルーナ、階段に着いたわよ。降りなさい」


「う〜ん……あともうちょっとだけ〜……」


「だーめ。約束でしょ」


耳元で甘えるようにすりすりと頭を寄せてくるルーナの頬を軽く突っつき、階段の手前で背中から降ろす。


ルーナは「ぶー……」と口を尖らせつつも、渋々といった様子で手すりを掴み、パタパタと自分の足で階段を登り始めた。







◇◇◇


二階へと上がり、ルーナの寝室へと戻ってくる。


「ふはぁ〜……やっぱりお部屋が一番だね〜」


部屋に入るやいなや、ルーナは吸い込まれるように巨大なベッドへダイブし、抱き枕をぎゅっと抱え込んだ。


「……いよいよね」


私が呟きながら空中で指先を滑らせると、視界の端から半透明のショップ画面が青く浮かび上がってきた。


画面の右上には、保有ポイントの数字が表示されている。


【現在の保有ポイント】:15,020 PT


「よし……ちゃんと足りてるわ」


検索欄に『城防衛基本セット』と打ち込む。

画面が一瞬スクロールし、お目当ての商品が中央に大きく映し出された。


┌───────────────

│ 【ショップカテゴリ:防衛・設備】

│ 『城防衛基本セット』

│ 価格:15,000 PT

│

│ 【セット内容】

│ ・防衛用魔導障壁 ×1

│ ・自動迎撃タレット ×4

│ ・トラップ ×10

│ ・下位魔物召喚券 ×20

└───────────────


「……15,000 PT」


改めてその金額を文字で見ると、指先が止まった。


今の生成量は大掃除のおかげで毎時200 PTまで増えた。とはいえ、15,000 PTといえば約75時間分――丸三日分以上の価値がある。


(ショップでもっと安くていいの探すべき?……くっ、貧乏性が……っ!)


指が『購入確定』のボタンの上で、ぷるぷると小刻みに震える。


「アトラちゃ〜ん? なんで固まってるの〜? ボタン、ポチッてしないの〜?」


ベッドの上から、抱き枕に顎を乗せたルーナが不思議そうに覗き込んできた。


「……あなたねぇ、15,000 PTよ!? ここまで貯めるのにどれだけ苦労したと思ってるの! これを押したら、一気に残高が20 PTになっちゃうのよ!?」


「えぇ〜? だって、防衛セット買わないと敵が攻めてきた時に困るんでしょ〜?」


「それはそうだけど……! でも……でもっ……!」


躊躇する私を見て、ルーナはふふっとおかしそうに笑うと、ベッドから身を乗り出して小さな手を伸ばしてきた。


「じゃあ、私がおしてあげるね〜」


「ちょっと待ちなさ――!?」


私の制止の声も虚しく、ルーナの指が『購入確定』のボタンを躊躇なくポチッと押し込んだ。


「あぁぁぁぁぁぁっ……!? 押しちゃったぁぁぁ!!」


視界の端で、誇らしげに輝いていた『15,020 PT』の表示が、一瞬で『20 PT』へと激減する。


(あぁぁ……私たちの三日分の苦労が……血と汗と雑巾がけの結晶が……っ!)


残高『20 PT』というあまりにも寂しい数字を前に、私は膝から崩れ落ちそうになった。


「えへへ〜。迷ってるアトラちゃんも可愛かったけど、これでスッキリしたでしょ〜?」


当の犯人は、抱き枕を抱え直して、満足そうにふにゃりと笑っている。


「 はぁ、でも……買っちゃったものは仕方ないわね……」


胸を押さえて深呼吸を繰り返すと、目の前のシステム画面がまばゆい青い光を放ち始めた。


ピコン!


──────────────

【通知:設備配置完了】

・古城全体に『防衛用魔導障壁』が展開します。

・『自動迎撃タレット×4』を四方角に設置します。


【使用権を入手】

・トラップ ×10

・下位魔物召喚券 ×20

──────────────


――ゴゴゴゴ……ッ!


「……!? なに!?」


突然、古城全体が重低音とともに微かに揺れ、窓の外が青白い光で包まれた。


「あ、なんか外が光ってる〜」


私は慌てて立ち上がり、窓辺へと駆け寄って外を見下ろした。


そこには、崩れかけていた城壁の四隅からにょきりとせり出した、金属質の銀色の砲台――自動迎撃タレットの姿があった。さらに、古城全体を包み込むように、淡く発光する半透明の膜がドーム状に広がりつつある。


(すご……一瞬で設置完了しちゃったわ……)


圧倒的な光景に息をのんでいると、システム画面が点滅していることに気づいた。


画面上には、自動配置されなかった『トラップ×10』と『下位魔物召喚券×20』のカードアイコンが並んでいる。


(なるほどね……障壁やタレットみたいな大型設備はシステムが自動で配置してくれるけれど、トラップや召喚魔物は、自分たちで好きなときに使えるってわけね)


「ルーナ、見なさい! お城の周りにバリアと砲台がついたわよ!」


「ほんとだ〜。大きなクラゲのカサみたい〜」


「クラゲって……まぁ、守られてる感はあるわね。これで古城の基本的な防御力は一気に上がったわ」


ピコン──!


先ほどとは違う、少し重みのあるシステム音が鳴り響いた。


┌───────────────

│ 【通知】

│ 『城防衛基本セット』の購入を確認。

│

│ 技術ツリー『防衛系統』が解放されました。

└───────────────


「……技術、ツリー?」


見たことのないウィンドウが展開され、枝分かれした線で結ばれた無数の項目が浮かび上がる。


まるでゲームの研究ツリーそのものだ。タレットの射程強化や新しい罠の開発など、魅力的な項目がぎっしり並んでいる。まだ解放条件を満たしていないのか、黒塗りになっていて、中身のわからないものも多い。


だが、各項目の解放に必要なコストに目をやった瞬間、私は冷静になった。


(……どれも開放するのに数千PT必要なのね。……今の私たちには、完全に宝の持ち腐れだわ)


画面をひと通り確認した私は、フッと息を吐いて技術ツリーのウィンドウを静かに閉じた。


「将来的な強化には役立ちそうだけど……今の残高じゃ手も足も出ないわね。これの確認はポイントが溜まってからにしましょう」


「え〜? 見ないの〜?」


「ええ。今の私たちに必要なのは、せっかく手に入れた『トラップ10個』と『下位魔物召喚券20枚』をどう使うかよ」


私はベッドの上でゴロゴロしているルーナを振り返り、ニヤリと口角を上げた。


「さあ、ルーナ。まずは作戦会議を始めるわよ!」


お読みいただきありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけましたら、ページ下の【★評価】や【ブックマーク】で応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。