第24話 ピクニック
「さてと……お昼ご飯、どうしましょうか」
バケツや雑巾などの掃除道具を隅に手早く片付けた私は、腕を組んでうーんと悩んだ。
二、三時間もぶっ通しで体を動かしたおかげで、お腹はペコペコだ。
(……ショップの『デイリー生活PT』を使いましょう)
視界の端にシステムウィンドウを呼び出す。
今朝の朝食で使ったのは6 PT。毎朝補充される20 PTのうち、残っているのは14 PTだ。
14 PTをここで使い切ってしまうような無計画な真似はしない。昼の予算は7 PTに設定した。
「アトラちゃ〜ん! ケーキ! ケーキかチョコ食べたいーーーっ!」
私が画面を操作している横から、ルーナが袖を引っ張ってダダをこね始めてきた。
「ダメよ。お昼ご飯なんだから、ちゃんとしたものを食べなさい」
「えぇ〜! やだやだ〜! お腹すいたし、甘いスイーツがいい〜! ケーキ〜」
ジタバタとゴネ始めるぐうたら女王様。まったく、朝もねだってきたばかりだというのに。
「……はぁ。わかったわよ。じゃあ、ルーナはこれにしなさい」
溜め息をつきつつ、私がショップの食品カテゴリから選んだのは――コンビニの色鮮やかなイチゴとゴロッとした果肉、たっぷりの生クリームが挟まれた『ゴロゴロ果実のミックスフルーツサンド』だ。
「えっ……!? 甘いパン……!? スイーツなの……!?」
「フルーツと生クリームがたっぷり入ったサンドイッチよ。これならご飯にもなるし、ルーナの食べたいスイーツ要素も入ってるでしょ?」
「わぁぁぁい! アトラちゃん大好きーっ! それにするー!」
私は自分の分として、地球のコンビニでよく見かけた定番の『こだわりツナ&タマゴサンド』をチョイスした。
ふんわりしたパンに、溢れんばかりのツナマヨとコクのあるタマゴが挟まっているやつだ。
それに、二人分の冷たいオレンジジュースを添えて。
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【デイリー生活PT残高】:14 / 20 PT
【選択したランチメニュー】
・『ゴロゴロ果実のミックスフルーツサンド』:3 PT
・『こだわりツナ&タマゴサンド』:2 PT
・『冷たい搾りたてオレンジジュース(2本)』:2 PT
【小計】:7 PT
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「よし、ぴったり7 PTね!」
【購入確定】をタップすると、光の粒子とともに、二人分の昼食とレジャーシートが現れた。
さっそく磨き上げたばかりの真っ白な石畳の中央にシートを広げ、その上に透明なパッケージに包まれたサンドイッチと冷えたオレンジジュースを並べる。
「うわぁぁぁ……! いちごとみかんが入ってる〜! 生クリームがいっぱいだよ〜!」
目の前に現れたフルーツサンドに、ルーナのルビー色の瞳がきらきらと輝く。
「はいはい、焦らないの。あと開け方教えてあげるからちょっと貸して」
私が手を伸ばすより早く、待ちきれないぐうたら女王様が動いた。
「待ちきれないよ〜! えいっ!」
ルーナは透明な包装フィルムの両端を小さな手でガシッと掴むと、力任せにメキメキと左右へ引っ張り始めた。
「ちょっとルーナ!? コンビニのパッケージをそんな力任せに引きちぎろうとしないの!」
「んぐぬぬぬ……っ! なんで開かないのぉ〜! これ、固いよぉぉ……っ!」
「引っ張るんじゃないの! この真ん中のテープを上から……ああっ、やめなさ――」
バリッ!! と無残な音が響き、力任せに破かれたフィルムから溢れんばかりの生クリームと大粒のイチゴが飛び出しそうになる。
「ふぇ……? 開いたよ〜?」
指に生クリームをちょこんと付けたルーナが、きょとんとした顔で破けたパッケージと生還したフルーツサンドを見つめている。
「『開いた』じゃないわよ! クリームが手に付いてるじゃない。ほんと、力任せなんだから……」
「え〜……あ、ほんとだぁ〜」
ルーナは指先についた真っ白な生クリームを、舌先でペロリと舐めとった
「ん〜! 甘くて美味しいよぉ〜!」
「こら、お行儀が悪いの。ほら、手拭いてあげるから出しなさい」
私はサンドイッチについてきたウェットティッシュを取り出し、ルーナの手を丁寧に拭いてあげた。
それから自分のツナ&タマゴサンドの赤いテープを指でつまみ、シュッと上から綺麗に引き破ってみせる。
「ほら、こうやって開けるのよ」
「アトラちゃんすごーい! 簡単に開いた〜!」
「感心してないで、ちゃんと『いただきます』は?」
「いただきますっ!」
今朝覚えたての挨拶を元気に口にすると、ルーナは両手で大事そうにフルーツサンドを持ち直して、口を大きく開けてガブリとかぶりついた。
「んん〜〜っ!! 甘くてふわふわで、果汁がじゅわ〜って広がるよぉぉ……っ! すごい、ケーキみたいに美味しい〜〜っ!」
両頬をパンパンに膨らませて、身もだえしながら感動するルーナ。
「ふふっ、喜んでもらえて何よりだわ」
私も自分の『ツナ&タマゴサンド』を一口かじる。
(あぁ……このツナとタマゴの組み合わせ、やっぱり完璧ね……!)
冷えたオレンジジュースで流し込めば、疲れた身体にすーっと沁み渡っていく。
◇◇◇
「……ふぅ、食べた食べたぁ〜……」
あっという間に食べ終えたルーナは、シートの上にごろんと横になり、お腹をぽんぽんなでながら幸せそうに目を細めた。
「ルーナ、食べたすぐあとに横になると牛になるわよ」
「吸血鬼だから牛にはならないもん〜……あ〜、お日様が温かくて気持ちいいなぁ〜……」
「……もう、調子のいいことばかり言って」
呆れつつも、午前中の重労働で疲れていた私の体も、ぽかぽかとした温かな陽気に包まれて心地よく解きほぐされていく。
「……少しだけ、お休みしましょうか」
私はルーナの隣にそっと横になった。見上げる空はどこまでも青く、吹き抜ける風が心地よい。
ルーナの「スースー……」という規則正しい寝息を聞いているうちに、私のまぶたも重くなり、深い眠りへと落ちていった。
◇◇◇
ピコン――!
電子的な高い通知音が、静かな庭園に響いた。
「……ん……?」
私はゆっくりと目を開けた。
太陽は少しだけ西へ傾き、心地よい午後の光が注ぎ込んでいる。
視界の端で、半透明のシステム画面が点滅していた。
┌────────────
│ 【通知:目標のポイントに達しました】
│
│ 現在の保有ポイント:15,000 PT
└────────────
「……っ! 貯まった……!」
パッと眠気が吹き飛んだ。ついに目標の15,000 PTが貯まったのだ。
「ルーナ! 起きなさい、ルーナ!」
「んん〜……あと百年……」
「百年も寝ないの! ほら、ついに15,000 PT貯まったわよ! 『城防衛基本セット』が買えるわ!」
「ふぇ……? ほんと〜……?」
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