第21話 それぞれの覚悟
「そうだよ〜。だから神様レースに興味がない私でも、代表権だけは手放したくないんだよね〜。だってあれがないと、美味しいお菓子が買えなくなっちゃうもん」
「……そんな世界規模の特権を、お菓子のために保持してるの……?」
ハァと深くため息をつく。ルーナのスケールの大きさと小ささとのギャップには、もう頭が痛くなってくる。
「まぁいいわ。代表権があるからショップが使えるのは分かったけれど……ルーナ自身は勝利を目指していないの?」
「えぇ〜? なんでそんなめんどくさいことしなきゃいけないの〜? 神様とか絶対めんどくさそう〜」
「……めんどくさい、って。あなた、自分が参加してるレースの話をしてるのよ?」
「参加してるつもりないも〜ん。私はただ、この城で寝てただけだし〜」
ルーナはそう言って、抱き枕代わりのクッションに顔をうずめた。
「……はぁ。本当に欲がないというか、なんというか」
呆れつつも、私は一番重要な核心へと踏み込んだ。
「……で、ここからが一番大事なことなんだけど。ルーナ自身も防衛戦にちゃんと参加してね」
「え……」
「え、じゃないわよ。ルーナの城でしょ。ちゃんと参加しなさい」
ルーナが戦ってくれるなら、防衛戦なんて余裕のはずだ。私の見立てでは、ルーナは相当に強い。
だが──私の言葉を聞いた瞬間、クッションに顔を埋めていたルーナの動きがぴたりと止まった。
「……ううん。私、戦わ……ないよ」
顔を上げたルーナの表情から、いつもの笑みがすーっと消えていた。
「どうして? あなた『私が負けるわけないじゃん』とか言ってたじゃない」
「それは……ずっと防御し続けて、相手が諦めるのを待てば負けないって意味だし。私一人ならそれでよかったけど……今は、アトラちゃんがいるでしょ?」
「どういうこと?」
「私がずっと守ってるだけじゃ、アトラちゃんが攻撃されちゃうでしょ。だからって相手を倒して追い払おうとすると……私、『加減』ができないの〜」
「加減……?」
「うん。……魔法の威力を調整するのが、すごくヘタクソなんだ〜」
「じゃあ、全力で攻撃すればいいんじゃないの?」
「うーん、アトラちゃんはわかんないのはしょうがないけど、私って結構強いんだよ。私より強い存在なんてこの世界にごく少数だよ」
ルーナはぎゅっと自分の小さな手を握りしめた。
「例えばね、部屋を綺麗にする『クリーン』とか、ほこりを飛ばすくらいの風魔法ならできるの。でも……人を殺さない程度に気絶させるとかみたいな『手加減』が、どうしてもできないの」
「それって……」
「蛇口で例えるとね……ポタポタと滴を落とすか、蛇口を根元から叩き折って水を出すかの二択しかないの。中間がないの」
ルーナの言葉に、私は息をのんだ。
つまり、ルーナが攻撃魔法を使おうとすれば──最低威力でも、相手を消し飛ばしてしまう、ということだ。
「……だから、戦えないのね」
「うん。だって私が出たら、攻めてきたソフィア種の人たち、みんな跡形もなく消えることになると思う。……私、人を殺すのは嫌……」
ぎゅっと唇を噛みしめるルーナ。
彼女はただ怠けて戦わないのではない。『力があまりに過剰で殺戮になってしまうから、自ら戦うのを控えている』のだ。
(昨日、ルーナが「敵の基地ごと滅ぼす」と言ったのは、本当は嫌なはずの殺戮を覚悟してまで、私に気を使ってくれていたからだ……。それなのに私は彼女の優しさに甘えて、『ルーナが無双すれば解決する』なんて思ってはいけなかったのだ)
だが──ルーナは顔を上げ、真剣な眼差しで私を見つめた。
「でもね、アトラちゃん」
「……え?」
「もし……罠も設備も破られて、アトラちゃんの命が本当に危なくなったら……私、出るからね」
「ルーナ……?」
「敵を全員消し飛ばして、ここら一帯なくなることになっちゃうかもしれないけど……アトラちゃんが死んじゃうより、ずっとマシだもん。だから、本当にヤバくなったら、私を呼んで」
それは、嫌いな殺戮をしてでも私を守るという──吸血鬼女王の『覚悟』だった。
(……ズルいわよ、そんなの)
胸の奥が、ツンと熱くなる。
こんな風に自分を思ってくれるルーナに、そんな後味の悪い真似をさせてたまるものか。
私は大きく息を吐き出すと、ルーナの頭にポンと手を乗せ、乱暴になで回した。
「ふぇ!? な、なに〜〜っ!?」
「いい? ルーナ。あなたの覚悟は嬉しいけれど……あなたにそんなことさせたりしないわ」
「アトラちゃん……?」
「あなたが戦う必要なんて、万に一つもない。──私が完璧な防衛陣形を組み上げて、敵を一人残らず罠にはめて、退けてみせるから」
今度は、私の『覚悟』の番だ。
昨日の夜は、私がルーナに救われた。だからこそ、今度は私が守る番だ。
(絶対に、ルーナの手を汚させたりはしない)
このショップの力と地球の知識をフル活用して、完璧な勝利を掴んでみせる。
「さぁ、お喋りは終わりよ! 午後になったら防衛セットを購入するわ。それまでに、ルーナの力に頼らない完璧な防衛策を練るわよ!」
「は、はーいっ! アトラちゃん、かっこいい〜!」
いつもの笑顔を取り戻したルーナを見て、私はそっとルーナを抱きしめた。
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