第2話 地球ショップ解禁
聞き間違いかと思って、たっぷり5秒は固まった。
「ごめん、もう一回言って」
「だからぁ、あと4日くらいしたら、強そうな集団がぞろぞろ来るっぽいの。でっかい斧とか持ってて、みたいな感じの」
「見たの?」
「う、ううん……? なんとなく、そんな感じがするだけ〜」
「……勘ってこと?」
「昔からあるんだよね。当たるよ。じゃ、おやすみ〜」
「待ちなさい」
布団に潜ろうとするルーナの手首を、私は掴んだ。
驚くほど細い手首だった。力を込めれば折れてしまいそうで、つかんだこちらの方が慌てて指の力を緩める。
「寝る前に説明して。この世界のこと、私は何も知らないのよ」
「えー……しゃべるのしんどい……」
「家賃代わりの手伝い、するって言ったでしょう。情報がないと手伝えないの」
ルーナは大きなため息をつくと、抱き枕に顎を乗せた。
「……この世界ね、創造神のゲームなの。ポイントがもらえて、ポイントがあれば、なんでも買えるんだよ〜」
(創造神の……ゲーム……?)
壮大すぎる言葉が、あくび混じりの眠たげな声で流れてくる。
あまりにも緊張感のない響きのせいで、まるで現実味が湧いてこない。
だが、その中で一つだけ、聞き捨てならない言葉があった。
「……なんでも、って言った?」
「うん。食べ物も、道具も、知識も、なんでも」
「なるほど。つまり、ポイントさえあれば、襲撃の備えもできるということね。じゃあ、あなたは今どれくらいポイント持ってるの?」
「ちょっと待ってね」
ルーナが面倒くさそうに指を鳴らすと、目の前に半透明のウィンドウが浮かんだ。
┌─────────────────
│【拠点:遺産・古城】
│ 保有ポイント:10,000 / 10,000 PT
│ 生成ポイント:100 PT / 毎時間
│ 人口 :2 (ルーナ+未命名)
│【警告:上限到達】
│ 規定上限を超過しているため、
│ 過去数百年分の生成ポイントは
│ 受領されず、自動破棄されています。
└─────────────────
「私とルーナしかいないじゃない……! 二人しかいないのに、攻めてくる集団と戦えっていうの! 正気なの……?」
画面を二度見していた私の目が、一番下の赤い警告欄でピタリと止まった。
「ねえ。この『自動破棄』って……ポイントが捨てられてるってことよね?」
「うん。上限までしか貯まらないからね〜」
「数百年分、全部?」
「そうみたい。ずっと出てるから、もう見慣れちゃった〜」
見慣れちゃった、で済ませていい話じゃない。
反射的に頭の中で計算してしまう。毎時間100 PTなら、1日で2400 PT。1年なら──87万6000 PT、それを数百年分
(……考えるのをやめましょう。桁を数えるとめまいがしそう)
私は画面をもう一度、ゆっくり読み直した。
「……この警告、他にも見られる? 詳しい内容とか」
「んー、見たいなら、君が見ればいいんじゃない? はい」
ルーナは面倒くさそうに、画面をすっとこちらへ押しやった。
ピコン──!
──────────────────
【通知】
『未命名』が管理権限を分配されました。
『未命名』が個体名:ルーナの配下として登録されました。
【ショップ更新】
配下の知識に『異世界・地球』を検出。
ショップに『地球製品』が追加されました。
──────────────────
「……地球?」
その単語が、なぜか耳に馴染んだ。理由は分からない。ただ、知っている、という感覚だけがあった。
管理権限を得たことで、警告の表示が詳しくなった。
┌───────────────
│【警告:上限到達】
│ 保有ポイント上限:10,000 PT
│ 破棄された生成ポイント:累計 数億 PT 以上
│ すみやかに上限解放を行ってください。
└───────────────
「…………数億?」
声が、自分でも驚くほど低く出た。
「上限を解放すれば、これ、止まるのよね?」
「うん。止まるよ〜」
「……それ、解放するのは難しいの? ボスを倒さなきゃいけないとか」
ルーナは神妙な面持ちで、こくこくと頷いた。
「うん……すごく大変なの。わざわざ地下の祭壇まで行かなきゃいけないから……」
「地下の祭壇……! 強い魔物か、罠でもあるの? それ、どこにあるのよ!?」
ルーナは抱き枕の陰から、細い指をすっと床へ向けた。
「この城の地下だけど」
「…………」
「…………」
「目と鼻の先じゃないの!!」
「だって、階段が長いんだもん」
「長くても行きなさいよ! 地下に行くのが面倒で、数億ポイントもドブに捨てたの!? このぐうたら吸血鬼ーーー!!」
「そんなに怒んないでよぉ〜。捨てちゃったものは戻ってこないんだしさぁ〜……ふあぁ」
ルーナはあくびまじりに、枕へ顔を埋めた。
数億ポイント。それを、階段が長いという理由だけで、数百年も捨て続けた女王。……この城の最大の敵は、4日後の襲撃よりも、目の前のこの吸血鬼なのかもしれない。
私は額を押さえて、天井を仰いだ。
ルーナ
お読みいただきありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけましたら、ページ下の【★評価】や【ブックマーク】で応援していただけると嬉しいです!




