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第18話 私の居場所

泣くだけ泣いた私は、お風呂から上がって、真っ赤になった目をこすりながら、身体を拭いた。


棚から古い部屋着を見つけて、ルーナに『クリーン』をかけてもらう。ふかふかの布地に袖を通して、髪をタオルで拭いていると、ふと気づいた。


(……なんだか、身体が軽い)


泣いたぶんだけ、胸の中の重たいものが、少し流れ出たのかもしれない。


「……ごめんね、ルーナ。お洋服、濡らしちゃったわね」


「いいよ〜。アトラちゃんが元気になったなら、なんでもいいの〜」


ルーナはパチンと指を鳴らして、自分の服を風魔法で乾かすと、ドヤ顔で胸を張った。


「あ〜、頭使ったら、お腹空いちゃったなぁ〜。アトラちゃん、なんか買って〜」


「……はいはい。甘えん坊さんね」


さっきまで私を抱きしめてくれていた人と、同じ人とは思えない。けれど、その変わらなさが、ありがたかった。


私はショップ画面を開き、お風呂上がりの定番である『フルーツ牛乳(2本):2 PT』を購入した。


「ルーナ、お風呂上がりは、これを飲むのよ。片手を腰に当てて、一気に」


「何、その作法……!」


ルーナは、真剣な顔で片手を腰に当て、瓶を傾けた。


「……っ!? なにこれぇ! 冷たくて甘くて、すっごく美味しいよぉ……!」


「ふふん、お風呂上がりの牛乳は、地球の至高の文化なのよ」


私も同じ姿勢で、フルーツ牛乳を一気に飲み干した。冷たい喉越しが、火照った身体にじんわり染み渡る。


(……ちゃんと、笑えてる)


それが、少し不思議で、うれしかった。


「……ねぇ、ルーナ」


「ん〜?」


「さっきは、ありがとう。……あなたがいてくれて、よかった」


言ってから、顔が熱くなる。さっきまで散々泣いていたくせに、今さら照れるなんて。


ルーナは、瓶に口をつけたまま、ぱちぱちとまばたきをして、えへへ、と笑った。


「アトラちゃんにそう言ってもらえると、なんかうれしい〜」


ピコン。


視界の端で、システムウィンドウが、小さく弾けた。


(……え? このタイミングで?)


──────────────────

【通知:配下との絆上昇】

『アトラ』と『ルーナ』の信頼度が大きく上昇しました。


【特典の付与】

1.パッシブスキル:『吸血鬼女王の加護』

 (※疲労の軽減、状態異常・環境への耐性)

2.生活支援機能:『デイリー生活PT(20 PT/日)』

 (※毎朝リセット。衣食住・生活用品カテゴリ限定で無料使用可)

──────────────────


「ちょ、ちょっと待って!? 信頼度って、なに!? こんなものまで、数字で出るの!?」


慌てて画面を隠そうとしたけれど、ルーナが後ろから、ひょいと覗き込んできた。


「ほんとだ〜。『信頼度が大きく上昇しました』だって〜。アトラちゃん、私のこと、そんなに信頼してくれてるんだ〜?」


「そ、そうよ! ……悪い?」


「えへへ〜、私もアトラちゃんのこと信頼してるからぜんぜん悪くないよ~」


顔が、ますます熱くなる。私は咳払いをして、画面に目を戻した。


「……デイリー生活PT。毎朝20 PT、食べ物や服、日用品なら、無料で使える……!?」


今までは、防衛のためにポイントを貯めなければならないのに、ごはんやおやつで使ってしまっていいのか、ずっと悩んでいた。それが、毎日20 PTぶん、気にしなくていいのだ。


「ルーナ、見て! 毎日のごはんが、20 PTぶんだけタダになるのよ!」


「えっ、ホント〜!? じゃあ明日から、ケーキ食べ放題〜!?」


「ケーキは一個30 PTでしょ。20 PTじゃ足りないわよ。でも、ごはんや少しのスイーツぐらいなら、ポイントを気にせず食べられるわ」


「ええぇ〜……ケーキ、ダメなの〜……」


しょんぼりするルーナを横目に、もう一つの項目を、指でなぞった。


(疲労の軽減に……状態異常と環境への耐性、ね。明日からの作業が、少しは楽になるかもしれないわ)


……でも。


胸の奥が軽いのは、この加護のおかげじゃない。


ついさっき、湯船の中で、ぎゅっと抱きしめてくれた、ルーナのおかげだ。


目の前で、「ぷはぁ〜」と幸せそうにフルーツ牛乳を飲み干している、世界一ぐうたらな女王様を見つめる。



(……居場所なら、もう、ここにあるのね)


少しだけ、静かな時間が流れた。


「ルーナ、明日も、防衛の準備を手伝ってもらうわよ」


「えぇ〜、明日も働くの〜……? お布団が恋しいよ〜……」


「手伝ってくれたら、美味しいものを出してあげるわ。生活ポイントの範囲でね」


「……がんばる!」


即答するルーナに、私は思わず笑ってしまった。


ふかふかのベッドに二人で潜り込むと、隣からはすぐにスースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。


夜の古城を包むのは、もう恐怖ではない。ただただ、温かく満ちた時間だった。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


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