第15話 至福のひととき
『イチゴのショートケーキ:30 PT』
『濃厚レアチーズケーキ:30 PT』
(……合計60 PT。生成ポイント毎時200 PTの、18分ぶんね)
ちらりとルーナを見る。
ショップ画面の向こうから、早く早く、とルーナが物欲しそうにこちらを見つめていた。
いまにもヨダレを垂らしそうな顔を見ていると、思わず私の口元にも、少し笑みがこぼれた。
(……まあ、約束だものね)
購入確定ボタンを押す。
光の粒子とともに、それぞれ白い皿に乗った、二つのホールケーキが現れた。
ひとつは、真っ白な生クリームで包まれた『イチゴのショートケーキ』。
ふんわりしたスポンジの間にみずみずしいイチゴが挟まれ、頂上には、宝石のように赤い大粒のイチゴが、惜しげもなく並んでいる。
もうひとつは、ほんのり金色に輝く『濃厚レアチーズケーキ』。
ずっしりとしたチーズの層に、底には香ばしいクッキー生地が敷き詰められている。
濃厚なチーズの香りが、ふわりと部屋じゅうに広がった。
どちらも、地球の職人技を感じさせる完璧な仕上がりだ。薄暗い古城の寝室には不釣り合いなほど、圧倒的な存在感を放っている。
「……すごぉい……! なにこれ、本物の宝石みたい……!!」
ルーナが瞳をこれでもかと見開いて、二つのケーキに釘付けになる。
「ルーナ、これ全部、ひとりで本当に食べられるの?」
「アトラちゃ〜ん、吸血鬼の胃袋、舐めないでよね」
ルーナは、セットについてきたナイフとフォーク、取り皿を、すさまじい速さで手に取った。
二つのケーキから、八分の一ずつ。手際よく切り分けて、取り皿に乗せる。
「はいっ、アトラちゃんの分!」
そう言って、お皿を私に差し出してきた。
「……え? 私の?」
思いがけない行動に、私はきょとんと固まった。
その沈黙を、ルーナは盛大に勘違いしたらしい。『これだけじゃ足りないから、もっと寄こせ』という圧だと。
みるみるうちに顔が青ざめ、目に涙がにじむ。
ルーナは両腕と身体を使い、二つのホールケーキの上にがばっと覆いかぶさってケーキを隠した。
「も、もっと欲しいの……アトラちゃん!? や、やだよぉ! これ以上は絶対にあげないんだからねっ……! うぅ……私のケーキ減っちゃう……っ!」
ケーキを取られるという恐怖で、いまにも泣き出しそうなルーナに、私は慌ててツッコミを入れた。
「ちょっと、なんで泣きそうなのよ! 誰も、もっと寄こせなんて言ってないでしょ! ケーキをもらえると思ってなくて、驚いただけよ!」
「……え? ホントに……? これで満足……?」
「満足よ! ありがたくいただくわ!」
お皿に乗ったケーキを受け取ると、ルーナは胸に手を当てて、心底ほっとしたように、大きく息を吐いた。
そして、照れくさそうに、えへへ、と笑った。
「なんだぁ〜……びっくりさせないでよ〜……。でも、アトラちゃんにあげたいのは、本当だよ? だって、アトラちゃんも、一緒にいっぱい頑張ったもん!」
(……はぁ、まったく。こういう素直なところがあるから、憎めないのよね)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。私は、お皿の上のケーキを、そっと見つめた。
「……ありがとう、ルーナ」
「えへへ、どういたしまして! さあ、食べよ食べよー!」
ルーナは、ホールのままのショートケーキに、フォークをそのまま、ぶすっと突き立てて、大きくすくい取り、口へ運んだ。
「あむっ……んむっ! ふ、ふわっふわ……っ! クリーム甘ぁい……! お口の中で溶けちゃうよぉぉ……っ!」
両頬を押さえて身もだえするルーナに釣られて、私も自分のショートケーキをフォークですくい、口へ運んでみた。
「……っ!?」
一口食べた瞬間、私の目も思わず見開かれた。
きめ細やかなスポンジの柔らかさ、生クリームの甘さ、そして甘酸っぱいイチゴの風味が絶妙なハーモニーを奏でている。
(なにこれ……っ!? こんなに美味しいケーキが存在するの……!)
続けて、濃厚なレアチーズケーキも一口。しっとりとしたコクと滑らかな舌触りが口いっぱいに広がり、疲れた全身に甘さがじんわりと染み渡っていく。
「ルーナ、このケーキ美味しいわね……本当に……」
「でしょでしょ〜!? ケーキって、すごすぎるよぉ……っ!」
二人並んでベッドの端に腰掛け、大切なご褒美を一口ずつじっくりと味わう。
大掃除の激しい疲れも、敵襲への不安も、この甘くて幸せな一瞬だけは完全に忘れ去ることができた。
◇◇◇
「 ふはぁ〜、おいしかったぁぁ……!!」
ケーキを信じられないスピードで平らげたルーナは、空になったお皿をぎゅっと抱きしめ、心底幸せそうに息を吐いた。
「……ルーナ、食べるのが早すぎるわ。もう少し味わいなさいよ」
「だって、美味しすぎて手が止まらなかったんだもん! 」
ルーナが照れくさそうに笑う。
「……一緒にお掃除がんばってくれて、ありがとうね」
「……っ」
あまりにも唐突で、けれど真っ直ぐな感謝の言葉に、私は思わず言葉を詰まらせた。
「……こちらこそ。文句を言いながらも、ちゃんと最後まで付き合ってくれて嬉しかったわ」
「えへへ。アトラちゃんがいてくれて、よかった」
(まったく。こういう素直で可愛いところがあるから、ついつい甘やかしたくなっちゃうのよね)
二人の間に、なんとも温かく心地よい時間が流れるのだった。
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