第13話 初戦闘は、大食堂で
――ゴゴゴゴゴ……っ!
大食堂の奥で、数百年ぶんのほこりが一斉に渦を巻き、大きな山となって盛り上がっていく。
「な、なに……!? ほこりが固まっていくわよ!?」
ほこりがほこりを呼び、大食堂の奥でぐんぐん積み上がっていく。
やがて、天井に届きそうな灰色の巨人が、ゆっくりと立ち上がった。
「なななな、なにあれ!? 」
長い年月を生きるルーナでも見たことのない現象のようだ。
「分からないわよ! ……『解析』!」
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【魔物:ダストゴーレム】
封印された大食堂に、数百年ぶんの
ほこりと、魔力が結びついて発生した魔物。
【特性】攻撃を受けると散らばり、再び結合する
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「封印された食堂って……あなたのせいじゃない!」
「え〜? 私、悪くないよ〜。勝手に生まれたんだもん〜」
「勝手に生まれるものじゃないでしょ!」
言い合っている間にも、ゴーレムは、ずしん、と一歩を踏み出した。足元のほこりが舞い上がる。
『グオオオオオオン!!』
ほこりの巨人が片腕を振り上げ、大量のほこりを撒き散らしながら、私たちに向かって豪快に振り下ろしてきた。
灰色の拳が、ゆっくりと大きくなる。
(……あ、避けなきゃ)
「アトラ!」
ルーナが私の手を掴んで後ろへと飛び退いた。
ドカンッ!! と重い衝撃音が響き、さっきまで私たちが立っていた石床に巨大なほこりの拳が叩きつけられる。
「ちょっと……いま、ものすごい速度で私を引っ張って避けたわよね!?」
「ふぁぁ、咄嗟に身体が動いちゃった〜……。アトラちゃん、怪我ない〜……?」
「ええ、助かったわ……って、感心してる場合じゃないわね! 魔法で何とかならないの!?」
「できるよ〜! ほこりぐらいなら。 風魔法『ウインドショック』、えいっ」
ルーナが指先を向け、風魔法を発動した。
斬撃のような風がダストゴーレムの胴体をくり抜くように吹き飛ばす!
ドカンッ! と弾け飛ぶ大量のほこり。
「やった……!?」
私が安堵したその瞬間。
宙に散らばった灰色の粒が、ふわり、と動きを止めた。
そして、空中に散らばった灰色の粉塵は、まるで磁石のように互いを引き寄せ合い、元通りの巨人へと復元してしまった。
『グオオオオオオン!!』
「あぁ〜……直っちゃった〜……」
「…………え?」
私は、ぽかんと口を開けたまま、動けなかった。
今、確かに、穴が空いていた。灰色の粉が、霧のように舞い散っていた。倒したと、思った。
なのに。
「ちょ、ちょっと待って。今の、見間違い……じゃないわよね……」
「うん〜。ぜーんぶ、元に戻っちゃった〜」
ルーナが、だるそうに言う。
私は慌てて、さっき見たはずの文字を思い出した。
【特性】攻撃を受けると散らばり、再び結合する
(……「再び結合する」。これ、さっきは、ただの説明だと思って読み流したけど、こういうことだったのね。)
ただ攻撃して、バラバラにするだけじゃ、意味がない。
何度攻撃しても、きっと同じように、戻ってしまう。
「……どうすればいいの?」
ゴーレムが、ずしん、と一歩、近づいてくる。
「えぇ〜……じゃあ、火球で燃やしちゃおっか〜?」
ルーナがだるそうに指先を立てると、そこにボッ! と小さな火球が爆ぜた。
「ちょっと待ちなさい!! ダストゴーレムを燃やしたら城まで燃えるかもしれないじゃない! ここ、数百年ぶんの乾燥したほこりと木製家具だらけなのよ!?」
「えぇ〜……ダメなの〜? じゃあ……古代魔法で原子レベルで消滅させる〜?」
「そんなことできるの、……それってダストゴーレムだけ消滅できるの!?」
「う〜ん……頑張って調整してみるけど〜……できるかなぁ〜……?」
「『できるかな』でやられてたまりますか!!」
絶叫しながら、私はルーナの手を引っ張って激しく首を振った。
だが、私たちが押し問答をしている間にも、ダストゴーレムは待ってくれなかった。
『グオオオオオン!!』
ダストゴーレムが大きく揺れ、両腕を振り上げる。
ドササッ! と、天井に届くほどの高さから、数百年ぶんの固まったほこりの塊が、まるで隕石のように降ってきた!
「きゃあぁっ!?」
「うわぁ、降ってきた〜」
ルーナがひょいっと私を横抱きに抱え上げ、軽やかな足取りで壁際へ跳躍する。
ドカン! ドカン! と、さっきまで私たちがいた床に巨大なほこりの塊が突き刺さり、灰色の粉塵が舞い散った。
(……相変わらず、無駄にハイスペックね……!)
「アトラちゃ~ん、逃げてばっかりじゃキリがないよ〜?」
「分かってるわよ! でも、風も火も消滅させるもダメ……! 何か他に手はないの!?」
私は焦りながら手元に『水魔法』で大きな水の球体を作り出した。
「喰らいなさい! 『水魔法』!」
バシャァァン!! と、水球をダストゴーレムの足元へ叩きつける。
ほこりなんだから、濡らせば重くなって動けなくなるのでは――そう踏んだのだ。
だが。
『グ……オオオオ……っ!!』
濡れたダストゴーレムの足元が、ねっとりとした泥状に変化し、かえって固く、重厚な泥巨人へと変貌を遂げてしまった。
「あぁ〜……ベトベトになって、なんか強そうになっちゃったよ〜?」
「嘘でしょ!? 水を含んで余計にタフになってるじゃないのよ!!」
泥状の拳が、ずしんと床を鳴らす。衝撃波でマスク越しでも息が苦しい。
そのとき、視界の端で、ピコン、と小さな音がした。
解析の画面が、更新されている。
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【魔物:ダストゴーレム】
封印された大食堂に、数百年ぶんの
ほこりと、魔力が結びついて発生した魔物。
【特性】攻撃を受けると散らばり、再び結合する
【弱点】油分を含む汚れの分解
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魔物の攻撃や反応を見るたびに、解析が進んでいく仕様らしい。
「油分……?」
(……そうか。ただのほこりじゃないわ。数百年ぶんの食べこぼしや皮脂、油汚れが混ざり合って、固く結合してるんだ……!)
そして、私の脳裏に『地球の知識』が閃いた。
ほこりと油の汚れを落とす、地球の知恵――そう、『洗剤』よ!
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