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【長編版】王子が生まれたので、もう我慢しなくてもよろしいのですよね?  作者: 塩野さち


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第13話 大量発生するカニの有効活用~閑話、コエンナのモンスター事情~

【エリアナ視点】


 コエンナの海岸には、定期的にカニの魔物が押し寄せる。


 大きな鋏。硬い甲羅。ぞろぞろ動く、たくさんの脚。


 初めて見たときは驚いたけれど、何度か討伐に参加すれば、こちらも慣れてくる。


「エリアナ様、右から二匹来ます」

「うん。そっち、お願い」


 振り下ろされた鋏を避け、木剣を一閃。

 もう一匹はリュカが片づけた。


 やがて岩場が静かになると、波の音が戻ってきた。


 私は額の汗を拭き、足元に転がる大きな脚を見た。


 太い。


 とても太い。


 この中に、カニの身がぎっしり詰まっているのだ。


「……食べられないのかな」

「カニを、ですか?」

「うん」


 前世では、カニといえば少しぜいたくな食べ物だった。


 鍋に入れてもいい。

 焼いてもいい。

 茹でたものを、そのまま食べるのもいい。


 私は脚を一本持ち上げた。


 重かった。


 期待も、それだけ膨らんだ。


◇◆◇


「食べられるよ。うまくはないけどね」


 潮風亭へ持ち帰ると、ハンナさんはそう言った。


「でも、こんなに身があるんですよ」

「そうだねえ。身はあるねえ」


 少し気になる返事だった。


 それでも鍋を貸してもらい、切り分けた脚を茹でた。


 湯気が立つ。

 甲羅の隙間から、白い身が見える。


 ほぐせば、皿いっぱいになった。


「いただきます」


 ひと口。


 ……うん?


 私はもう一度、ゆっくり噛んだ。


 水っぽい。

 甘みは、ほとんどない。


 それなのに筋だけはしっかりしていて、いつまでも口の中に残る。


 カニの味がするのを待っているうちに、顎が疲れてきた。


「どうですか?」


 リュカに尋ねられ、私はしばらく考えた。


「……大きいね」

「味のほうは?」

「大きい」


 リュカも少し食べた。


 そして、静かに水を飲んだ。


「……なるほど」


 わかってもらえた。


 ハンナさんが、私たちの前に焼きたてのパンを置く。


 とても、おいしかった。


◇◆◇


 残りのカニは、荷車に積まれて農家へ運ばれていった。


 乾かして細かく砕き、肥料にするのだという。

 毎回、引き取りを待っている人がいるそうだ。


 後日、町の外を通ると、畑に砕いたカニがまかれていた。


「あのカニ、役に立ってるね」

「ええ。畑では評判がいいそうですよ」


 私は、土に混ざる甲羅のかけらを眺めた。


 あれが麦や野菜を育てるらしい。


「次は、育った野菜を食べよう」

「僕も、そのほうが楽しみです」


 カニそのものを、もう一度食べようとは思わなかった。


 後で聞いた話だが、セヴラン師匠なら一人で退治できるそうだが、もう飽きてしまったらしい。


 カニ討伐の日は、トロールのゴーンさんのところへ行くと言って、ばっくれてしまった。


 ちなみに、そのゴーンさんによると、同じ森の魔物でも、ゴブリンは仲間じゃないから、討伐して良いらしい。


 モンスターの世界も複雑らしかった。


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