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刑事の娘、はじめます。~白石美緒と最初の影~  作者: SouForest


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12/15

告白(下)

 あの日ーー、

 石田光子は、何の疑いもなく受け子の三浦に金を手渡した。


「これで大丈夫なんですよね? 娘を助けてください……お願いします」


 彼女は何度も頭を下げ、必死な様子だった。その姿に三浦はひどくショックを受けた……。「大丈夫です」としか言えず、そのまま玄関を出たが、三浦はそこから先は、一歩も動けなかった。心のどこかで違和感が消えず、葛藤したあげく引き返した。


「これは受け取れない」


 そう告げると、石田光子は驚き、怒りの色を露わにした。「娘を殺す気か!」と叫び始めたのだ。それで、思わず口にしてしまった。


「これは詐欺だ。簡単に、こんな大金を見知らぬ人に渡しちゃダメだ! 」


 石田光子は目をぱちくりさせた。何のことかすぐには理解できなかったようだった。三浦は必死に言葉を選んだ。


「石田さん、落ち着いてください。これは本当に危険な話なんです」

「何を……言っているの? 」


「最近、『あなたの娘さんが事故に遭った』とか、『税金が戻るので手続きが必要』とか言われませんでした? 」

「……え。待って……じゃあ、理香子は……うちの娘は不倫なんかしていないのね? 」


「示談金を代わりに払えって言われたんですか? 」


 石田光子は力なくうなずき、ぐらりとよろけた。両手で胸のシャツを握りしめ、唇を震わせている。


「簡単に信じちゃ駄目です。大金を渡す前に、娘さんに連絡をーー」

「だって!! お金を払わないと娘を訴えるって……。裁判になるって……。そんなことになったら、あの子は世間様の笑いものに……」


「石田さん、ですからその話は、お金をだまし取るための『嘘』なんです」

「嘘……? 」


 彼女は急に甲高い叫び声を上げると、倒れないように身体を支えていた三浦を突き飛ばした。尻もちをついた三浦の目に、廊下の奥に走っていく老婆が映った。


 ガシャーンと何かが割れた。だがしばらくすると……何事もなかったように静寂が戻った。


「あの……石田さん? 大丈夫ですか? 」


 恐る恐る様子を見に行った三浦は、板張りの床で倒れている石田光子を前にして、呆然と立ち尽くした。理解が追いつかない。時計の秒針が刻むカチコチという音が、やけに大きく響いた。




 道幅が少しずつ狭まり、美緒を乗せた車は緩い傾斜を登っていった。ヘッドライトに照らされた樹々の幹が次々と浮かび上がり、車体は舗装の継ぎ目を拾うたびにわずかに揺れる。街灯はほとんど見えず、エンジンの一定の唸りだけが耳に残った。


「石田さんは、あの500万で娘さんを助けようとしていたんだ。だから……理香子さんに返さなきゃって……」


「……ねぇ、知ってた? おばあちゃん……心筋梗塞だったって……」

「ニュースで見たよ……」


「なんですぐに救急車を呼ばなかったの? そうすれば、助かったかもしれないのに」

「急に怖くなったんだ……。」


 自分の不甲斐なさを悔いているのか、三浦は唇をギュッと結んでいた。


「……俺さ」


 ようやく出た三浦の声は、かすかに掠れていた。その一言の奥に、言いかけて飲み込んだものが静かに沈んでいるようだった。三浦は前を向いたまま、もう一度だけ息を吸った。


「ホントに……トレーナーの仕事、好きだったんだよ。人が変わってくの見るの……嬉しくてさ。俺なんかでも、誰かの役に立てるんだって……。もっとちゃんとやりたくて、栄養士の資格、取ろうと思って、夜、勉強してたんだ。あの頃は……未来があるって思ってた」


 三浦は必死に感情を抑えようとしていたが、涙はこらえきれずに頬を伝った。そんな彼を見ないようにするためか、美緒は流れる窓の外を眺めている。


「でも……ある日、気づいちゃったんだ。ジムが裏で何やってるか。佐伯が……どういう連中か……。逃げようと思ったんだよ。でも“表の仕事だけやってりゃいい”って言われて……。それで見ないふりしてた。客から情報引き出すと金がもらえたんだ。それで調子に乗って……」


 胸の奥から込み上げる後悔と自己嫌悪が、言葉に滲み出ていた。小刻みに肩を震わせながら、三浦はハンドルを力強く握りしめた。


「……あの日も……佐伯に“人手が足りないから行け”って言われて……。何も考えずに……金、受け取りに行った……」


 そこまで言うと、三浦は唇を噛んだ。そして、しばらく沈黙が車内を包んだ後、三浦は震える声でつぶやいた。


「……俺、最低だ……」


 それ以上、言葉にならなかった。


三浦が抱えていたものを、ようやく言葉にできた章でした。

読んでくださった方に、少しでも伝わっていたら嬉しいです。

続きも静かに進めていきます。


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