表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
98/118

幸せの証【終】

 年が明けたばかりのある朝。まだ冷え込みの残る寝室で、伯爵夫妻は揃って窓辺に腰掛け、朝食をとっていた。

 窓の外には、白い霜をまとった梅の木が、花を咲かせて凛と立っている。


 セイルはどこか上の空で木の枝先を眺めていた。

 いつもと様子の違う彼に、エマは首をかしげて声をかける。


「どうかしましたか?」


 問いかけに、彼は小さく瞬きをして、静かに息を吐いた。


「……不思議な因果を感じていました」


 その声音は、心の奥に触れるように、穏やかで、重みがあった。


「僕が百合子さんと雪に会いたいと願ったばかりに、貴女たちはこの世界にやってきてしまった。しかし、結果としてエマの命を救ってくれたのは雪だった。あのときの悪魔との契約で、僕は苦しみの果てに、大切な人たちを取り戻すことができた。……今は、そのことに得心が行くんです」


 やがてセイルは視線を戻し、彼女に向けて穏やかに微笑んだ。


「百合子さん……僕は今、幸せです」


 彼の心からの笑顔を見ていると、エマの胸は愛おしさで熱くなった。


「……ねぇ、清一さん、私たち、もっと幸せになりましょう?」


 自然と、二人の笑みは重なった。

 やがてエマは、ふと目を伏せて呟く。


「……もしあのまま私が先に逝ってしまっていたら、清一さん、貴方はやっぱり」


「迷わず、貴女を追いました」


 セイルは淡々と、告げる。

 迷いのない彼の声音に、エマは眉を下げた。


「……私にはそのことが、今も気にかかるの。貴方をもう、苦しめたくはないのに」


 エマは目を伏せ、後悔の滲む表情を見せた。

 そんなエマに、セイルは優しく言葉を重ねる。


「ひとつだけ、貴女に僕を救える方法があります」


 エマは顔をあげた。

 そこには、エマの愛してやまない黒く透き通る瞳が、彼女を映していた。


「僕とともに生きてください……僕の、最期の時まで」


 少年のころから変わらぬ、宝石のように澄んだ瞳。

 エマはその瞳に吸い込まれそうになる。


「……ええ、約束します。貴方とともに生き、貴方の最期を看取ると」


 エマの目から涙がこぼれた。そして、ありあまる幸せに頬を綻ばせた。

 セイルもまた、目の前に最愛の人がいてくれる幸せを胸いっぱいに感じていた。



 テーブルには、椀に盛られた炊き立ての白米と、薄味の漬け物。それに自家製の梅干し。

 伯爵夫婦の朝食にしては、あまりにも地味だった。


 しかし二人にとって、それは何よりの幸せの証だった。




 Fin

ご愛読いただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ