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手紙

 「奥様からお手紙が届いております」


 朝の執務室。モーリスの言葉に、セイルの胸は一瞬にして高鳴った。

 (はや)る気持ちを抑え、慎重に封を開けていく。


『貴方がこれからも生きると約束してくれるまで、手紙を書くことにしました』


 それだけが、震える筆跡で綴られていた。

 セイルはその手紙を思わず胸に抱き締める。

 彼の胸には喜びが(ほとばし)り、百合子の愛情が全身を駆け巡っていく。


 セイルはすぐさま筆を執った。


『貴女が僕に手紙を書いてくれるなら、僕は貴女を追いかけ続けると誓います。例え貴女が嫌がっても』


 その返事はほどなく届いた。


『貴方のそんなところを叱らなければならないのに、私はどうしても、貴方を許してしまいます。貴方に生きていて欲しいのに』


 セイルは泣き出したいほど胸が締め付けられた。

 もっと、もっと彼女のことが知りたい。

 僕らが失った時間を、貴女はどう過ごしてきたのか。

 苦労はなかったか。

 逃げたくなるような夜はなかったか。


『あの後の、貴女のことが知りたいです』


 やがて返事は返ってきた。


『貴方が行ってすぐ、戦争は終わりました。物資は少なかったけれど、必死に毎日を繰り返していれば、生き延びていくことができました』


『子どもは、どうなりましたか』


『年明けに娘を産みました。雪と名付けました。明るくて活発で、目元が貴方によく似ていました』


『貴女に似ているところはありましたか』


『お人好しなところは、私から継いでしまったかもしれません』


 読み進めるたびに、遠い彼方にいる百合子が、今この瞬間の自分に語りかけているように思えた。

 時間が足りない。

 もっと彼女と、いつまでも、ずっと話をしていたい。


 セイルは何度でも手紙を書いた。


 ────


 僕が、雪が咲いたら白いご飯を食べようと言った約束を、覚えていますか?


 ────


 昨日のことのように覚えています。

 あの頃は、それが何よりのお祝いでしたね。


 ────


 あの約束を守れなくて、後悔してもしきれません。

 今からでも、貴女とそうやって生きていきたい。


 ────


 もうすぐお別れが来ます。

 今はご飯があまり食べられません。

 今度は私が、約束を破ってしまうかもしれません。


 ────


 きっと、良くなります。

 そんな哀しいことを言わないでください。


 ────


 私が逝ったら、梅の木の下に灰を撒いてください。

 そうすれば、いつまでも貴方を見守っていられます。


 ────


 貴女が居なくなるときは、僕も貴女の傍に眠ります。

 僕は貴女と同じ灰になって、ひとつの梅の木になりたい。


 ────


 お願い、生きると約束をしてください。

 それだけが心残りです。


 ────


 百合子さん

 僕の魂は、永遠に貴女とともに。


 ────



 二人だけのやり取りは、途切れることなく続いていく。


 彼は思った。


 僕はもう、女神にも悪魔にも願わない。

 貴女の最期のとき、僕は貴女を、永遠に僕のものにする。


 心から。

 僕は貴女を、愛している。






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