再会
「雪が咲くって……”清一”と、今……エマ?」
セイルの声は掠れ、戸惑いに震えていた。
「言わないまま逝こうと思っていたのに……『生きていたくない』なんて言うんですもの……ずるいわ、清一さん」
エマは、百合子として微笑んだ。その笑みに、セイルの時間は止まる。
エマはゆっくりとベッドから抜け出し、傍らで膝をついているセイルの隣に座り込んだ。震える指先でセイルの涙を拭う。彼女の指先は冷たく、かすかな力。二人の視線が絡み合う。
「清一さん……死ぬなんて、言わないで」
セイルには、それは紛れもない百合子の言葉として響いた。懐かしさが胸を突き抜けていく。
セイルはエマの頬に、恐る恐る手を添えた。彼女の存在を確かめるように。
「……百合子さん?」
「はい」
エマはセイルに、そっと触れるだけの口づけを与えた。凍り付いていたセイルの思考が、ゆっくりと溶けていく。
百合子さん
エマ
本当に? 百合子さん
幻でも見ている?
エマ……
繰り返す思考に呑まれて何も言えない。
「……エマは……百合子さん、なんですか」
やっと絞り出すように言葉にできたのは、そんなことだけだった。
エマはその言葉に微笑むも、頬に一筋の涙が伝う。
「エマは、百合子です。セイル様の……清一さんの、妻です」
その瞬間、セイルの胸に言い様の無い感情があふれだした。
彼女の一言が、全身を満たしていく。
感情がまとまらない。まるで夢のようで。信じがたい。戸惑いが消えていかない。エマは、百合子さんだった。いったい、どうして。
「いつから……」
「初めから」
「どうして言ってくれないんです」
「初めは貴方が清一さんだと、気付けませんでした」
「本当に、本当に……百合子さん?」
セイルの目は怯えたように揺らぎ、確信したいのに恐れているのがエマには解った。
エマはセイルを優しく抱き締めた。
「清一さん、百合子はここにいます」
セイルはその温もりに、百合子によって抱き締められたことを、ようやく実感した。
生きている。最愛の人。
百合子さんをやっと見つけた。
涙が堰を切ったようにあふれる。
とめどなく流れていく涙を、止められなかった。
恋しくて、会いたくて……もう二度と会えないと思っていた百合子さんが、目の前に。
僕を抱き締めて、生きていて、微笑んでいる。
何年も何年も、貴女だけを求めてきた。
今までの苦痛や恐れは、何もかも忘れてしまえる。
心の中に開きっぱなしだった穴が、満たされ、ゆっくりと塞がっていく。
会いたかった。
大好きだった。
この人が、全てだった。
「百合子さん……百合子さん……」
「清一さん……泣かないで」
「……寂しかった」
「……私もです」
「また会えて……幸せです……」
「……私も、幸せ」
セイルはエマを包み込むように抱き締めた。もうこれ以上ないほどに、彼女の全てを自らに取り込むように。
失われた年月が、ゆっくりと報われていく。
「……ずるいのは貴女です。こんなときに言うなんて、あなたはひどい人です」
「……ふふ。ごめんなさい」
「……愛しています」
「私も……貴方を愛してるわ」
セイルはやっと、微笑むことができた。
満たされ、怖いほどの喜びが込み上げる。
「……ね、清一さん、生きると、約束してくれる?」
エマは再度問いかけた。
セイルはしばし沈黙のあと、静かに呟く。
「……やっぱり、嫌です」
それが彼らしくて、エマは心の内でそっと頭を抱えた。
「……清一さん、お願い」
百合子の言葉に、セイルは幸せそうに微笑みながら、首を振った。
──もう二度と、貴女を離さない。




