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愛の証明

 リーリエ伯爵邸に甲高い悲鳴が轟いた。


「そんなお願いが聞けるわけないでしょう!!!」


 マリアベルの絶叫だった。


 バンッ――!

 けたたましい音を立てて貴賓室の扉が開かれるや否や、彼女は鬼の形相で廊下をずかずかと進み、執務室へ一直線に突撃してきた。


 いきなり扉を押し開けられたセイルは、書類を片付ける手を止め、呆気にとられる。

 後ろから護衛の騎士とエマが慌てて駆けつけてくるが、マリアベルの怒気はすでに沸点に達していた。


「リーリエ伯爵!!!」


 彼女は机を叩きつける勢いで叫ぶ。


「貴方、どれほどエマを愛しているか、今すぐ私に示しなさい!!!」


「……お姉様っ!」


 エマが慌てて呼びかけるが、マリアベルの視線はセイルを鋭く射抜いたままだ。

 涙目で喚き散らす姿は必死で、愛情の深さゆえに暴走しているのが明らかだった。


「……殿下、どうされたのです」


 セイルが静かに問うと、マリアベルは両手を振り上げ、捲し立てる。


「いいから答えなさい!! 貴方、エマのためにどれほどのことができる!? 地位や領地を捨てることは!?」


 しばしの沈黙の後、セイルは揺るぎない声で答えた。


「地位も領地も、全て手放せます」


「じゃあ、エマのために死ねる!?」


「はい」


「じゃあ……じゃあ……エマのために、人だって殺められるっていうの!?」


 一瞬、セイルはかすかに口許を綻ばせた。脳裏に、かつて対峙したレイモンド侯爵家の長男の姿がよぎった。


「もちろんです」


 その迷いのない返答に、マリアベルは青ざめ、震える手でエマを抱き締める。


「エマ!! こんな危険な男とは今すぐ別れなさい!! 今すぐに!!!」


「お、お姉様……落ち着いて……」


「うわああああん!!! 私のエマー!!!!!」


 マリアベルはその場に崩れ落ち、床に膝をつきながらエマを抱き締めて泣き叫んだ。


 その場に居合わせた者たちは皆、目を白黒させるばかり。

 護衛の騎士たちは右往左往し、ローラは困惑し、モーリスは深いため息をひとつ。

 ただ一人、エマだけが落ち着いていた。


 姉に抱き締められながら、困ったようにセイルへと目をやり、どこか優しく微笑んでみせた。



 *



 ひとしきり騒ぎ立てたマリアベルは、従者や護衛によって引きずられるように帰って行った。

 嵐のような一日だった。


「……グランフォード公爵の血を色濃く感じる方ですね」


「お姉様も、悪気はないのです」


 エマとセイルはマリアベルの馬車を見送りながら、佇んでいた。


「久しぶりに姉と話せて、嬉しかったです」


 エマは穏やかにほほ笑み、隣に立つセイルの手を握った。

 その手のぬくもりにセイルの心は跳ねる。


「……帰って、温かいものでも飲みましょう」


「はい」


 エマとセイルは手をつないだまま、屋敷の中へ戻って行った。

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