清一の回想_幼少期1(清一視点)
五歳の時に、親が目の前で死んだ。
子供の自分は、どんな怪我も治せるのだと信じて疑わなかった。けれど、どれほど力を込めても、瓦礫の下の両親は動かなかった。そのとき初めて、自分には癒せない現実があるのだと思い知らされた。
絶望を抱えたまま、親戚の家を転々とする日々が始まった。笑いもしない不気味な子供に、世間はいつまでも優しくしてくれない。数年のたらい回しの果てに、ようやく落ち着いたのが早川の屋敷だった。
早川家は、その地方では名の知れた家柄だった。周囲の困り事は最終的にここに集まり、解決されていった。父が早川氏と親しかった縁もあり、俺はその家に身を寄せることになった。
――そして、彼女に出会った。
「はじめまして、早川百合子といいます」
初めて目にした百合子さんは、清潔な洋服に身を包み、上品な佇まいで微笑んでいた。
家も、家族も、友人も――俺とは違い、彼女はすべてを持っている。満たされていることが一目でわかる。そんな彼女を見ると、自分の惨めさばかりが際立つ気がして、俺は心を守るように距離を置いた。
それなのに、百合子さんは何度も話しかけてきた。
俺に声をかけてくる人間は他にもいたが、無反応が続けば皆すぐに諦めてしまう。けれど、彼女だけは違った。飽きることなく、根気強く。
「この本がとても面白かったの! 清一さんは本がお好き?」
「今日の授業は退屈だったわ。先生ったら勘違いして、先週と同じ授業をするんだもの」
「清一さん見て!猫の赤ちゃんがいたのよ!」
彼女は言葉のない俺の手を引いては、何かと世話を焼いた。その優しさが気遣いであることはわかっていたけれど、俺にはただ、苦しかった。彼女の親切に触れるほど、自分の惨めさが突きつけられるようだった。
ある日、とうとう俺は、初めて彼女に声を投げつけた。
「もう僕に関わらないでください。あなたといると、僕は惨めになるんです」
その瞬間の百合子さんの顔――あの傷ついた瞳を、俺はいまも忘れられない。言ってしまった途端、胸の奥が凍りつき、取り返しのつかないことをしたと後悔した。
けれど彼女は、困ったように、それでも微笑んだ。
「……ごめんなさい」
それだけを告げて、彼女は以後、俺に話しかけてくることはなかった。
以降、百合子さんを見かけるたびに、心臓をぎゅっと掴まれるような痛みが走った――。




