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邂逅

 エマは、足元に自分のものではない温もりを感じて目を覚ました。ゆっくりとまぶたを開けると、そこには彼女の夫、セイルの顔があった。穏やかで、安らかな表情をしている。


「……眠れましたか」


 彼が静かに尋ねる。


「……少し」


 昨夜の出来事が脳裏をよぎり、エマの頬は瞬く間に赤く染まった。シーツが小さく音を立て、セイルが優しく彼女を抱き寄せる。


「もう少し、このままでいてもよろしいですか」


 低く甘い声とともに、セイルは彼女の髪に顔を埋めた。吐息が耳元をかすめ、エマは全身がくすぐられるような心地に囚われる。


「もう……お好きになさって」


 羞恥でどうにかなりそうだったが、それでも彼を拒むことはできなかった。


「エマ……可愛いです。良い香りがします。愛しています」


 髪、額、頬へと、次々に触れる口づけ。からかわれていると知りながらも、エマはその愛情を慈しむように受け入れた。


「もう少しだけ、貴女が側にいてくれることを感じたいのですが……」


 切なげな声音に、エマの胸は強く締めつけられる。そんな風に求められては、断れるはずがなかった。


「……朝まで、まだ少しありますわ」


 彼の背にそっと手を回す。セイルは柔らかに微笑み、彼女の唇を静かに塞いだ。





 翌朝。セイルは身支度を整えながら、ふと切り出した。


「あの絵画は、片付けようと思っています」


 思いがけない言葉に、エマは目を見開く。


「……よろしいのですか」


「良いのです。ようやく、そうしたいと思うことができたのですから」


 微笑みながら淡々と告げるセイル。その表情に無理はなかったが、エマは彼の胸中を案じずにはいられない。


「……でしたら、一度その方にご挨拶をさせていただけませんか」


 おずおずと願い出ると、セイルは少し驚いたように眉を動かし、やがて静かに答えた。


「……解りました」


 その声は、自らを納得させるためのもののようだった。





 二人は執務室を訪れる。部屋の奥にある扉の向こうに、(くだん)の絵画がある。


「……なんだか緊張します」


 エマはわずかに微笑んで呟く。


「無理をなさっていませんか」


 セイルが気遣う。その瞳に宿る不安は、当然のものだった。

 エマはしっかりと頷く。


「大丈夫です。……参りましょう、セイル様」


 その力強い言葉に、セイルは意を決する。


 軋む音を立てて扉が開かれると、視界の正面に”それ”はあった。


 荘厳な額縁に収められた、一枚の肖像画。

 そこに佇む女性は、静かな微笑を浮かべながら、まっすぐこちらを見つめている。


 エマは思わず息を呑んだ。


 ――それは、彼女の前世。

 早川百合子の肖像だった。

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