奥様改造計画
庭園のテーブルに、お茶の香りがふわりと漂っていた。
エマ、ルーナ、そしてローラは、午後の日差しを浴びながらティータイムを楽しんでいた。
エマは時折こうして、使用人たちも同じ席に座らせてお茶会を開く。これまで公爵家でひっそりと暮らしてきた彼女にとって、肩肘張らない会話は心の底から安らげる時間だった。
今日の話題は、噂の「新しいお菓子」。
それはエマが頼んで作らせた、練り切りの原型だった。白いんげん豆を原料とした白あんと、山芋、それにお砂糖を練り合わせた、白くて小さな丸い塊。形は不格好でも、口に含めば素朴な中にしっかりとした甘みが広がる。
エマは一口ごとに幸せそうな笑みを浮かべたが、向かいのルーナはなぜか不満げに眉をひそめていた。
「どうしたの、ルーナ?」
問いかけると、ルーナは真剣な顔で言った。
「……このお菓子、確かに美味しいです。甘くって、とろけそうで……でも!」
ぱちんと目を見開き、彼女は力強く告げた。
「可愛くないんです!」
「……可愛く?」
エマとローラは同時に首をかしげる。
「そうです! ただの白い塊じゃ、全然ときめかないんです!」
勢いよく身を乗り出したルーナは、両手で宙に大きく輪を描くようにしながら熱弁した。
「今、町ではフルーツたっぷりのケーキやタルトが若いご令嬢たちを虜にしてるんですよ! 色とりどりで、まるで宝石みたいなお菓子たち……。奥様はあまりにも、可愛いものに興味がなさすぎです!」
エマは「なるほど果物を使って練り切りに色を付けるのもいいかもしれないわね」と、ずれた方向に思考を飛ばしてしまう。
だがルーナはそんなことお構いなしに、次の矛先を向けた。
「それに奥様の服装だって、いつも地味すぎます!」
「ルーナ!」
ローラが慌ててたしなめるも、ルーナは止まらない。
「奥様は本当にお美しいんです。なのに素朴で色の少ない服ばかり……。私はもっと奥様を輝かせたいんです……!」
最後のほうは少し声が小さくなったが、その瞳は真剣そのものだった。
確かにエマの服はいつも控えめな色合いだった。それは心の年齢が高い彼女にとっては落ち着く装いだったが、年頃の貴族女性としては地味すぎる。
「旦那様だって、あんなに奥様を大事にしているんですから。もっと奥様の魅力をお見せしなくては!」
不意にセイルの名前を出され、エマはドキッとした。エマは居たたまれずにローラを見る。だがローラは、なんと小さく頷いていた。
「……そんな、この年で恥ずかしいわ」
「奥様はまだお若いでしょう!」
思わず口にした言葉に、ルーナはぴしゃりと返す。
「お願いです、奥様。このルーナに"奥様改造計画"を任せていただけませんか?」
エマはその耳慣れない計画に少しばかり不安を滲ませた。しかしルーナにうるんだ瞳で上目遣いをされると、断る気持ちはすぐに霧散してしまう。
「……わかったわルーナ、よろしくね」
子供の機嫌を取るように微笑むと、ルーナはパッと満面の笑みを浮かべた。




