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第二話 タコ以外全部あるやん

「…………は???」


カサンドラは、グラスを片手に完全に固まった。


目の前に立つ黒髪の青年――ラルフ・オールステッドは、

細身の四角い眼鏡の奥から、至って真面目な顔でこちらを見ている。


聞き間違いかと思った。いや、聞き間違いであってほしかった。


「……あんた今、なんて言うた?」

「たこ焼き、作りませんか、と」

「そこは聞こえてんねん」


カサンドラは思わず身を乗り出した。


「なんであんたの口から『たこ焼き』が出てくんやって聞いとんねん!」


その言葉を聞いたラルフが、ほんのわずかに目を細める。


「やはり、ご存じなのですね」

「…………」


カサンドラの表情から、すっと笑みが消えた。

先ほどまでの婚約破棄騒動とはまったく別の緊張が走る。


「……あんた」

「はい」

「日本人なん?」


ラルフは静かに頷いた。


「……前世では」

「…………マジで?」


思わず、前世で使っていた言葉がそのまま漏れた。


「はい。日本で生まれて、日本で暮らしていました」

「どこ?」

「兵庫県です」

「兵庫のどこ?」

「明石です」

「明石!?」


カサンドラの声がひっくり返り、周囲にいた者たちがちらりとこちらを見る。

だが、もうそんなことを気にしている余裕はなかった。


「ほんまに明石!?」

「ええ。前世では明石に住んでいました。

毎朝、電車で三ノ宮の方まで通勤していましたよ」


「うわ、ガチやん……」

「ガチ、ですか?」

「いや、急に解像度高なったから」


カサンドラは、しばしラルフの顔を凝視した。


黒髪に、細身の四角い眼鏡。

けれど、その顔立ちは鼻筋がすっと通った彫りの深い西洋風で、

瞳の色も日本人にはまず見ない淡い灰青色だ。


仕立てのよい礼装に身を包んだ姿は、

どこからどう見てもエルドラド王国の侯爵令息だった。


それなのに、その口から明石だの三ノ宮だのという単語が出てくる。

頭が追いつかない。


「カサンドラ嬢は?」

「私? 大阪。生まれも育ちも大阪やで。前は梅田で働いとったわ」

「梅田ですか」


ラルフが少しだけ表情を和らげる。


「休日に遊びに行くこともありましたよ」

「ほんま?」

「ええ」


「私も三ノ宮の中華街よう行ってたわー」

「南京町ですね」

「そうそう!」


それまで疑うように見ていたカサンドラの顔が、ぱっと明るくなった。


「ほんなら、どっかですれ違ってたかもしれへんな!」

「……そうかもしれませんね」


ラルフも小さく笑った。


その瞬間だけ、華やかな卒業祝賀会の大広間も、王族も、公爵家も、

つい先ほどまでの婚約破棄騒動も、すべて遠くなったような気がした。


大阪、梅田、明石、三ノ宮、南京町。


もう二度と誰かと口にすることもないと思っていた懐かしい地名が、

今こうして当たり前のように通じている。


「……なんか、変な感じやな」

「ええ」


カサンドラはグラスを指先でゆっくり回しながら、

まだ信じられないようにラルフを見た。


「この世界では今日初めてちゃんと喋ったのに、

急にめっちゃ近所の人みたいになったわ」


「明石と大阪なら、この世界で考えれば随分近いでしょうね」

「ほんまそれ」


思わず笑ってから、カサンドラはグラスを口元へ運び、果実水をひと口飲んだ。

先ほどまで喋り続けて乾いていた喉も、ようやく少し落ち着いてきた。


「……私な、もう二度と日本の話できる人なんかおらんと思っててん」


ぽつりと零した声は、先ほどまでとは違っていた。

怒鳴り声でもなければ、勢い任せの関西弁でもない。

ただ、遠い故郷を懐かしむような響きがあった。


「日本のこと覚えてても、誰にも言われへんやん。言うても意味分からんやろし。

電車も、コンビニも、スマホも……全部、自分の中だけに残っとって」

「分かります」


ラルフも静かに頷く。


「僕も、前世の話が通じる方にお会いしたのは初めてです」

「やっぱり?」

「はい」

「そっかぁ……」


カサンドラは少しだけ目を伏せた。


別に今の人生が嫌だったわけではない。

ヴァレンシュタイン公爵家の娘として生まれ、

両親から愛され、何不自由なく育った。

この世界で得たものも、今では間違いなく大切な自分の人生だ。


それでも、前世のことを覚えている自分だけが、

時折どこかに取り残されたように感じることはあった。


誰にも説明できなかった記憶を、

説明しなくても分かってくれる人間が、今こうして目の前にいる。


「……ほんまにおったんやなあ」

「何がです?」

「私以外の転生者」

「ここにいますね」


あまりにも平然と返され、カサンドラは一瞬黙った。


「なんかもっと感動的な返しないん?」

「事実を申し上げただけですが」

「そういうとこやで」

「何がでしょう」


しれっと首を傾げるラルフに、カサンドラはとうとう吹き出した。

妙に落ち着いた男だが、今はそのくらいの方がありがたい。


「それにしても」


ひとしきり笑ったところで、ラルフが改めてカサンドラを見る。


「最初の『もうええて』には驚きました」

「……あー」


今度はカサンドラの顔が露骨に引き攣った。


「聞いた瞬間、まさかとは思ったのですが」

「それだけで?」


「ええ。あまりにも聞き覚えのある響きでしたので。

その後のお話でほぼ確信して、最後に『ひっさびさに関西弁で』と仰っていたので間違いないかと」


「……そこまで聞いとったん!?」

「近くにいましたから」

「恥ずかし!!」


先ほどまであれだけ堂々と第二王子を喋りしばいていた女とは思えないほど、

カサンドラはがっくりと肩を落とした。


「いやもう、ほんま久しぶりに出たわ。あんな全力で関西弁喋ったん」

「普段は使われないのですか?」

「使う相手おらんもん。頭ん中では普通に喋っとるけどな。

表で出したんは……いつぶりやろ」


幼い頃は、前世の癖で時々妙な言葉遣いをしていた。

そのたびに家庭教師から直され、公爵令嬢らしい言葉を身につけていった結果、

今ではそちらの方が自然なくらいだ。


けれど先ほどは、十数年間しまい込んでいたものが一気に噴き出した。


「……そら疲れるわ」

「相当な勢いでしたからね」

「誰のせいや思とんねん。……いや、あんたちゃうわ」


「僕は何もしていませんね」

「せやな」


カサンドラはまた笑った。


なんだかおかしい。

今日初めてまともに話した相手なのに、妙に気を遣わずに喋れる。

今使っているのはこの世界の言葉のはずなのに、

前世で培った感覚や言い回しまで、そのまま通じているような気がした。


「……あ」


そこでふと我に返る。


「そういや、私ばっかり喋ってもうたな」

「構いませんよ」


「いや、あんたにも聞きたいこと山ほどあるし」

「僕もです」


ラルフはそう答えたものの、すぐにカサンドラの手元へ視線を落とした。

グラスの中身は、もうほとんど残っていない。

続いて、先ほどまで騒ぎの中心にいた彼女の顔を静かに見る。


「ですが、今日はもうお疲れでしょう。

婚約破棄を宣言されて、濡れ衣を着せられかけて、

そのうえ第二王子を言葉で叩きのめした直後です」


「最後いらんやろ」

「事実です」

「もうええわ」


思わず出た言葉に、ラルフが少しだけ笑った。


「詳しい話は、また改めませんか?」


確かにその方がいい。カサンドラは一瞬考えてから、素直に頷いた。


「……そうしてくれる? さすがに今日は情報量多すぎて、頭パンクしそうやわ」

「では後日、改めてお時間をいただいても?」


「うん。私ももっと話したいし」

「ありがとうございます」


ラルフは丁寧に一礼する。

そこで話は終わる――はずだった。


「……あ、ちょい待って」


立ち去りかけたラルフを、カサンドラは思わず呼び止めた。


「はい?」

「一個だけ聞いてええ?」

「どうぞ」

「なんで第一声がたこ焼きやったん?」


ラルフは少しだけ考えるように黙ったあと、何の衒いもなく答えた。


「作りたいからです」

「そこなん!?」


思わず声が大きくなる。


「いや、日本人かどうか確認する方法、他になんぼでもあったやろ!」

「ですが、『たこ焼き』なら大阪の方にはまず通じるかと」


「大阪人をなんや思てんねん!」

「たこ焼きには詳しい方々かと」


「偏見や!」

「違うのですか?」

「…………」


カサンドラは黙った。

ラルフは何も言わず、静かに返事を待っている。


「……まあ、作れるけど」

「やはり」

「その『やはり』腹立つな!」


ラルフの口元が、わずかに緩んだ。


「では、その話もまた後日ということで」

「……ほんまに作る気なん?」

「もちろんです」


迷いのない即答だった。

カサンドラはしばらく彼を見つめていたが、やがて諦めたようにため息をつく。


「分かったわ。ほな次会った時、詳しく聞かせてもらうからな。

なんでたこ焼き作ろう思ったんかも、どこまで準備してんのかも」

「承知しました」


するとラルフは、ほんの少しだけ意味ありげに眼鏡の位置を直した。


「それについては、お見せした方が早いかもしれません」

「……何それ」

「次回のお楽しみということで」

「なんやねん、めっちゃ気になるやん!」


だが、ラルフはそれ以上何も答えず、ただ穏やかに微笑むだけだった。



数日後。


カサンドラを乗せた馬車は、王都にあるオールステッド侯爵邸の前で止まった。


あの卒業祝賀会からまだ数日しか経っていない。

当然ながら、ライノルトとの婚約については

王家とヴァレンシュタイン公爵家の間で協議が続いているし、

パウラが受けていた嫌がらせについても調査中だ。


とはいえ、カサンドラ本人が今すぐ何かをしなければならないわけではない。


ならば。

――たこ焼きの話を聞きに行こう。

我ながら、数日前まで婚約破棄騒動の中心にいた人間の行動とは思えない。


「まあ、ええか」


小さく呟いたところで、馬車の扉が外から開いた。


「お待ちしておりました、カサンドラ嬢」


そこに立っていたのはラルフだった。

黒髪をきちんと整え、今日も細身の四角い眼鏡をかけている。


学院の祝賀会とは違い、少し簡素な装いだったが、

それでも侯爵令息らしい品のよさは崩れていない。


「こんにちは、ラルフ様。本日はお招きいただきありがとうございます」

「こちらこそ、お越しいただけて嬉しいです」


そう言うと、ラルフはごく自然な動作でカサンドラへ片手を差し出した。


「足元、お気をつけください」

「……え?」


一瞬、意味が分からなかった。

だがすぐに、それが馬車を降りるためのエスコートだと気づく。


「あ……ありがとう」


カサンドラがその手に自分の手を重ねると、

ラルフは何事もないように支えてくれた。


たったそれだけ。


貴族の男として、ごく普通の振る舞いなのだろう。

それなのに、なぜか妙に意識してしまう。


ライノルトはこういうことをほとんどしなかった。

必要な場面では形式的に手を差し出すこともあったが、

いつもどこか「婚約者なのだから当然だ」という態度だった。


それに、第二王子の婚約者だったカサンドラへ気軽に近づいてくる男性など、

これまでほとんどいなかった。


「どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない」

「そうですか」


ラルフは特に気にした様子もなく手を離し、そのまま屋敷の中へ案内する。


カサンドラはその背中を見ながら、なんとなく落ち着かない気持ちを振り払った。

(なんなん、この人……)

本人は何とも思っていなさそうなのが、余計に腹立たしい。


侯爵夫妻への挨拶を済ませたあと、ラルフが案内したのは客間ではなかった。


「こちらです」

「……ここ?」

「ええ」


扉を開けた先にあったのは、広めの作業室だった。


壁際には工具や見慣れない器具が並び、

その反対側には簡易な調理台まで設置されている。

棚には乾燥させた香草や海藻らしきもの、複数の瓶に入った液体、

粉末などが整然と並べられていた。


カサンドラは部屋へ一歩入ったところで足を止めた。


「……あんた普段ここで何してんの?」

「色々と」

「色々の範囲広ない?」


「日本のものを再現できないか試しているうちに、こうなりました」

「こうなる?」


普通はならない。

カサンドラが呆れながら室内を見回していると、

ラルフは作業台の中央に置かれた布へ手を伸ばした。


「先日お話ししたものですが」

布が取り払われる。

「…………」


「銅製です」

「いや、めっちゃ本格的なたこ焼きプレートやん!」


カサンドラは思わず作業台へ駆け寄り、食い入るようにそれを覗き込んだ。

記憶にあるものと多少形は違うものの、どう見ても立派なたこ焼き器である。


「これ、どうしたん!?」

「作りました」


「作りました、ちゃうねん! なんで作れんの!?」

「正確には、私が設計して職人に製作を依頼しました」

「いや、それでもおかしいやろ!」


呆れながらも、カサンドラは銅板の穴を一つずつ眺めていく。

見れば見るほど、適当に形だけ真似た代物には思えない。


「……めっちゃちゃんとしとるやん」

「一応、三号機ですから」

「三号機!?」


思わず顔を上げると、ラルフは平然と棚の一角を示した。

そこには、微妙に厚みや形の違う銅板が二枚並べられている。


「一号機は銅板を厚くしすぎて重くなり、

二号機は逆に薄くしすぎて温度が安定しませんでした。

今のところ、この三号機が一番扱いやすいですね」


「たこ焼き器にガチで試作三号機まで作るなや!」


ここまで来ると、さすがに前世で何をしていた人間なのか気になってくる。

カサンドラはたこ焼き器から顔を上げ、真顔で尋ねた。


「……あんた、前世何してたん?」

「機械関係の会社で設計の仕事をしていました」


「ガチの技術屋やん!」

「今世でも似たような分野の研究をしていますので、多少は応用が利きます」


「応用するとこ、たこ焼き器でええん?」

「食べたいので」

「理由が強いな!」


そこまで堂々と言い切られると、もはや何も言えない。

今度はラルフが尋ねてきた。


「カサンドラ嬢は、前世では何をされていたのですか?」


「私? 試薬とか理化学関係のもん扱っとる卸会社で営業事務。

見積したり、注文処理したり、納期確認したり、営業の無茶振り処理したりな」


「なるほど」

「何がなるほどなん?」


「先日の話の整理が非常に早かったので」

「婚約破棄を業務処理みたいに言うな!」


ラルフは少し笑うと、今度は作業台の横に並べていた瓶へ手を伸ばした。


「器具については、ある程度形になりました。次は材料です」


「そうや。たこ焼きいうても、タコ入れたら終わりちゃうで。

青ネギいるやろ、紅ショウガもいるし、天かすも欲しい。

あとはソースに鰹節、青のり。好みでマヨネーズも」


「そのあたりは、おおむね代替品を見つけています」

「…………は?」


今日二度目の言葉が、思わず口から漏れた。


ラルフは気にする様子もなく、まず細長い葉野菜を一本手に取る。


「こちらは香りがかなり青ネギに近いです」

「……ほんまや」


「紅ショウガについては、この根菜を酢漬けにして、赤い香草で色を付けました。

天かすは揚げ衣ですので問題ありません。ソースも完全な再現ではありませんが、

数種類の野菜と香辛料を煮詰めて、かなり近いものを作っています」


「そこまでしてんの!?」


カサンドラが驚いている間にも、ラルフは次々と瓶を作業台へ並べていく。


「マヨネーズもあります」

「あるん!?」

「卵と油と酢で出来ますから」

「そりゃそうなんやけど!」


「鰹節に近いものは、燻製して乾燥させた魚を薄く削ったものを使えそうです。

青のりについても、香りの近い海藻を乾燥させて粉末にしてあります」

「…………」


とうとうカサンドラは黙り込んだ。


目の前には、たこ焼き器、青ネギ、紅ショウガ、天かす、ソース、マヨネーズ、鰹節、青のり。

ほぼ揃っている。


どう考えても、あと一つだけだった。


「……ラルフ」

「はい」


「タコ以外全部あるやん」

「そうなんですよ」


「なんで一番大事なもんだけないねん!」

「僕も探したのですが、王都では見つけられませんでした」


どうやら、そこが最大の問題だったらしい。

カサンドラは呆れながら、もう一度たこ焼き器と、

ずらりと並んだ材料へ目を向けた。

ここまで揃えるだけでも相当な手間だったはずだ。


「それにしても、ようここまで準備したな……」

「一人では限界もありましたが」


「何が?」

「たこ焼きを焼ける人がいませんでしたので」


思わぬ答えに、カサンドラは目を瞬いた。


「……あんた明石人やろ? 焼かれへんの?」

「たこ焼きと玉子焼きは違いますからね」


妙にきっぱりと言い切られる。


「そこだけ急に明石人のプライド出すなや! ほな玉子焼きは焼けんの?」

「いえ。食べる専門でした」

「焼かれへんのかい!」


悪びれもしないラルフに、カサンドラは思わず突っ込んだ。


「前世ではほとんど自炊をしていませんでしたから。

昼は社員食堂、夜は定食屋などで済ませることが多かったですね」


「典型的な一人暮らしの理系男やん」

「否定はしません」


「休日くらい料理せえへんかったん?」

「たまに簡単なものを作る程度です」


「ようそんなんで日本食再現しよう思ったな」

「誰も作ってくれませんので」

「……切実やな」


それだけは、カサンドラにも少し分かる気がした。

食べたいものがあっても、この世界では店へ行けば出てくるわけではない。

欲しければ、自分でどうにかするしかないのだ。


「カサンドラ嬢は、自炊されていたのですか?」

「そりゃ大したもんは作られへんけど、それなりにはできるで。

外食ばっかしてたらたこつくやん。営業事務は薄給やねん」


「それは……切実ですね」

「せやろ。米炊いて、味噌汁作って、適当におかず一品あったら十分や。」


「僕より随分生活力がありますね」

「昼社員食堂、夜定食屋の人と比べられてもな!」


カサンドラが笑うと、ラルフもつられるように小さく笑った。


日本にいた頃なら、明石に住む機械設計の男と、梅田で働く営業事務の女が、

こうして料理の話をする機会などなかったかもしれない。

それが今では、異世界の侯爵邸でたこ焼き器を挟みながら、

前世の食生活について語り合っている。


本当に、何がどうなるか分からないものだ。


「それで」


ひとしきり笑ったところで、カサンドラは改めて材料を見回した。


「焼き手は私でええとして、肝心のタコどうすんの?」

「その件ですが、完全に同じものではないものの、

代用できそうな海産物に心当たりがあります」


「あるん?」

「ええ」

「何?」


ラルフは眼鏡の位置を軽く直し、至って真面目な顔で答えた。


「クラーケンです」

「…………」


カサンドラは数秒、黙った。

クラーケン。

この世界にも当然のように存在する、巨大な海の魔物だ。

そして、カサンドラの前世の知識が正しければ。


「……それ、イカやん」

「分類上は魔物ですが」

「そういう意味ちゃうわ!」


即座に突っ込むと、ラルフは少し考えるように首を傾げた。


「ですが、脚の食感は近いかと」

「近かったらなんでもええんか!イカ入れたらたこ焼きちゃうやろ!」

「では、イカ焼きにしますか?」

「なんで方向転換すんねん!!」



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