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はなしてあげられない・わかれてあげられない  作者: IROKA


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#4 竜人の国から生きて帰ってこられた!!

私は無事に騎士団の仲間たちと合流し、愛馬のルナピエーナとも再会することができた。

(私、生きて帰ってきた者がいないと言い伝えられているあの竜人帝国から、生きて帰ってこられたのよ!!)


その夜。

酒場を貸し切って、私たちは祝杯をあげている。

私の無事、私とノクティウス様のご縁、うちの騎士団には所属しないけど、これから行動をともにするノクティウス様を歓迎する意味を込めてね。

本来なら、任務完了の打ち上げになるはずだったのだけれど、魔物の討伐が完了したことなんて、私が拐われた事件によってみんなの記憶から消えていたわ。だって、ドラクロスでのことばかり質問攻めされて、誰も魔物討伐の話なんてしていないもの。

『竜人帝国はどんなところだった。』

『あの竜人帝国から、どうやって生きて戻ってこられたんだ。』

『竜人に勝負を仕掛けたのか。』

『竜人との戦いはどうだった。』

『何人打ち負かしたんだ。』

とかね…。

「ちょっと、さっきから勝手なことばっかり言って!人を、竜人帝国に戦いを挑みに行ったみたいに言わないでくれる??私が連れ去られたところ見てたわよね!?」

「だが実際、ティアは、うちの騎士団長と手合わせをして負かせたからな。」

みんなが口々に、

『ほら、やっぱり。』

『竜人帝国の騎士団長を負かせるなんて、うちの副団長は怪物だな。』

『副団長、嫁のもらい手が見つかってよかったですね。うちの国に、副団長を嫁にしようとする奴はいないから。』

などと騒ぎ立てている。

「ティアに相手がいないのは、俺にとっては幸運なことだが。なぜ、ヘイスティングズの者たちはティアを嫁にしたがらないんだ??俺には理解し難いのだが。」

ノクティウス様が真剣な顔で、なぜ私が嫁として敬遠されているのかを仲間たちに尋ねるから、私はいたたまれない気持ちになったわ。番に対して贔屓目が過ぎるノクティウス様の言動に、ジャスティンは笑ってる。

「それは、副団長が結婚相手へ望む、譲れない条件というのが、"自分より強い者"だからですよ。うちの国にそんな奴はいませんし、自分より強過ぎる副団長を嫁にしたがる物好きもいませんからね。」

ディグニファイドの説明を聞いたノクティウス様は、深く頷いていたわ。

「そうか。だが俺は、その条件を満たせているのか?ティアとの手合わせをしていないが…。」

「手合わせせずとも、大公殿下がお強いことはわかりますよ。」

不安そうに私へ視線を送っているノクティウス様に、ディグニファイドは即答した。

「僕が心配していたのは、副団長よりも強い者がいるかどうかではなく、副団長を嫁にしたいと思う者がいるかどうかでした。強い者がいたとしても、その相手が副団長を受け入れてくれるかは別問題ですから。」

「あら?ディグニファイドは団長の補佐だけでも大変なのに、私の結婚相手にまで頭を悩ませてくれていたのね。」

「僕は、団長だけでなく、副団長の補佐も担っていると自負していますからね。」

私は皮肉を言ったつもりだったのに、ディグニファイドの言葉に、団員たちが大きく頷いている。ディグニファイドは、団長と副団長わたしの補佐役として自他ともに認められているのね。

「突然、番だからと我が国へ連れて来られたにもかかわらず、ティアがこんなにも聞き分けの良い理由は、俺が結婚相手として心にかなっているからなのか??」

「私、ノクティウス様の番であることを受け入れてるって言いましたよね。信じてくれてなかったのですか?」

ノクティウス様は、私が彼との結婚を望んでいると知り、口元を緩ませているけれど、その表情はなぜか複雑そうだった。彼の口ぶりからすると、私と同じようにジャスティンによって強引に連れ去られたであろう番たちは、竜人の番という運命を受け入れられなかったのかしら?"強い相手に嫁ぎたい"という結婚願望を持つ、私と違って。

確かに、ノクティウス様と手合わせをしてないから、私より強いという証明はできていない。だけど、ディグ二ファイドが言っていたように、ノクティウス様が強いことはわかるの。彼の強さはあふれ出ているから。

私が、竜人の番という運命をすんなり受け入れることができたのは、結婚相手に望む条件をノクティウス様が満たしているからよ。でも。強さを証明できていないせいか、ノクティウス様はどこか不安そうに見えた。気になって声をかけようとしたところ、私の声は、団員たちの歓声と拍手喝采にかき消された。

ノクティウス様は、質問攻めする団員たちへ、私の食事の邪魔をしないでやってほしいと言ってくれた。ドラクロスに滞在している間、私が食事をとらなかったことを知っていたのね。

毒が盛られている疑いを捨て切れず、飲食をしなかった私の行動は、ドラクロスの者を疑う行為だった。だけど、自分の国の者が疑われたというのに、ノクティウス様は非難するどころ、『それでいい。』とおっしゃったわ。

自分の国に、なにか思うところがあるんだわ…。


しばらくすると、酔っ払った団員たちがノクティウス様へ絡みはじめた。

「本当に、結婚相手が副団長でいいんですか!?副団長は、淑女の嗜みってやつが皆無なんですよ。ダンス以外は。運動神経はバカみたいに抜群だからな。」

「だけど、副団長が馬車で連れ去られたときは、全員混乱したよな。いや、団長以外か。あの空飛ぶ馬車に乗りたいとか言ってたからな…。いや、あれ馬車か??とにかく!こんなハイスペックな旦那様を連れて死地から戻って来るなんて、さすが副団長。」

「自分は、副団長より強い奴がいるとしたら、ゴリラのような男を想像してましたよ。うちの団長みたいな。それが、まさかの男前!!」

「竜帝の弟で、騎士団の総長にしてドラクロス最強。目を引く黒髪に金眼きんがん、おまけに長身。神はなんて不平等なんだ!」

「ところで竜人最強って、どのくらい強いんですか!?大公様!今度、手合わせしてくださいよ!?」

『手合わせ』という言葉に、自分も自分もと、団員たちがノクティウス様へ詰め寄った。例に漏れず、私もね。

「ずるい!私も、ノクティウス様と手合わせしたいです!」

酔っ払った団員たちに絡まれるノクティウス様を見て、ジャスティンがあっけにとられている。

「いやぁ、新鮮な光景っすね。ドラクロスじゃ、酔っ払ったとしても陛下と殿下へ絡むような命知らずはいないからなぁ。そもそも、お二人との酒の席で酔える者もいないっすけど。」

一番に手合わせするのは自分だと訴える団長まで加わって、ノクティウス様はもみくちゃにされていた。


翌日。王都へと出発する直前に、ディグニファイドがノクティウス様へ大事な話があると呼び止めた。

「大公殿下。王都へ着くまでにはバレると思うので、あらかじめお伝えしますが。この騎士団は、国王が率いているにもかかわらず、一部の国民から煙たがられているのです。なので、殿下にも不敬な態度をとるかもしれませんが、どうか寛容なお心で見逃していただきたいのです。」

「…あぁ、心に留めておこう。」

ディグニファイドからあまりにも低く頭を下げられたノクティウス様は困惑して、私へ詳しい説明を求めた。それに対して私は、『…そのうちわかります。』とはぐらかした。


これから私たちは、魔物が棲息する森と接している国境に沿って馬で移動し、王都へと向かう。ドラクロスから乗ってきたキャビンは馬に引かせ、竜車から馬車に様変わりした。その馬車を操っているのはジャスティンよ。

ノクティウス様はいい馬が調達できるまで、愛馬のルナピエーナに私と相乗りすることになった。いい馬というのは、ノクティウス様の竜気に怯えない馬のことよ。ジャスティンは、馬車に乗らずに、わざわざ私を前に乗せて相乗りするノクティウス様のことを笑っていたわ。

一方、そんな私たちの仲睦まじい姿に、団員たちはざわついている。

『うちの副団長って、女だったんだな。なんだか普通に恋人同士っぽく見えるぞ。今のところは、な。』

『あぁ、今のところはな。けど、ドラクロス最強と、ヘイスティングズ最強の二人が結婚したら、普通の夫婦になれるわけない。』

『あぁ〜。確かに、異彩を放つ夫婦になりそうだよな。良くも悪くもな。』

『けどさぁ。あの二人、出会って数日とは思えない雰囲気に見えるのは俺だけか??』

『わかる。あの副団長が、ただの女に見えるもんな。強さだけじゃなく、顔も好みだったんじゃないのか?結局、副団長も顔のいい男には弱いんだな。』


「ノクティウス様、昨日からごめんなさい…。あいつら、酒の席に続いて、今も失礼なことばかり言って。自分たちの話が私たちに聞こえてることを知ってるはずなのですが。」

振り返って謝ると、ノクティウス様が真剣な顔で尋ねてきた。

「俺の顔は、本当にティアの好みなのか??」

どう答えようかと、彼の顔をじっと見つめていたら、期待と不安が入り混じった表情をしているから、なんだかおかしくて思わずからかいたくなってしまった。

「そうですわね。目鼻立ちが整っていて、素敵なお顔だと思いますわ。」

お顔が整っていると褒めたら、ノクティウス様が顔を赤らめている。ご自分で尋ねておいて、照れてるのよ。

「番様に対しての殿下の反応は新鮮だったけど、だんだん笑えなくなってきたっす…。」

ジャスティンは馬車を走らせながら、寒そうに腕をさすっていた。

(私に対しての反応??)

ジャスティンの言葉で、ノクティウス様が、番の一挙手一投足に反応してしまうと気づいた私は、悪ノリした。

「はじめてお会いしたとき、その黒髪は夜空のようで、瞳は満月みたいできれいだと思いました。あなた様の、光に照らされつやめく黒い御髪おぐしも、目が合うとそらせなくなる、その金眼きんがんもすごく好ましく思っておりいます。それから!この、たくましい腕の筋肉もすばらしいですわ!!羨ましい!」

手綱を握るノクティウス様の腕がうっとりするほどたくましくて、頬ずりしてしまう。

「ティア、やはり色恋に疎いと言っていたのは嘘なのだろう!?」

「嘘じゃありません。それより、やっぱり私と手合わせしてください!?」

「あっ。番様は、結局そこに辿り着くんすね。」

そう言って、ジャスティンはまた笑った。そんな飄々として、掴みどころのないジャスティンだけど、時々複雑そうな表情を見せていた。

昨晩、数日前に遭遇した暴走竜の話をした際も、悲しそうな顔で、あれは番を亡くした竜人が自我を失い、竜化し暴走したのだと教えてくれた。あの竜は闇堕ちしていて、もう助けられる状態ではなく、始末するしかなかったのだと。

『まだ、107歳の若者だったんす…。』

そう嘆いたジャスティンの言葉に、時間の捉え方の差に、種族の違いを改めて感じたわ。竜人にとって107歳は、若者なんだと。

あのとき。ノクティウス様が、『早過ぎる』と言っていたのは、あの竜人の寿命を指していたのね。



いくつか街を通り過ぎ、ある街でのこと。

「わー!?大変だ!ゴリラ騎士団が来たー!!」

この街の子どもたちが、グレゴリオ団長率いる騎士団が来たことを大声で叫びながら街中を走っている。

「ノクティウス様。この街が、うちの騎士団を煙たがっている街のひとつです。」

「ひとつということは、他にもあるのか??」

「ええ、いくつもありますよ。」

苦笑いを浮かべる私を見て、ノクティウス様は街中を見渡し、その聴力で人々の会話から状況を把握した。

「なるほどな。魔物を討伐する際、随分と建物へ被害を出してきたようだな。」

「ええ、その通りです。うちの騎士団、まわりが見えない者や、魔力の加減ができない者の集まりなんです。」

魔物の討伐の際、最も優先すべきことは民の命。騎士団内で、そのことは共通理解できている。だけど…。民の命を守ることと、魔物の討伐に集中するあまり、建物や田畑へ甚大な被害を出してしまうの。しかも、そのときは反省するものの、次に活かせず、何度も同じ失敗を繰り返すから、国民たちからあきれられているの。

「グレゴリオ団長なんか国王なのに、『ゴリラ』呼ばわりされ、私たちは、『ゴリラ騎士団』と呼ばれているんですよ…。」

「だが、街の者たちから嫌悪の感情は感じられないな。魔物から守ってくれたことは感謝しているようだ。民にとってこの騎士団は、救済者であるとともに迷惑者でもあるのだな。」

「うちの団長は名声を手にしても、ご自分で台無しにしてるんです。損な役回りですよね?」

「損な役回りではありませんよね?自ら招いた結果なのですから、自業自得です。」

魔物を討伐し、民の命を守り、功績を上げても、それを自ら手放している団長に対して嘆いていると、ディグニファイドから指摘をされた。

「本来、我が団で一番力のある副団長が団長を止める役であるはずなのに、強い魔物と遭遇する度に、二人そろって暴走してしまうからまわりに被害が出るんですからね。ご自分が副団長だという自覚をちゃんと持ってくださいよ。」

「…はい。いつも、後始末させてしまって、申し訳ないと思っているわ。」

ディグ二ファイドのド正論に、耳が痛いわ。

ダグラーに対しては偉そうなことを言っていた私が、同じようなことを部下に注意さられているのを見て、ノクティウス様にどう思われたかしら?気になって横目でちらっと見てみると、私が暴走しがちだと知っても、彼はあきれた様子もなく笑っていた。


今まで私が目にしてきた番合つがいあう獣人たちは、相思相愛で、溺愛し合い、出逢った瞬間に相手が番であると本能的にわかったと言っていた。それはきっと、ノクティウス様も、私に対してそうなのだと思う。私たちは、お互いのことをまだよく知らないけれど、ノクティウス様なら、どんな私も受け止めてくれるんじゃないかって気がするもの。


だけどね…。

出逢った瞬間に相手が番だとわかるという、その本能は、人間にはない感覚なのよ。そのことがノクティウス様を不安にさせている原因だと、私はまだ気づいていなかった。












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