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はなしてあげられない・わかれてあげられない  作者: IROKA


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23/25

#23 もう一度、私たちのもとへ

「これまでの記憶を持って生まれたママは、今度は長生きするんだって奮闘してたよね。それで、キツネが迎えに来たとき、声が出せないって嘘をついたの。お店に入って来たパパとキツネに向かって、『いらっしゃいませ!』って言ってたのにね。なんで嘘をついたのかはわかんないけど、キツネがオロオロしてて、おもしろかったなぁ。」

「自分は、本当は3代目様が話せること、わかってたっすよ。」

シルフィーは、シャルロッテとノクス様が出逢ったところも見ていたのね。

「そういえば、大っきな森で草取りしているとき危なかったんだよ?ママは全然気づいてなかったけど、獣とか魔物に狙われてたんだからね。私が、やっつけてあげてたんだよ。」

「そ…そうだったの??魔物に襲われないのは、ノクス様の鱗と加護のおかげだと思っていたわ。シルフィーが守ってくれていたのね。ありがとう。」

大森林で危険な目に遭いそうだったことを、心配症なノクス様から叱られると察知した私は、彼を視界に入れないように、シルフィーに顔を近づけた。

「だから、大森林は危険だと言っただろう?」

シルフィーに顔を近づけている私に、ノクス様が顔を近づけてきて、100年以上前のことをまた注意されちゃったわ。

「でもね、あのときのママは危なっかしかったけど、今のママは強いんだよ。草取りに夢中になってても、獣や魔物をやっつけてたもん。」

「ちょっと、シルフィー!?しーっ!」

シルフィーは、ノクス様に叱られる私をフォローするために、よかれと思って言ったのだろう。でも今ので、薬草を採取しに大森林へ行っていたことがバレてしまったわ…。

「ティア??大森林へ入ったのか?」

「…はい。」

「ティアが、あの森の獣や魔物にやられるわけがないのはわかっている。だがな。あそこには野生のドラゴンもいて、竜気に当てられる危険があるから、屋敷の敷地からは出ないと約束したはずだよな?」

「…はい。ごめんなさい…。」

ルナティアとして大森林で薬草採取をしたのは20年も前だけれど、『20年経っているから、もう時効ですよね。』と言える雰囲気ではないため、素直に謝ったわ。

「それで?何のために草を取ったんだ?」

「ミリアーナ様へプレゼントする、増強剤をつくるためです…。」

「皇后陛下への贈り物と言うが、増強剤を使うのは陛下だろう?つまり、ルミウスへの贈り物のためだったということか…。」

私が、他の人へプレゼントしたと聞いて、ノクス様が不機嫌になってしまった。

「殿下の独占欲も大概っすね。番様が、自分以外に物をあげるのがおもしろくないんすもんね。」

それを聞いたシルフィーが、ノクス様の目の前に飛んでいった。

「パパは、ママからプレゼントもらってるでしょ!?その魔道具とか、剣とか!!ずるい!!私も欲しい!」

「妖精は、服を着替えることも、剣を使うこともないだろ?」

「ママからのプレゼントが欲しいの!ミゲルだって、剣をもらってたもん!!」

「ミゲルに剣をあげたことも知っているのね。」

ドワーフにノクス様の剣をつくってもらう際、ミゲル用に短剣もつくってもらったの。鍛冶屋のあの子は、ドワーフ製の剣に興味を持っていたと聞いたから。

「やっぱり、殿下の血筋っすね。ご自分に必要なものかどうかは関係なく、番様からの贈り物に執着するところまで似てるっす。」

『似てないっ!!』

(うん。そっくりだわ。)

「パパずるい!!その黒い剣、私にちょうだい!」

「絶対に駄目だ!これは、俺がティアからもらったものだからな。」

シルフィーはものすごい力で、ノクス様から剣を取り上げようとしているの。こんなに小さな体のどこに、これほどの力が隠されているのかしら。

「うわぁ。妖精の姿をしていても、やっぱり殿下のお子なんすね。殿下の血を引くだけあって、魔力量がとんでもないっす。」

ノクス様とシルフィーが剣を引っ張り合っている様子を見て、ジャスティンが感嘆のため息をついた。

「その妖精の姿は幼く見えるが、250年以上生きてきたのだろう?いい年なんだから、もっと大人な対応を身につけるんだな。」

「えぇっ!?それパパが言う!?パパなんか300歳超えたのに、剣ひとつ譲ってくれないじゃない!!私はね、ミゲルの剣には手を出さないわよ。だって、お姉ちゃんだもの。」

「殿下は、ご自分の年のことには触れられたくなさそうなのに、お嬢様の年は指摘するんすね。完全に、ブーメランっすよ。」

ジャスティンの解説を聞きながら、父娘喧嘩の様子を見ていた私は、長引きそうな父娘喧嘩を止めさせてもらったわ。だってこの二人、放っておいたらいつまでもこうしてそうなんだもの。

「ねぇ、シルフィー。教えて欲しいことがあるの。」

「なぁに、ママ?」

私の手のひらに戻ってきたシルフィーへ、話の続きを尋ねた。

「ヴィオラに前世の記憶がなかったのは、シャルロッテが願ったからなの??」

「うん。ママは、パパの悲しむ顔を見たくないってお願いしてたでしょう?私ね、頑張ったんだよ。パパに見つからないように、ママの魔力を消したり、ジムを応援したり。」

「あのとき、なかなか番に会えなかったのはお前の仕業だったのか!?しかも、ジムを応援していただと!?なんて親不孝な娘なんだ!!」

「なによ!いつもいつも、ママを助けられないパパが悪いんじゃない!!」

二人の言い合いが、またはじまっちゃったわ。

「どうして口を開く度に喧嘩になっちゃうのかしら?」

「いちいち衝突しないと気がすまないんでしょうね。似た者父娘っすからね。」

『似てないっ!!』

「ねぇ?その喧嘩、私の話が終わってからにしてもらっていい??」

私のお願いに、二人は黙って頷いた。

「私は、ヴィオラが亡くってすぐに命を授かったようだけど、ヴィオラの願いはなんだったの?」

「あのとき魂になって体から出てきたママはね、子どもみたいにずっと泣いて大変だったんだよ。『ミゲル、ミゲル。』って、ミゲルのもとに飛ぼうとするから、止めようとしがみついたの。そしたら、私を背負ったまま飛んでいったんだよ。」

ヴィオラは、最期の瞬間までミゲルを想っていたけど、魂になった状態でも、それは変わらなかったのね。

「魂の状態で会いにいっても、ミゲルには見えないって説明したら、また泣いちゃったの。でも私の声が聞こえてたから、びっくりしちゃった。それまで、どんなにママに話しかけても、私の声は聞こえてなかったから。」

魂の状態になったから、シルフィーの声が届いたのかしら…。

「ママに声が届いたことがすごく嬉しくて、たくさんお話ししたくて話しかけたのに、ママが泣いてばかりいるから、『ママは、ミゲルのことばっかり!私のことも思い出してよ!』って思わず言っちゃったの。そしたらママ、また泣いちゃった。『守ってあげられなくて、ごめんね…。』って。」

ヴィオラはそこで、自分がもう一人子どもを授かっていたことを思い出したのね。

「私ね、ママの新しい命を急いで探したの。ミゲルが生きているうちに生まれ変わらないと、ミゲルには会えないからね。」

私が、他の番たちと生まれ変わる周期が違ったのは、シルフィーの力によるものだったのね。もう一度、ミゲルに会えるように。

「…ありがとう。シルフィーのおかげで、ミゲルに会うことができたわ。」

「ママ。ミゲルに会えて、よかったね。」

ニコっと笑うシルフィーへ、感謝の気持ちを込めて唇を寄せた。

「もしかして、私の背中に鱗をつけたのもシルフィー??」

「鱗??わかんない。それは、私じゃないよ?でもあのとき、急がなきゃって焦っちゃって、記憶を残してあげられなかったんだ。」

だから、私にうっすらと残っていた記憶は、最期まで呼び続けていた、"ミゲル"の名前だけだったのね。


シルフィーは、ずっと私たちを見守り、助けてくれていた。私たちは、シルフィーの存在に気づいてあげられなかったのに…。

命を守ってあげられなかった、こんな母親を慕ってくれるシルフィーに、なにをお返ししたら喜んでくれるかしら?


「ねぇ、シルフィー。お願いがあるの。もう一度、ノクス様と私のもとへ来て欲しいの。」

「パパと、ママのもとへ??」

シルフィーが首を傾げている中、ノクス様の意見を確認するため視線を送ると、彼は私の意思を尊重し、頷いてくれた。

「つまりね。この妖精の姿で一緒にいるんじゃなくて、今度こそ私たちの子どもとして生まれてきて欲しいってことよ。」

「パパとママの子に!?」

「といっても、今すぐの話ではないんだ。まずは、人間のティアが、竜人の子を安全に産める方法を見つけなければならないからな。」

「そうなの。今ね、ちゃんと産んであげられる方法を調べてるの。前は…、シルフィーを無事に産んであげられなかったでしょ?だから、その方法が見つかったら、私たちのもとに生まれてきて欲しいの。」

「うんっ。」

笑顔で了承してくれたシルフィーは、顎に人差し指を当てて、なにかを考え込みはじめた。

「ママが、パパの子を産む方法、知ってそうな人わかるかも!」

「本当に!?」

「本当だよ!今から会いに行こう!!」

シルフィーがそう言うと同時に、あたりの景色が一変した━━━。


「うわぁ。これはまた、えらいところに転移したっすね。見事なまでに断崖絶壁っす。」

「おい。もっと安全な転移場所はなかったのか!?ティアがケガしたらどうするんだ。」

「ノクス様、私は大丈夫ですから。それより、シルフィー。ここからどこへ向うの??」

「あそこ。」

シルフィーの指差した先は、この断崖絶壁の下だった。

「ねぇ、パパとキツネ。竜になって、この崖の下まで飛んでよ。」

そのとき、私たちの頭上を大きな影が通り過ぎ、私たちはその大きな影の本体であるドラゴンを見上げた。

「う〜ん??あれは、うちの父親っぽいっすね?」

「えぇっ!?あのドラゴン、ジャスティンのお父様なの??」

私たちのもとへ降り立ったドラゴンが人間化したら、ジャスティンそっくりの糸目の男性だったため、この人がジャスティンのお父様であることを確信したわ。ノクス様は背中で私の視線を遮り、ジャスティンは自分のマントを父親へ羽織らせた。その様子を見た私の頭の中には、服を着脱できるあの魔道具を購入してもらおうか、それとも差し上げようか2つの選択が浮かんだわ。

「ノクティウス殿下、ご無沙汰しております。お変わりございませんか?」

「ああ、変わりない。最後に顔を合わせてから久しいが、そなたも元気そうだな。」

「お目にかかるのは、ルミウス陛下の即位式以来になりますので、かれこれ100年は経ちますかな?お互い、変わりないようでなによりですな。」

100年ぶりに会った二人が、変わりないと挨拶するのを見て、違和感を覚えるの。セルリアンの"ちょっと"もそうだけど、やっぱり、竜人やエルフの時間の捉え方は人間とは違うんだわ。

「そなたがいるということは、近くに父と母もいるのか?」

「ええ。お二人は、この下におられます。」

この断崖絶壁の下に、ノクス様のご両親がいるそうなの。それは、さっきシルフィーが指差した場所と同じだった。つまり、シルフィーが言っていた、人間が竜人の子を産む方法を知っている人というのは…。

「おばあちゃん!!」

崖の下へ下りると、シルフィーは嬉しそうに、お義母様のまわりをぐるぐると飛びまわっている。お義母様には、シルフィーの姿は見えていないけれど。

パトリシアが亡くなったとき、生まれてくることができなかったお腹の子を偲んでくれたのは、お義母様だけだったそうなの。自分のことを気にかけてくれたから、おばあちゃんのことが好きなのだとシルフィーは言っている。

「お久しぶりです。父上、母上。」

「おお、久しいな。何年ぶりになるかは、わからぬがな。わははっ。」

「久しぶりですね、ノクティウス。突然、気配が現れたから、驚きましたよ。」

「それについては、俺自身も驚いているんですよ。」

行き先も告げずに転移したことをノクス様に責められていると感じたシルフィーは、頬を膨らませている。

「ところで、ノクティウス。もしかして、こちらのお嬢さんは、あなたの今の番なのかしら?」

「はい。俺の番の、ルナティアです。」

「はじめまして。ノクティウス殿下の5番目の番の、ルナティアと申します。」

私は自ら、『5番目』だと名乗ったわ。他人から指摘されると、モヤっとした気持ちになってしまうから。

それにしても、お二人の容姿は記憶の中にあるお姿と変わりないため、はじめましてという感じがしないわね。

「5番目だと?俺が知っているのは、3番目までだが…。4番目は知らぬうちに、すでに亡くなっているということか。ならば、またしても人間だったのだな。では、5番目も…。」

「失礼ながら、先代様に申し上げたいことがあります!」

お義父様のお話を遮ったジャスティンは、珍しく焦った様子だった。

「5代目様は、弱者扱いされるのを非常に嫌がりますので、人間を蔑むような発言はくれぐれもお控えください!この番様は以前、怒りに任せて暴走し、ドワーフの国やエルフの里に甚大な被害を出したそうです。先程も、妖精の森で暴れてましたからね。怒らせたら、この隠れ家も破壊されかねません。」

「ちょっと、ジャスティン。誤解を招くようなこと言わないでくれる??いくら私でも、お義父様とお義母様のお住いを壊したりしないわよ。それに、妖精の森で暴走していたのはノクス様の方じゃない。」

「仕方ないだろ!?ティアを正気に戻すためには、ああするしかなかったんだ。それにそもそもは、ティアを惑わせたシルフが悪いんだからな。」

ノクス様の言葉に、反論するようにシルフィーが突風を発生させた。

「もう…。ノクス様が、シルフィーのせいにするから、怒っちゃったじゃないですか。」

「番様だけじゃなく、妖精お嬢様も怒らせちゃダメっすね。」

「シルフィー、風を止めてちょうだい。ここは、お祖父様とお祖母様にとって大切な場所なんだからね。」


崖下にあるこの場所は、滝が流れ落ちてできた湖がエメラルドグリーンに輝いている。色とりどりの鉱物が付着している崖はキラキラと光っていて、滝裏の洞窟の中にはまばゆい光を放つ鉱石や宝石が山のように集められている。その洞窟を抜けると、巨大樹と一体化したツリーハウスが現れた。

ジャスティンが言ったように、『隠れ家』という呼び方がぴったりなこのツリーハウスが、お義父様とお義母様の愛の巣なの。これまでお二人が暮らしていた帝城と比べると小さいけれど、愛する人と大自然の中で、大好きなキラキラしたものに囲まれて暮らすお二人は幸せそうだった。









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