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はなしてあげられない・わかれてあげられない  作者: IROKA


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15/25

#15 4度目の結婚式を

明け方眠りに就いたばかりのティアを起こさぬよう、俺はそっと部屋を出た。すると、廊下でばったりディグ二ファイドと鉢合わせた。思わず眉間にシワを寄せたが、それは向こうも同様だった。俺たちは互いに、『朝から嫌な顔を見た。』と目を細めている。

「いくら休暇日だからといって、堂々と副団長の部屋で一夜を過ごされては、団員たちに示しがつかないので今後はやめていただきたい。ついでに差し出がましいことを申しますが、結婚前に夜をともにするのはどうかと思いますよ!?」

「風紀を乱したのならば、それは悪いことをしたな。」

「本当に、悪いと思ってるかは怪しいもんだけどな。」

「羨ましいからといって、そう吠えるなよ。負け犬感が増すだけだぞ。」

「クソっ!!羨ましいに決まってるだろ!」

悔しがるディグ二ファイドを未練がましい奴だと思うと同時に、その素直さが羨ましくもある。

俺は、ヴィオラに夫と子どもがいるのを目にしたとき、怒りで我を忘れそうになるのを必死にこらえ、相手が番であるとジャスティンに知られぬよう、その場から逃げ出した。俺の番を奪った夫と子ども、俺がいなくとも幸せそうなヴィオラに対しても怒りが込み上げてきて、どうにかなってしまいそうだったが、自分ではその感情を抑え込めていると思っていた。

本心では、幸せそうな三人を見て羨ましかった。それから、彼女の人生に俺は必要ないのだと絶望し泣きたかった…。けど俺は、彼女の夫に向かって、羨ましいなどと口にできなかった。対面したのは、ヴィオラの遺髪を届けるために訪ねた、あの一度切りだったが。

「おいっ!なに笑ってるんだよ!?バカにしてるのか?」

「いや。そんなにも、感情をあらわにできるのが羨ましいと思ってな。ティアに言わせると、俺は素直じゃないらしいからな。」

「ああ。誇り高き竜人様は、本心や弱さをさらけ出せない種族っぽいもんな。」

「おい。お前の方こそバカにしてるんじゃないのか?」

一触即発の俺たちの間に、ジャスティンがおもしろがって乱入してきた。

「朝からバチバチして、元気っすね。そんなに騒いでたら、番様が起きてしまうっすよ。殿下、さっき防音壁解除してましたもんね。昨晩も、よからぬ話でもしてたんすか?」

「ティアから、積もり積もったお前への不満話を聞かせられていた。」

「うわぁ…。心当たりはあるっすけど、自分は任務を遂行しただけですからね!?」

「それについても、思うところがあったようだ。竜帝の犬なのだから、常に主のそばにいればいいだろうとか。竜帝の犬といっても、お前の顔は犬より狐っぽいとかな。」

「番様、ひどいっす。自分、殿下の側近としての仕事も真面目にこなしてきたんすよ!?まさか、防音壁を張ってまで聞かれたくない話って、反乱の計画じゃないっすよね!?」

「ティアが権力なんか欲するわけないだろ。」

そう口にして、ふと、昨晩のティアの話ぶりを思い出し、エルフとドワーフによく思われていない理由が気になった。トラブルの原因は、権力ではないと思うのだが…。

そこで、事情を知っていそうなディグ二ファイドに尋ねた。

「ティアが、エルフやドワーフの国を訪れたとき何があったか、お前知っているか?」

「あぁ、俺もその場にいたからな…。エルフもドワーフも、副団長にとっての禁句を発したんだ。それを聞いた副団長は、キレて、暴れまくってたな。」

その状況を見ていたディグ二ファイドは、当時を思い出し、遠い目をしている。

「ティアにとっての禁句か…。エルフとドワーフは、ティアへ向かって、『弱い』とでも言ったのか?」

「そうだ。エルフもドワーフも、人間を下等で弱い種族だと言ったんだ。」

「弱いと言われ怒り、自身の強さを証明するために力を見せつけるティアの姿が目に浮かぶな。それで、ティアの怒りを鎮めるために、エルフは魔法を教え、ドワーフは剣をくれたのか。」

「まるで見ていたみたいに言うんだな。」

おもしろくなさそうなディグ二ファイドへ、俺は追い打ちをかける。

「ティアは、自分を副団長と認めなかった団員たちを容赦なく叩きのめしたのだろう?そのときと同じ状況だったのではないか?そういえばお前も確か、ティアに、骨も、プライドも、心も折られたんだよな。しかもそれを、ティアに忘れられているなんて哀れな奴だな。」

「あんたって本当、胸くそ悪い奴だな!!」

捨て台詞を吐いて、ディグ二ファイドはどこかへ行った。

「あ~あ。殿下も大人気ないっすね。いくら、ご自分と出逢う前の番様との時間をディグ二ファイドが共有していたからといって、あんな心をえぐるようなこと言わなくてもいいじゃないっすか。番様のすべてを把握しないと気がすまないなんて、困った人っすね。」

「あいつのティアへの想いを諦めさせるには、あれくらい言わないとな。わずかでも望みがあると期待させないように。」

「まぁ、自分は見てておもしろいっすけどね。あそこまで殿下に食ってかかる奴は、ドラクロスにいませんからねぇ。」

「そうだな。陛下は兄だから別として、俺に歯向かってくるのはお前くらいだ。」

「忠実な側近に向かって、なんて言い草するんすか。」

「どこが忠実なんだよ。お前が忠誠を誓っている相手は竜帝だろ。」

「番様への対応のことを言ってるんすか?」

代々、皇室へ仕える家門がいくつかあり、その中でも竜帝へ仕えている家系がジャスティンの血筋の者たちだった。俺の側近であり友人でもあるジャスティンが、俺よりも竜帝の命令を優先させるのは仕方のないことだと理解はしている。

「確かに自分が番様を帝城へお連れしたのは、陛下の命令でもありますけど、殿下のためでもあるんすよ。特に4代目様のときは、夫へ対して悋気りんきと殺意が殿下からあふれていたので、強制的に連れてきたんす。ご自分では気づいてなかったようですが、魔力暴走を起こす寸前だったんすからね。」

自分では、感情を抑えられていると思っていたのだが、どうやら殺意を隠せていなかったらしい。

「あのとき4代目様の夫と子どもを手にかけていたら、殿下は、番様から未来永劫にわたって恨まれることになっていたでしょうね。つまり、殿下が今、5代目様に受け入れられているのは、自分のおかげだと言っても過言じゃないっす。」

昨晩ティアは、ドワーフから剣をもらったとき、『ミュゲル』という名が自然と頭に浮かんだと言っていた。前世の記憶がない状態でも、『ミゲル』という息子の名は魂に刻まれていたようだ。記憶を思い出したティアは、ヴィオラが夫へ対して抱いていた想いは友情や家族愛だったが、それでも大切に思っていたと言っていた。

それと、ヴィオラが俺の加護を拒んだのは、唇を重ねる行為が夫への裏切りだと背徳感を抱いたためだったらしい。痛みを和らげていた俺の魔力が心地よかったからだけではなく、ただただ、もっと唇を重ねていたいと求めている自分が許せなかったのだと。

ヴィオラにとっても、彼女の記憶を持つティアにとっても、ジムとミゲルは大事な存在なんだ。もしも、20年前。負の感情に負け、彼らを手にかけていたら、ジャスティンの言う通り、俺はティアから拒絶されていただろう…。

「ほら。思い当たる節があったんすね!?」

黙り込む俺を見て、ジャスティンは鼻高々だった。

(こいつ、無性に腹が立つな。)


『ジャスティンが黒幕なら、一発殴ってやるのに。』


昨晩、ティアが話していたことを思い出し同感していると、ティアが部屋から顔を出した。

「二人とも、『手にかける』ってなんの話?」

ティアに嫌われたくない俺は、自分の醜く、残酷な思考を知られないよう押し黙った。が…。

「殿下が、番を奪われた憎悪によって、4代目様の夫と子どもを手にかけてしまいそうだったという話をしてたっす。」

「ジャスティンっ!!」

バカ正直に話してしまうジャスティンを怒鳴ったが、こいつの口は止まらなかった。

「4代目様には泣き叫ばれましたけど、自分は最悪な結末を避けるために番様を帝城へお連れしたんすよ。」

「ドラクロスへ連れて行かれたから、ヴィオラは亡くなったのだけれどね。それでも…。ジムとミゲルの身の安全を考慮してくれたことには感謝するわ。それとあなたね、番たちの死因に関わっているのではないかとシャルロッテから疑われていたのよ。」

ティアが、ジャスティンへ感謝するのはなんだか釈然としないのだが?

「えっー!?自分、3代目様に疑われてたんすか?でも自分、番様たちが急変するとき、そばにいなかったんすけど。」

「確かに。あなたは、毎回番の死の直前にそばにいなかったわ。だから、それが逆に怪しいんじゃない。アリバイが完璧なんだもの。」

「えぇっ!?とんだ言いがかりっす。自分は毎回、番様が急変したっていう知らせを殿下と一緒に聞いてるんすからね。4代目様が急変したと聞いたのも、番様をお連れしたことを殿下へ報告しているときでしたし。そうっすよねぇ、殿下!?」

「必死になるなんて、余計に怪しいわね。ヴィオラになにかしたあと、ノクス様のもとへ向かったのではなくて?」

黒幕がジャスティンではないと確信しているティアが、こいつを問い詰めているのは、これまで振り回されてきたことへの意趣返しのようだ。

「あ~あ。あなたが黒幕だったら、"一発殴って、あとは笑っておしまい。"って簡単でよかったのに。」

ジャスティンが、ティアの言動に困惑しているため思わず吹き出してしまった。こいつのこんな様子は珍しいからな。

「ちょっと、殿下はなに笑ってるんすか?番様は番様で、なんなんすか?人を犯人扱いして!?」

番たちの死因は、竜気を纏った魔力のせいだったが、ティアはそれよりも、ジャスティンが糸を引いていた方がよかった言っていた。竜人の魔力の影響を受けぬよう対処するのは難しいが、ジャスティンへは対応できる自信があるようだ。

「あなたとノクス様は同じ竜人族だけど、番と出逢っていないあなたには、ノクス様の気持ちがわからないのよね?」

「…え?今度は、なんすか??」

ティアが何を言いたいのかわからず、ジャスティンは警戒している。

「ねぇ、ノクス様。あなたにとっては4度目になるけれど、私とも結婚式を挙げてくれますか?」

「もちろん。今回は、会場も、ドレスも、招待客も、ティアが望む通りにしたらいい。」

「ありがとうございます。」

パトリシアのときは、第二皇子の結婚式らしく豪華な式だったが、列席者からの祝福はなかった。番が人間だったからだ。そのため、シエラとシャルロッテのときは招待客を呼ばず、簡素な式を挙げた。今にしてみれば、列席者からの魔力放出による祝福がなかったおかげで、3人とも結婚式で命を落とすことにならずにすんでいたんだ。

ヴィオラとは式を挙げていないため、ティアとの式は、俺にとって4度目の結婚式になる。

「今回は両親と兄にも出席してもらいたいから、人間の国で式を挙げたいです。」

「いやいや、無理っすよ!?皇族の結婚式は自由に挙げられないってことは殿下だってわかってるっすよね?もし、人間の国で式を挙げるなんてことになったら、陛下は参列しないと思うっすよ。」

『ルミウス様に列席いただかなくても構わないもの。』

『別に、兄が列席しなくとも構わないからな。』

「わぁ、息ぴったりっすね…。陛下が、式場はドラクロスでなければダメだと言ったら、どうするつもりなんすか?」

「そうね。ルミウス陛下を竜帝の座から引きずり下ろして、新たな竜帝には、あなたに就いてもらおうかしら?」

「はぁっ!?自分っすか??そこは普通、殿下でしょう。…いやいや、そもそも陛下を引きずり下ろしちゃダメっす!」

「竜帝の犬…、竜帝のキツネ顔の犬であるジャスティンが竜帝になったらおもしろいと思うの。それともあなたが言うように、ノクス様が竜帝の座に就いたら、あなたは、ノクス様の犬になるのかしら?」

「うわぁ。言い直してまで、キツネ顔って言う必要ありましたか??とにかく!自分の役目は、お二人の反逆を阻むことっすからね!」

「ティア、こいつをからかうのはこの辺でやめておくんだ。本気で反逆を企てていると思われ、陛下へ報告されたら面倒なことなるからな。ティアは、権力など興味はないだろ?」

ティアは、からかい足りない様子で、ジャスティンは、からかわれていたと知って喚いている。

「それで?結局、番様は一体全体なにがしたかったんすか!?ぶっちゃけ番様って、結婚式にもドレスにも興味があるとは思えないんすけど。」

「私がしたいのはね、結婚式であなたの番を見つけることよ!!」

「…え?結婚式で、自分の番をっすか??」

俺も意味がわからず、ジャスティンとともに首を傾げる。なぜ俺とティアの結婚式で、こいつの番を見つけなければならないんだ。

「長い間ドラクロスで見つからないのだから、あなたの番はきっと竜人じゃなく他の種族なのよ。だから、結婚式に多くの種族を招待して、その中からあなたの番を見つけるの。」

「ティア。それは、俺たちの結婚式ではなく、こいつの見合いになってしまうのではないか?」

「私たちの結婚式で、ジャスティンの番を見つけられたら一石二鳥じゃないですか。私たちの結婚式を、ジャスティンの出逢いの場にするんです。ノクス様も一緒に、ジャスティンが番と出逢う瞬間に立ち会いましょう!!」

「俺は、こいつが番と出会おうが、出会わなかろうが塵ほども興味ないんだが。」

「私は見つけた番と、ジャスティンよりも仲良くなって、ジャスティンをヤキモキさせてやりたいんです。」

「うわぁ、タチ悪いっすね。」

ティアを悪く言ったジャスティンに平手打ちを食らわせ、そのまま口を塞いでやった。


ティアは、長きに渡り俺の番たちを振り回してきたジャスティンへの仕返しに、こいつの番を見つけ、振り回してやるつもりらしい。









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