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はなしてあげられない・わかれてあげられない  作者: IROKA


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14/25

#14 それだけは、違っていてほしかった…

番たちが自分へ好意を抱いていたと知り、嬉しそうに微笑んでいたノクス様は、ふと不安げに表情を曇らせた。

「ティアは、俺を恨んでないのか…?生まれ変わっては何度も俺の番として生まれるなんて、呪いのようだろ?それに俺は、その度に番を助けられず、いまだに死因さえ突き止められずにいる。それでも本当に、こんな俺と生きてくれるのか??」

ノクス様の瞳は不安そうに揺れている。

「確かに、ドラクロスや帝城に対して気の抜けない場所だと警戒心を持っています。だけど、ノクス様を恨んだり、番を想う気持ちを疑ったりはしていません。ただ、あなたに対して思うところはありますけどね。」

「…思うところ?」

「パトリシアの日記にも書いてありましたよね?番としてドラクロスに招かれたのに、ノクス様が素っ気ないって。まわりから歓迎されないのは仕方ないとしても、どうしてノクス様まで冷たかったのですか?」

「それは…。パトリシアが、俺を番だと分かっていなかったから…。ティアも言っていただろう?人間は番を認識できないと。」

確かにパトリシアは、『番ってなんなの?』と思っていたわ。

「だから俺は、自分だけが番に溺れていく現実を受け入れられなかったんだ。あの頃は、俺もまだ若かったからな…。」

「若いと言っても、パトリシアと出逢った頃、ノクス様は30半ばでしたよね??ああ!?竜人でいったら30半ばは、まだ少年のような年なのですね。あれから250年近く経ちますけど、ノクス様は大人になられたのですか?」

「ティア、年の話はしないでくれ…。」


それから私とノクス様は250年の軌跡を振り返り、その時その時抱いていた、お互いの思いを照らし合わせた。

私はまず、番たちとの出逢いが毎回偶然だったのかを尋ねた。この広い世界で、何度も巡り合うなんて普通に考えたらありえないもの。世界は広いようで狭いのか、世界が広くても運命的に出逢っていたのか。

ノクス様と番との出逢いは、パトリシアとは視察先で、シエラとはパーティー会場から抜け出した先でだった。二人との出逢いは、運命とも偶然ともとれるわね。

シャルロッテが働いていた店を訪れた経緯は、保護国であるアースベルトの結界の調査に訪れていた際、ジャスティンが休憩したいと騒いだため、ノクス様が適当に選んで入った店が、たまたまあのカフェレストランだったそうよ。これは、運命と呼んでもいいわよね。

ヴィオラとは、エジャートンで開催されていた、死者に会える祭りで出逢った。この祭りを見に行くことになった成り行きは、これまで約70年間隔で出逢えていた番と80年が過ぎても出逢えず、ノクス様が焦燥感に駆られていたため、そんな彼を見かねたジャスティンから、この祭りなら、亡くなった番たちと会えるかもしれないと祭りへ誘われ足を運んだそうなの。これは、運命とも呼べなくもないけど、ジャスティンによって縁が結ばれたとも考えられるわね。不本意だけどね。

ヴィオラには前世の記憶がなかったけれど、人混みの中にいると落ち着いていたのは、"木の葉を隠すなら森"のように、本能的にノクス様から隠れていたのかもしれない。そのくせ、ジムからのプロポーズを断り続けていたのは、無意識のうちにノクス様を待っていたからなのかしら…。矛盾する行動の理由は、ヴィオラ本人ですらわかっていなかったの。ただ、ジャスティンに対しての不信感はヴィオラの魂に刻まれていたため、全身で拒絶していたのだろう。

そして、ノクス様にとってルナティアとの出逢いは、まったくの想定外だったそうよ。ヴィオラの死から、20年しか経ってなかったから。

『早過ぎる…。』

出逢ったときにつぶやいていたあの言葉は、暴走竜の享年に対してではなく、次の番との出逢いが早過ぎるという意味だったの。

どういうわけか私は、ヴィオラが亡くなってから50年の間隔をおかずに生を授かった。


ノクス様からは、シエラの死に関して問われた。最下階の床にいるはずのシエラが、なぜ噴水にいたのかがいくら調べてもわからなかったと言う彼に、シエラはまったく歩けないわけではなかったから、自ら歩いて移動したのだと説明した。彼女は歩く姿が不格好だったため、他人の目を気にした母親から、歩かないよう釘を刺されていただけ…。

次に私は、シエラのことで気になっていたことをノクス様に尋ねた。ノクス様は、満月になると番を求めていたけれど、彼女とは一線を越えなかったのはなぜなのかと。彼は、シエラの細過ぎる脚を折ってしまうのではないかと怖くて触れられなかったそうよ。車イスで生活していたシエラの足は、細かったから。シエラの体に触れられないから、その分キスが激しかったのかと聞いたら、ノクス様は気まずそうに顔を覆っていた。触れられたくなさそうなノクス様に構わず私は、シエラのとき我慢していた分、シャルロッテのときは、毎晩のように求めたのかと質問を続けた。そしたらノクス様から、シャルロッテと出逢ったとき、今度こそ番を守ると誓った矢先、シャルロッテが噴水のふちに横たわっていたため、心臓が止まる思いだったと嘆かれた…。それに関しては、完全に私が悪かったと痛感しているから、とにかく心からひたすら謝ったわ。あの出来事のせいで、ノクス様の心配性は重症化してしまい、異変がないかシャルロッテの一日の様子を侍女に報告させ、彼女を守るために毎晩加護を与え、同じベッドで眠りに就いていのよ。ノクス様を過保護にさせたのは、シャルロッテの自業自得だったのね。

その、ノクス様の加護の恩恵は絶大だったわ。シャルロッテが侍女のロロとして自由に行動できていたのは、ノクス様からの多大な加護と、彼の鱗をネックレスにして身につけていたおかげだったのよ。だって、大森林で薬草を採取していて、野生の獣やドラゴンに遭遇しても、襲われたことはなかったもの。

それと、あの鱗をいつ手に入れたのかを気にしているノクス様へ、シエラが死の間際に握っていたノクス様の鱗を、シャルロッテが握り締めて生まれてきたのだと説明した。こんなおとぎ話みたいな話を、『引き継いだのは記憶だけではないんだな。』と、ノクス様は信じてくれたの。

そして、急に真顔になったノクス様から、『一人で大森林へ行くのは危険だからダメだ。』と100年も前のことを叱られたわ…。

それから、シャルロッテが亡くなったあとの様子も聞いた。ベールをとったシャルロッテの顔を見て、彼女がロロだったことを知ったジャスミンたち使用人は、大混乱するとともに、大号泣していたそうなの。そういえば、ノクス様のお屋敷の使用人たちは竜人の中では珍しく、他の種族へ理解のある人たちだったわね。その彼女たちが、今も大公邸で働いていると聞いて、再会できる日が楽しみになった。

だけど、きっとドラクロスでの再会は難しいだろう…。


私には今、ドラクロスの帝城で亡くなった4人分の記憶がある。

「ノクス様は先ほど、番たちの死因すら突き止められないと言ってましたけど、私には心当たりがあるのです。ただこれは、私の憶測に過ぎないのですが…。」

「憶測でも構わない。何が原因なのか、教えてくれ。」

250年もの間、突き止められずにいる番たちの死因を解き明かしたいと願う、ノクス様の切実さが伝わってくる。原因がわかれば、対策を講じることができるものね。

「死の発作に襲われたのは、ヴィオラのときは、逃げ回る彼女を竜人の使用人が力を使って取り押さえたときで、シャルロッテのときは、ルミウス陛下への祝福として参列者たちから放出された魔力が会場内を埋め尽くしたときでした。」

「魔力…。それか竜気か…?」

「確かに、ヴィオラを取り押さる際、使用人は魔力を込めていました。でも、シエラのときは当てはまらないのです。彼女は、階段から落ちたふりをして、床に横になっていただけだったから。」

「いや…。あの日は、訓練場で新たな騎士団長を決めるための決闘が行われていたんだ。戦いは次第に激しさを増し、互いに大量の竜気を放出していた…。あのとき、ダグラーを止めていればシエラは亡くなることはなかったのか?」

「そっか…。訓練場は別棟の近くだから、魔力が伝わってきたのね…。つまり。この前、私との手合わせでダグラー団長に本気を出されていたら、竜気に当てられて発作を起こしていたかもしれないのですね…。」

「俺はまた番を守れず、目の前で亡くすところだったのか??」

何度も謝りながら、ノクス様は私を抱き締めた。だけど…。

「すまない、ティア。竜人なんて怖いよな。」

ノクス様はハッとして、慌てて私から距離をとった。

「まさか、逆効果だった??俺の加護は、君たちにとっては毒だったのか…?」

「ノクス様の竜気は特別なんです。発作を起こして耐え難い痛みに襲われる中、あなたの加護が痛みを和らげてくれましたから。そう…。平気なのは、ノクス様の竜気だけなの…。」

「…ティア??」

うつむく私を、ノクス様が心配そうにのぞき込んだ。

「シャルロッテは、パトリシアとシエラの死因をいろいろ考察していました。その中でも、一番ありえそうなのは毒でした。人間の番を認めない人たちは、たくさんいましたからね。」

「毒だとしたら、いったい誰が…。」

「ノクス様のお父様である、先代の竜帝。ルミウス様。人間を皇室の一員にしたくない家臣たち。黒幕に命令された、使用人。もしくは、ノクス様を慕うご令嬢??」

「ティア…。真面目な話ではないのか??」

「真面目に考えていたんですよ。考えた中での最悪な黒幕は、ジャスティンでした。だって、怪しいじゃないですか。番と出逢うとき、必ず一緒にいるし。竜帝の命令には絶対服従で、番を連れ去ることにためらわないし。ヘラヘラしてそうで、あの糸目の目の奥は笑ってなさそうだし。腹の底が見えないし。だけど…。あの人、竜帝の犬なのに、ノクス様を悲しませるマネはしないんですよね…。」

私はわざと核心に触れるのを避け、要領の得ない話をしている。そんな話にも、ノクス様は耳を傾けてくれている。

「ティア??」

シャルロッテの考察に加え、記憶を思い出した私が点と点を繋ぎ、たどり着いた答え。だけど私、その真相を言葉にしたくないの…。

「今となっては、黒幕がジャスティンだった方がまだ笑えたのに…。いろいろ考えた死因の中で、それだけは、違っていてほしかった…。」

「原因は毒ではなく、やはり竜人の魔力が問題なのか?」

「どうしよう…、ノクス様。人間の体は、竜人の竜気に耐えられないみたい…。」

「つまり、竜人が魔力を放出しなければ、ドラクロスで暮らしても平気なのか?いや、うちの国の者たちはすぐに手が出るから、ドラクロスで暮らすのは危険だな。」

「暮らす場所よりも、深刻な問題があるの…。パトリシアが亡くなったのは、お腹の子の魔力に耐えられなかったから…。」

「…パトリシアの死因は、俺の子を身ごもったからなのか??」

「ノクス様の魔力は平気でも、お腹の子の魔力は体が拒絶してしまうみたい…。自分の子どもなのに…。」

パトリシアは、ノクス様に似た子が生まれるのを楽しみしたいた。彼女にとって、お腹の子の存在は、幸せの象徴だったの。だけど…。そのお腹の子が原因で彼女は亡くなった。

お腹の子はパトリシアの予想通り、ノクス様に似ていたのだと思う。きっと、父親譲りの濃い竜気を持ち、魔力量も多かったのだろう。

「ごめんなさい…。私…。ノクス様の子どもを産んであげられない…。」

「…ティア、大丈夫だから。泣かないでくれ。」

「大丈夫じゃない!!ノクス様は皇弟だから、国のために世継ぎを残す義務があるのですから…。だけど、人間の私は、竜人のノクス様の子どもを産んであげられない。人間の私が大公妃に相応しくないという声や、ノクス様に側妃をとの声が上がるでしょうね…。」

「俺が、そんな声を上げた者たちを生かしておくはずないだろう。」

「でもっ……。」

子どもみたいにわんわん泣く私を、ノクス様は包み込むように抱き締め、優しくなだめた。

「これを言ったら、ティアに軽蔑されるとわかっているから言いたくはなかったのだが…。」

その言葉通り、ノクス様は話すのを渋っていた。

「俺はな…。パトリシアが亡くなったとき、喪失感に襲われたが…。心も頭も、彼女のことで埋め尽くされ、お腹の子のことは、気にも留めなかったんだ…。」

それを聞いた私は、勢いよく顔を上げ、信じられないという顔をしてノクス様を見た。

「そのような目で見られると思っていたよ…。だが、俺にとって何より大事なのは、きみたちだから。」

そうだった…。この人、つがいバカだったわ。

「それに側妃なんていても無駄だ。俺は、番しか抱けないのだからな。」

「…そうなのですか??」

つがい合うとは、そういうことなんだ。」

「…でも。ヴィオラは、ミゲルを産んだわ…。」

「俺たちは番としか交われないが、人間には影響が及ばないのだな。」

「ごめんなさい…。やっぱりノクス様は、私に囚われているのね…。」

「いいんだ。ティアに囚われるのならば、本望だからな。」

(もう…。本当に、番バカなんだから。)

ノクス様が、私に囚われることを本望だと言ったのを聞いて、私は自分の傲慢さを思い知った。

私を抱きながら、彼が、100年振りだと口を滑らせたときはあんなに心がモヤモヤしていたのに、記憶がある今は、わだかまりが解けている。それどころか、ノクス様が番以外とは肌を重ねられないと知って、喜んでしまっているのよ。自分は、他の人との間に息子を授かっておいてね…。

「ノクス様。私は、どうやったらあなたを幸せにしてあげられますか!?」

「俺は、ティアがそばにいてくれるだけで幸せだよ。」

そう言って、幸せそうに微笑むノクス様を私は一蹴する。

「そばにいるだけで幸せなんて嘘です!ノクス様はいつも本心を隠すんだから。満月の影響で理性をなくして、番を求める姿が本当のノクス様の姿なのですよね?」

「確かに、満月の影響は受けてしまうが…。あれが本来の姿だと思われるのは心外だな…。」

「普段は素っ気ないくせに、満月のときだけは、素直にパトリシアとシエラの部屋を訪ねて来てましたもんね!シエラへなんて、体を気遣う代わりに窒息しそうなくらい激しいキスをしてましたからね!!」

「起きていたのなら、寝た振りなどしなければよかっただろう?」

「寝たふりは、シエラなりの優しさですよ!?だってノクス様は、寝ているときは素直に触れてくるから。」

「あぁもう…。俺にどうしろと言うんだ…。」

ノクス様が頭を抱えて、うなだれてしまった。

「そんなに悩まなくても…。私はただ、あなたの素直な望みを聞きたいだけなのに。」

私は、彼の顔を押さえるとグイッと上へ向け、唇を押し当てた。そして、彼がシエラにしていたみたいに、激しくて濃厚なキスをお返ししたわ。

「…ティア、待ってくれ。これ以上は…。」

「いやです…。待ちません…。」

「…唇だけじゃ、我慢できなくなる…。」

「だから我慢しないで、素直になってと言ってるじゃないですか。」

「だが。今、確認したばかりだろう?俺の子を身ごもれば、ティアは命を落としてしまうと…。」

今、私は避妊薬を持っていない…。解決方法を探していると、あることを思い出した。それは番たちの記憶ではなく、ルナティアとしての記憶の中にあったもの。

「そうだわ!エルフに教えてもらった、避妊魔法を使えばいいのよ。」

「ティアは、エルフに会ったことがあるのか…??滅多に自分たちの国から出てこない奴らだぞ!?」

「以前、奴隷商に捕まっていた人たちを助けたことがあるんですけど、その中にエルフの子どももいたのです。その子をエルフの国まで送ってあげた際、お礼として、教えてもらったのが避妊魔法でした。」

「そうか。しかしなぜ、避妊魔法だったんだ??」

「それは私にもわかりません。私は、攻撃魔法を教えてと頼んだんですけどね。まわりにいたエルフたちから、『世界を滅亡させるつもりなのか!?』なんて意味のわからないことを言われて、教えてもらえなかったんですよ。」

『エルフの国で何かやらかし…、いや。何かあったんだな…。』

ノクス様はつぶやいていたけど、私も耳がいいということを忘れているのかしら?

「ティアは、ドワーフにも会ったことがあるんだよな?愛剣は、ドワーフにもらったのだろう?」

「ああ、おっちょこちょいのドワーフですね。あの人たち、自分たちでつくったゴーレムに国を滅ぼされかけていたんですよ。しかも、ゴーレムを倒してあげたのに、木っ端微塵にしたと怒り出して。二度とドワーフの国を訪れない代わりにと、ミュゲルをもらったんです。」

『…お礼の品かと思っていたんだが。想像していたのと違うな。』

避妊魔法をかけるのに集中している私は、ノクス様のつぶやきを聞き流したわ。

この避妊魔法をエルフに教えてもらったときは、使う日が来るとも、この繊細な魔法を私がかけられるとも思わなかった。けど、今の私にはシャルロッテの記憶があるから可能なのよ。

「ノクス様、避妊魔法かけられました。これで、問題が解決しましたね。」

ノクス様は、私の避妊魔法が信用できないのか、それとも相変わらず素直になれないだけなのか、戸惑っている。煮え切らない様子の彼の耳元で、私はささやいた。

「ノクス様、私…。体中、あなたの魔力で満たされるの、好きなんです。」

「ティアっ…!?恋愛に疎いと言っていたのは、絶対嘘だろっ!?」

「ねぇ、お願い。私を、あなたの竜気で満たして欲しいの。」


残念なことにノクス様は、これからもっともっと私に囚われることになりそうね。




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