小さな探索者
迷宮一層。
石の通路は広かった。
天井は高く、壁には古い削れ跡が残っている。
湿った空気。
遠くで水滴の落ちる音が響く。
白兎の庭はゆっくり進んでいた。
魔物はまだ出ていない。
アクセルが周囲を見回す。
「静かだな」
ノアが言う。
「魔力は安定」
アクセルが鼻を鳴らす。
「入口は普通か」
そのとき。
胸ポケットから小さな頭が出た。
むぎだ。
鼻が忙しく動いている。
「むぎ?」
レインが声をかける。
むぎはじっと通路の端を見ている。
ポケットから身を乗り出し降りようとしている。
レインは即座に手を添えるとむぎが手に乗る。
「降りたいのか?」
そっとしゃがんで降ろすとぴょんと地面に降りた。
ちょこちょこと進む。
「おい」
レインがしゃがむ。
「遠く行くな」
むぎは振り向かない。
通路の端へ。
壁の方へ進む。
そこで止まった。
小さな石の継ぎ目の前。
むぎが鼻を近づける。
くん。
くんくん。
前足で石を触る。
カリ。
カリカリ。
アクセルが腕を組む。
「何やってる」
ノアが言う。
「むぎが何か見つけた」
レインが近づく。
「むぎ」
むぎは石を見つめたまま動かない。
そのとき。
腕の中のここちゃんが耳を動かした。
きゅる。
レインが少し笑う。
「ここちゃん、ここは草ないぞ」
地面に降ろす。
ここちゃんはむぎの横まで歩いた。
鼻を動かす。
くん。
石を軽く前足で触る。
こつ。
耳がぴくりと動いた。
ノアが言う。
「……同じ場所を見ている」
ここちゃんが満足そうに鳴く。
ぷう。
アクセルが笑う。
「探索班優秀だな」
レインが肩をすくめる。
「うちの可愛い子たちだ」
そのとき。
カインがゆっくり歩いてきた。
壁を見る。
石の並び。
継ぎ目。
少し沈黙。
しゃがむ。
指で石を軽く叩く。
コン。
音が違う。
もう一度叩く。
コン。
カインが小さく言う。
「……空洞ですね」
アクセルが顔を上げる。
「隠し扉か」
カインが石の端を押す。
ご、と低い音。
石壁がわずかに沈む。
横へずれる。
暗い隙間が現れた。
細い通路だ。
人一人が通れるくらい。
レインがむぎを拾う。
「やるじゃないか」
むぎが得意げに鳴く。
キュ。
胸ポケットへ戻す。
アクセルが剣を持ち直す。
「先を見る」
ここちゃんを抱き上げて通路へ入る。
狭い。
石壁が近い。
灯りが奥へ伸びる。
足音が反響する。
ここちゃんがレインの腕の中で耳を動かした。
きゅる。
通路は少し続いていた。
二十歩。
三十歩ほど。
曲がりはない。
ただ奥へ伸びている。
空気が変わる。
少し重い。
ノアが言う。
「魔力が濃い」
アクセルが小さく言う。
「奥に何かあるな」
通路の先に空間が見えた。
広い影。
小部屋だ。
白兎の庭は足を止めた。
まだ中は見えない。
だが、何かがある。
そんな空気だった。
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