迷宮の入口
ティリの北。
街の通りを抜けると、道はすぐに細くなる。
畑が少し。
その先は草地だ。
丘の影に、石造りの建物が見えた。
低い。
大きくはない。
だが入口は広く、扉は開いたままだ。
冒険者の姿が目立つ。
革鎧。
槍。
弓。
荷袋を背負った者たちが、入口の前で話している。
「三層で引き返した」
「今日は早かったな」
「湧きが変なんだよ」
アクセルが鼻を鳴らす。
「迷宮だな」
レインは建物を見る。
入口から冷たい空気が流れてくる。
湿った匂い。
石と水の匂いだ。
ここちゃんが腕の中で耳を動かした。
きゅる。
むぎが胸ポケットから顔を出す。
鼻が忙しい。
キュ
ノアが空気を感じ取るように目を細める。
「魔力は普通」
レインが聞く。
「異常は?」
「少なくとも入口は」
アクセルが肩を回す。
「入れば分かる」
建物へ入る。
中は思ったより広かった。
石床。
壁際には机がいくつか並ぶ。
鎧を整える冒険者。
荷袋を置く者。
地図を広げている者もいる。
奥に一つ、受付の机があった。
男が帳面をめくっている。
顔を上げた。
「迷宮か」
アクセルがうなずく。
「ああ」
男は帳面を開く。
「パーティ名」
「白兎の庭」
筆が止まる。
男が帳面を確認する。
「サイファの登録だな」
それから視線が動く。
カインで止まった。
「同行者か」
レインが言う。
「今日は一緒だ」
男はうなずく。
「迷宮は単独入場不可だ」
「一時同行で登録する」
筆を取る。
「名前」
アクセルが答える。
「カイン」
さらさらと筆が走る。
帳面に一行。
男が小さく頷く。
「一時同行者カイン。白兎の庭」
判子を押す。
乾いた音が響く。
「これで入れる」
レインが軽く息を吐く。
「助かる」
男は肩をすくめた。
「最近は確認が多い」
アクセルが聞く。
「湧きか」
男はうなずく。
「早かったり遅かったりする」
「三層でも安定しない」
ノアが小さく言う。
「魔力波」
男は苦笑する。
「学者の言葉は知らん」
「だが変なのは確かだ」
アクセルが笑う。
「肩慣らしにはいい」
「死ぬなよ」
男が言う。
レインが手を上げた。
「気をつける」
受付を離れる。
建物の奥へ進む。
石の階段が下へ続いていた。
冷たい空気が流れてくる。
水滴の落ちる音。
足音が石に響く。
ここちゃんが少し体を寄せた。
レインが耳の後ろを撫でる。
「大丈夫だ」
きゅる。
むぎがポケットから身を乗り出す。
鼻が忙しく動く。
ノアが言う。
「一層は安定」
アクセルが剣を軽く揺らす。
「様子見だな」
カインは周囲を静かに見ていた。
壁。
石の継ぎ目。
足跡。
そして、下へ続く暗闇。
レインが一歩踏み出す。
靴音が響く。
迷宮は静かだった。
まだ。
ただの迷宮だ。
白兎の庭は、その中へ足を踏み入れた。




