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ティリ


 サイファを出てから半日。


 丘を越えると、街が見えた。


 石壁に囲まれた小さな街だ。


 高くはない。


 だが厚みがある。


 古い石だ。


 風に削られて、角が丸くなっている。


 門の前には荷車が二台並んでいた。


 馬が鼻を鳴らす。


 車輪の軋む音。


 その横。


 冒険者の姿がいくつか見える。


 革鎧。


 槍。


 弓。


 荷袋を背負ったまま話している。


 アクセルが目を細めた。


「増えてるな」


 レインも門前を見る。


 確かに多い。


 冒険者が目立つ。


 アクセルが言う。


「迷宮目当てだろ」


 カインがうなずく。


「ええ」


「ティリの北にあるそうです」


 ノアは街を見る。


 門。


 人の流れ。


 そしてその奥。


「人が北へ向かう」


 レインが聞く。


「迷宮か」


「多分」


 門をくぐる。


 石の匂い。


 乾いた空気。


 サイファより少し涼しい。


 通りは広くない。


 石畳。


 両脇に店が並ぶ。


 肉屋。


 革屋。


 道具屋。


 小さな露店もある。


 ここちゃんが腕の中で耳を動かした。


 きゅる。


 むぎがポケットから顔を出す。


 キュ。


 レインが周囲を見る。


「まず草だな」


 アクセルが言う。


「市場か」


 カインが答える。


「ええ」


「飼い葉を扱う店があります」


 通りを曲がる。


 屋根付きの通りだ。


 乾燥草の匂い。


 干した葉。


 束にされた草。


 家畜用の飼い葉が山になっている。


 木の実も並んでいた。


 レインが足を止める。


 束を一つ持つ。


 葉を指で潰す。


 香りを確かめる。


「……弱い」


 別の束。


 もう一度。


「これはいい」


 カインが言う。


「これは山の葉ですね」


 レインがうなずく。


「たぶん鹿肉に合う」


 アクセルが言う。


「肉か」


 レインはさらに木の実を手に取る。


 店主に断りを入れて、殻を割る。


 香りを嗅ぐ。


「これもいいな」


 店主が笑った。


「北の森のだ」


 レインがうなずく。


「それももらう」


 そのとき。


 通りの奥で声が上がった。


「今日は三層まで行った」


「駄目だ」


 別の男が言う。


「湧きが早すぎる」


 もう一人が言う。


「昨日も撤退だ」


 アクセルが振り返る。


「迷宮だな」


 ノアが言う。


「魔力が揺れている」


 レインが聞く。


「分かるのか」


「少し」


 短い答え。


 カインは何も言わない。


 ただ一度だけ。


 街の北を見る。


 迷宮のある方向だ。


 それから視線を戻す。


 レインが袋を結ぶ。


「香草は買えた」


 アクセルが笑う。


「じゃあ次だな」


 レインは肩を回す。


「ついでだ」


 迷宮は街の北。


 石の匂いが、風に混じっている。



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