表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
94/134

香草の話


 朝。


 庭にはまだうっすら燻製の匂いが残っていた。


 火は消えている。


 だが甘い煙の気配が、わずかに漂っている。


 アクセルが燻製肉をかじる。


「……うまい」


 レインが呆れた顔をする。


「朝からそれか」


 アクセルは気にしない。


「残ってる」


「食べすぎるなよ」


 ここちゃんは乾燥葉を食べている。


 しゃく。


 しゃく。


 耳がゆっくり動く。


 ノアがその背を撫でた。


「気に入っている」


 ここちゃんが小さく鳴く。


 きゅる。


 その横で。


 むぎは木の実を抱えている。


 昨日拾って乾燥させたやつだ。


 離す気はないらしい。


 アクセルがそれを見る。


「また詰めるのか」


 レインが笑う。


「全部持ち帰るつもりだろ」


 むぎが鳴く。


キュ。


 レインは燻製肉を少しかじる。


 香草の匂いが残っている。


 少し考える。


「……この香草、いいな」


 アクセルが言う。


「昨日言った」


「いや」


 レインは首を振る。


「これ、鹿に合う」


 燻製を見ながら続ける。


「他の香草でも試してみたい」


 少し間。


 カインが口を開く。


「北の丘の向こうに街があると聞きました」


 レインが顔を上げる。


「街?」


「ええ」


 カインはうなずく。


「ティリという場所です」


 アクセルが言う。


「ティリか」


 少し考える。


「半日くらいだな」


 レインは肩を回す。


「それなら行けるな」


 ノアが言う。


「問題ない」


 ここちゃんが耳を動かす。


 きゅる。


 むぎがポケットへ潜る。


 キュ。


 レインが立ち上がる。


「じゃあ行くか」



 ギルド。


 昼前。


 人は多くない。


 扉を開ける。


 酒の匂い。


 革の匂い。


 ミアが顔を上げた。


「こんにちは」


 レインが手を上げる。


「少し遠出しようと思う」


 ミアが首を傾げる。


「依頼ですか?」


「いや」


 レインは笑う。


「香草探し」


 その横で。


 ドランがジョッキを傾けた。


「どこだ」


 アクセルが答える。


「ティリ」


 ドランの眉が少し上がる。


「ほう」


 レインが聞く。


「何かあるのか?」


 ドランがジョッキを置く。


「迷宮だ」


 レインが止まる。


「迷宮?」


 ドランは鼻を鳴らす。


「最近妙らしい」


 アクセルが聞く。


「何が」


 ドランは言う。


「湧きだ」


 少し間。


「周期が乱れてる」


 アクセルが言う。


「魔物か」


「そうだ」


 ドランがうなずく。


「一時間くらいだったのがな」


「二十分で出たり、二時間空いたりする」


 ノアが小さく言う。


「魔力波」


 レインが見る。


「それって自然か?」


 ノアは少し考える。


「あり得る」


「迷宮でも魔力は揺れる」


 静かな間。


 カインが一度だけ視線を落とす。


 それから言う。


「……確認だけならできます」


 アクセルが言う。


「ついでだな」


 レインは肩をすくめた。


「香草が先だ」


 ドランが笑う。


「好きにしろ」


 レインは扉へ向かう。


「覗くだけだ」


 アクセルが言う。


「肩慣らしだ」


 外は晴れていた。


 北の丘が見える。


 ティリはその向こうだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ