乾く香り
夜。
庭にはまだ燻製の匂いが残っていた。
肉はほとんど食べ終わっている。
串の最後をアクセルが噛み切った。
「……腹いっぱいだ」
レインは火を軽くつつく。
「食い過ぎだ」
「鹿だ」
「それは知ってる」
火はもう弱い。
赤い炭だけが残っている。
ノアは庭石に座っていた。
その膝の上。
ここちゃんが丸くなっている。
耳がゆっくり動く。
レインが少し笑った。
「そこ気に入ったのか」
ノアは短く答える。
「暖かい」
ここちゃんが小さく鳴く。
きゅる。
その横で。
むぎが桶の縁に乗っている。
まだ何か探している顔だ。
レインは袋を引き寄せた。
北の森で集めた葉。
木の実。
台の上へ広げる。
アクセルが言う。
「乾かすのか」
「ああ」
レインはうなずく。
「ここちゃん用」
葉を並べる。
木の実も置く。
掌をかざす。
魔力を少し流す。
空気がわずかに動く。
水分が抜けていく。
葉がゆっくり縮む。
木の実の表面が乾く。
カインがそれを見ている。
「便利ですね」
レインは肩をすくめた。
「干すより早いしな」
ここちゃんがノアの膝から降りた。
乾いていく葉へ近づく。
鼻を寄せる。
くん。
もう一度。
くん。
耳がゆっくり動く。
レインが言う。
「匂い分かるのか」
ここちゃんは葉をかじる。
少しだけ。
満足したらしい。
そのとき。
むぎが庭の隅で何か見つけた。
小さな木の実。
松ぼっくりに似た形だ。
鱗の隙間から種が見える。
むぎが前脚で抱える。
鱗を外す。
中の種を取り出す。
ぱく。
もう一つ。
ぱく。
レインが止まる。
「……おい」
むぎの頬が膨らむ。
さらに。
ぱく。
アクセルが笑う。
「まただ」
むぎの顔が丸い。
ぱんぱんだ。
《容量超過》
(知ってる)
むぎが満足そうに鳴く。
キュ。
ノアが言う。
「持ち帰る」
「全部か?」
「多分」
庭の空気は静かだ。
燻製の匂い。
乾く葉の匂い。
そのとき。
アクセルがカインを見る。
「……商人」
カインが顔を上げる。
「はい?」
アクセルは腕を組む。
「罠」
「ええ」
「慣れてたな」
カインは少し笑う。
「多少は」
アクセルは少し考える。
「役に立つ」
カインが一瞬驚く。
それから静かに笑う。
「ありがとうございます」
レインは火を見ながらそれを聞いている。
ここちゃんがまたノアの膝へ戻る。
ぴょん。
ノアが撫でる。
「ここちゃん」
耳がゆっくり動く。
むぎはまだ木の実を詰めている。
部屋の隅にまた溜め込むんだろう。
庭は静かで皆がゆったりとしている。
悪くない夜だ。
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