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北の森


 数日後。


 朝の空気は軽かった。


 サイファの北門はまだ混んでいない。


 荷車が一台。

 門番が欠伸をかみ殺している。


 白兎の庭はその横を抜けた。


「北だな」


 アクセルが言う。


「ああ」


 レインは肩の荷を少し直した。


 今日は依頼ではない。


 ただの遠出だ。


 ここちゃんは腕の中。

 耳をゆっくり動かしている。


 むぎは胸ポケットから顔を出している。


キュ。


「落ちるなよ」


 街を出ると、土の道になる。


 草が多い。


 朝露がまだ残っている。


 風が弱い。


 ノアが空を見る。


「天気は安定」


「雨は?」


「来ない」


「助かる」


 丘を越える。


 森が見える。


 北の森。


 薬草を取りに行く南東の森より、少し荒い。


 背の高い木が多い。


 枝が重なっている。


 森へ入る。


 空気が変わる。


 土の匂い。


 湿った葉。


 遠くで鳥が鳴く。


 ここちゃんが腕の中で耳を動かした。


 きゅる。


「草あるな」


 ノアが言う。


 しゃがみ込み、葉を摘む。


 細長い葉。


 柔らかい。


 レインも見る。


「桑じゃないが近いな」


 ここちゃんに差し出す。


 少しかじる。


 耳がゆっくり動く。


《嗜好一致》


(普通に食ってるだけだ)


 ノアが言う。


「乾燥できる」


 むぎがポケットから身を乗り出した。


 鼻が忙しく動く。


キュ。


 カインが足元を見る。


「木の実ですね」


 地面に小さな実がいくつも落ちている。


 レインが一つ拾う。


「食うか?」


 むぎが前へ出る。


 ぱく。


 もう一つ。


 ぱく。


 さらに。


 ぱく。


「……おい」


 むぎの頬が膨らんでいく。


 アクセルが言う。


「溜めてるな」


 むぎの頬が膨れている。


 ぱんぱんだ。


《容量超過》


(ハムスターだ)


 むぎが満足そうに鳴く。


キュ。


 ここちゃんを地面に降ろした。


匂いで選別しながら気に入った草をかじっている。


 耳がゆっくり動く。


満足そうだ。


 ノアが小さく言う。


「いい場所」


 そのとき。


 カインが足を止めた。


「……待ってください」


 少し先の地面を指す。


 細い糸。


 草に紛れている。


「罠です」


 アクセルが覗き込む。


「跳ね上げ罠か」


「ええ」


 カインは罠に歩み寄り、膝をつく。


 枝の張り方。


 糸の結び。


 軽く触れる。


「まだ使えますね」


 レインが言う。


「詳しいな」


 カインは少し笑った。


「昔、斥候をしていました」


 アクセルが顔を上げる。


「そうなのか」


 ノアが言う。


「納得」


 そのとき。


 草が揺れた。


 少し離れた場所。


 アクセルの目が細くなる。


「……鹿だ」


 低い声。


 アクセルが剣を抜く。


「任せろ」


 音が消える。


 草がわずかに揺れる。


 鹿が跳ねる。


 二歩。


 崩れる。


 アクセルが剣を引き抜いた。


「終わりだ」


 レインが言う。


「……早いな」


 アクセルは肩をすくめる。


「近かった」


 小型の鹿だ。


 肉はそこそこある。


 レインは少し考える。


 本来の目的は草と木の実だ。


 だが。


「持って帰るか」


 アクセルが頷く。


「肉だ」


 ここちゃんは草。


 むぎは頬を膨らませたままポケットの奥に潜る。


 森の空気は静かだった。


 草も見つかった。


 木の実もある。


 ついでに。


 鹿も一頭。


 北の森は、思ったより実りが多い。



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