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乾いた葉


 月例市のあと、サイファはすぐにいつもの街へ戻った。


 通りは静かだ。

 広場の屋台もすっかり片付けられている。


 風が抜ける。


 レインは袋を持ったまま、拠点の扉を押した。


「戻った」


 中から声がする。


「おかえりなさい」


 カインだ。


 机の上に帳面を広げている。


 いつもの穏やかな顔。


「今日は静かでしたよ」


「そりゃ祭りの後だからな」


 レインは袋を机に置いた。


 中から葉を取り出す。


 にんじんの葉だ。


 月例市で見つけた。


「これなら乾燥できるな」


 葉を広げる。


 水気はまだ残っている。


 レインは手をかざした。


 薄く魔力を流す。


 無属性。


 水分だけ抜く。


 強くはやらない。


 葉が傷む。


 ゆっくり。


 静かに。


 少しずつ乾く。


 葉が軽くなる。


 香りが立つ。


 ここちゃんが足元へ来る。


 鼻を動かす。


 きゅる。


「もう少し待て」


 レインは笑う。


 乾いた葉を一枚つまむ。


 軽い。


 指で折ると、ぱり、と音がした。


「こんなもんか」


 ここちゃんに差し出す。


少しの間、匂いを嗅ぐ。


 小さくかじる。


 耳がぴくりと動く。


 カインがそれを見て言う。


「気に入ったみたいですね」


「だな」


 そのとき。


 コトン、と音がした。


 庭の端。


 小さな木桶が転がっている。


 むぎだ。


 中で走っている。


 桶がぐるぐる回る。


 カインが少し笑う。


「またやってますね」


「気に入ったらしい」


 むぎが桶から顔を出す。


キュ。


 得意げだった。


 ノアが庭から戻ってくる。


「いい匂い」


「にんじんの葉だ」


 ノアはここちゃんを見る。


 少しだけ目を細めた。


「好きそう」


 レインはにんじんの葉をもう一枚つまむ。


 ここちゃんがかじる。


 耳がゆっくり動く。


「そういや」


 ふと思う。


 この世界に来てから。


 ここちゃん用の乾燥葉は、あまり作っていない。


「桑の葉とかないな」


 ノアが言う。


「森にはある」


「だろうな」


 レインは庭を見る。


 むぎがまだ桶を回している。


「むぎの木の実も探すか」


 まるで返事をするみたいにむぎが桶から顔を出す。


キュ。


 カインが言う。


「北の森なら、ありそうですね」


 サイファの北。


 薬草の南東とは違う森だ。


 狩人も入る場所。


 レインは少しだけ考える。


 急ぐ話ではない。


 乾燥葉はまだある。


 依頼も詰まっていない。


「……数日後だな」


 ノアが頷く。


「いい」


 カインも帳面を閉じた。


「久しぶりに森も悪くないですね」


 庭では桶がまだ回っている。


 ここちゃんは葉を食べている。


 風が抜ける。


 拠点は静かだ。


 レインは乾燥葉を木皿へ移した。


「まぁ、ついでだ」


 森に行けば、何かしら見つかるだろう。


 葉も。


 木の実も。


 もしかしたら。


 肉も。


気持ちのいい風が庭を吹き抜ける。


のんびりとした時間も悪くない。



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