待ち望んだ完成
三日後。
朝の光が拠点の庭を照らしていた。
草の先に露が光る。
この三日、アクセルは客用の試作品を見かけるたびに一度押していた。
沈む。
戻る。
何も言わない。
だが、待っていたのは全員が知っている。
門の外で、鉄と木の触れ合う音がする。
「出来たぞ」
鍛冶屋の親父が言った。
その横で、弟子が麻袋を二つ抱えている。
後ろには大工。
木枠を肩に担いでいた。
アクセルは門が開く前から庭に出ていた。
「……三日だ」
低い声。
親父が鼻を鳴らす。
「言われなくても分かってる」
弟子が袋をどさりと下ろす。
中で鉄が鈍く鳴る。
「ばね、三人分です」
大工が木枠を見せる。
「こっちは枠」
アクセルは何も言わない。
だが、視線はそこから動かない。
ここちゃんが耳を立てる。
きゅる。
そのまま俺の足元まで駆けてくる。
むぎが物置の上から顔を出す。
キュ。
⸻
最初に向かったのはアクセルの部屋だった。
寝台の上から布団を外す。
大工が枠をはめる。
鍛冶屋の親父が、ばねの入った布包みを袋から出していく。
「寸法は合ってる」
大工が言う。
俺は布で包んだばねを並べ始めた。
縦に。
横に。
間隔を揃える。
ノアがしゃがみ込む。
「中央、少し詰めろ」
「分かってる」
《配置:安定》
(黙れ)
カインが端を押さえる。
「こちら、少し広いですね」
「じゃあ一つ寄せる」
弟子が身を乗り出す。
「寝具なのに、妙に緊張しますね」
大工が笑う。
「壊すなよ」
「壊しませんよ!」
親父が弟子の頭を軽く小突く。
「お前は見てろ」
ここちゃんが部屋の入口で座り、じっとこっちを見ている。
むぎは廊下の角から顔だけ出していた。
キュ。
並び終える。
ばねは枠の中で、きちんと収まっている。
鍛冶屋の親父が寝台の側面に手を当てる。
「固定するぞ」
大工が道具を差し出す。
金具を打ち、枠と寝台をしっかり留める。
かん、と軽い音。
ぐらつきはない。
「これで動かねぇ」
親父が言う。
俺は布団を上に重ねる。
押す。
沈む。
戻る。
横に逃げない。
空気が、少しだけ張りつめる。
アクセルは何も言わず、そのまま寝台へ向かった。
腰を下ろす。
沈む。
支える。
揺れない。
そのまま横になる。
肩が沈む。
腰が沈む。
脚が沈む。
止まる。
ここちゃんが、ぴょんと寝台に飛び乗る。
沈む。
揺れない。
数秒。
さらに数秒。
アクセルが目を閉じたまま言う。
「……揺れない」
間。
小さく息を吐く。
「三日、無駄ではなかった」
俺は肩の力を抜く。
「よかったな」
アクセルは目を開けないまま、わずかにうなずいた。
ノアが短く言う。
「安定」
カインが穏やかに続ける。
「良い出来ですね」
《安眠:高》
(締めるな)
⸻
その勢いのまま、ノアの部屋へ移る。
次に、俺の部屋。
大工が枠をはめる。
親父が固定する。
弟子が道具を運ぶ。
ノアが配置を見て、俺が並べる。
カインが端を押さえる。
気づけば、流れ作業みたいになっていた。
「次」
アクセルが言う。
「お前が仕切るな」
「急げ」
親父が鼻を鳴らす。
「一番待ってたやつが言うと説得力はあるな」
弟子が笑う。
ノアは何も言わない。
だが、少しだけ口元が緩んでいた。
三つ目を終える頃には、陽が少し傾いていた。
俺は最後に自分の寝台を押す。
沈む。
戻る。
揺れない。
「……いいな」
自然に出た。
ノアもそっと腰を下ろす。
沈む。
止まる。
「悪くない」
短いが、十分だ。
親父が腕を組む。
「寝具でそこまで喜ぶか」
大工が笑う。
「でも分かる」
弟子がうなずく。
「前よりぜんぜん違います」
ここちゃんが俺の寝台に飛び乗る。
きゅる。
布の上で丸くなる。
むぎは俺の部屋の隅まで来て、キュと鳴いた。
全員が、少しだけ満足そうだった。
⸻
夜。
三つの部屋は静かだった。
風が窓を揺らす。
軋む音はない。
揺れもない。
ちゃんと眠れる。
それだけのことが、妙に嬉しい。
ただの寝具だ。
ただの改良だ。
けれど、帰る場所の快適さは、確かに変わった。
目を閉じる。
沈む。
支える。
落ち着く。
これでいい。
そう思いながら、ゆっくり息を吐いた。
⸻




