ばねで揺れる
昼前。
鍛冶屋の炉はまだ赤い。
鉄の匂いが店内に残っている。
親父が腕を組んで俺を見る。
炉の横に、朝から巻いてもらったばねが並んでいた。
「レイン、こんなに何に使う?」
「寝具だ」
即答。
弟子がぱっと顔を上げる。
「寝具にばね!?」
「並べて使う」
親父が一本立てて、手のひらで押す。
ぎゅ、と沈む。
ぱち、と戻る。
「……寝るだけだよな?」
「寝るだけだ」
親父は鼻を鳴らす。
「命懸けるなよ」
誰がだ。
俺はばねを袋へ詰める前提で数を見直す。
肩。
腰。
尻から腿。
脚。
一枚で済ませる気はない。
四つに分ける。
そこまで決めて、鍛冶屋を出た。
帰りに雑貨屋へ寄る。
丈夫な布と、大きめの袋を四つ。
紐も買う。
ばねだけあっても仕方ない。
包んで、分けて、敷ける形にしないと意味がない。
荷を抱えて拠点へ戻った。
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居間の床に光が落ちている。
庭の草が風に揺れる音。
静かな昼だ。
俺は布を広げる。
ばねを何本かずつ並べる。
くるむ。
紐で留める。
同じことを何度も繰り返す。
肩用は薄く。
腰は多め。
尻から腿はその中間。
脚は少なめ。
四つの袋を床に並べると、ようやく寝具っぽく見えてきた。
「そこまでするのか」
アクセルが覗き込む。
「試作だ」
ノアが袋を見下ろす。
「数は足りていない」
「今言うな」
《容量:不足》
(うるさい)
布団をめくる。
肩の位置。
腰。
腿。
脚。
順に差し込む。
口は簡単に閉じる。
固定は甘い。
だが、今日はまず沈み方を見る。
ここちゃんがぴょんと飛び乗る。
ふわ。
少し沈む。
昨日の布団より明らかに柔らかい。
俺は手のひらで押す。
沈む。
戻る。
全部が潰れる感じじゃない。
支えもある。
「……いけるか?」
アクセルが腰を下ろす。
袋がわずかに沈む。
そのまま体重をかける。
ゆら。
「揺れる」
小さい。
だが、揺れる。
アクセルがそのまま寝転ぶ。
肩が落ちる。
少し遅れて腰。
腿。
脚。
順番に沈む。
だが、そのあと布団全体がゆらんと波打った。
アクセルは天井を見たまま動かない。
数秒。
眉がわずかに寄る。
「酔う」
「は?」
《横揺れ発生》
(黙れ)
アクセルが寝返りを打つ。
中の袋が少しずれる。
ぐら。
今度は腰の位置が流れた。
「傾く」
真顔。
俺は布団を押さえる。
「固定が足りない」
カインがしゃがみ込む。
袋の端を押す。
「高さも揃っていませんね」
「……分かってる」
アクセルがもう一度寝返る。
今度は腰が先に沈む。
肩が後から落ちる。
ぼよん。
ほんの少し跳ねる。
「……跳ねる」
「跳ねてない」
「跳ねた」
《反発過多》
(言い過ぎだ)
ここちゃんが楽しそうに袋の上を跳ねる。
ぴょん。
布団が揺れる。
アクセルの体が、わずかに上下した。
ぼよ。
「うさぎがトドメを刺した」
「お前が動くからだ」
ノアが袋を押す。
「中の配置が寄ってる」
一拍。
「袋ごとの差も大きい」
《再配列:推奨》
《追加:必要》
(まとめるな)
アクセルは天井を見つめたまま言う。
「……固くはない」
進歩だ。
だが。
「落ち着かない」
「それは分かる」
カインが穏やかに言う。
「腰は支えられています」
「だろ」
「ですが、横へ流れます」
的確すぎる。
アクセルが起き上がる。
「揺れなければ良い」
「簡単に言うな」
「揺れるのは嫌だ」
即答。
俺は布団をめくる。
方向は間違っていない。
だが、まだ半端だ。
ノアが小さく言う。
「惜しい」
アクセルもうなずく。
「惜しい」
くやしいが、同意だ。
ここちゃんがもう一度跳ねる。
ぼよん。
アクセルが小さく言う。
「……やはり揺れる」
「知ってる」
俺は四つの袋を引き抜く。
「追加だ」
「今からか」
「今からだ」
数を増やす。
固定も考える。
やることは見えた。
《改良:継続》
(締めるな)
俺は笑う。
固いとは言われなかった。
それだけで、妙に嬉しい。
くだらない。
でも、こういうことで揉めている時間が、悪くない。
「行くぞ」
袋を抱え、扉を開ける。
庭の光が差し込む。
今日中に、次の形までは持っていく。
寝るだけの話だ。
それだけなのに、やけに本気だ。
悪くない。
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