縮まる距離
王都を出て四日目の昼。
街道は穏やかだった。
陽は高く、風は乾いている。
草の匂いと土の匂いが混ざる。
遠くで鳥が鳴いた。
サイファまで、あと二日。
ここちゃんが腕の中で耳を揺らす。
きゅる。
むぎが胸ポケットの中でもぞりと動く。
キュ。
荷車の車輪が、乾いた道を小さく鳴らす。
カインの歩幅は乱れない。
速すぎず、遅すぎず。
街道に慣れた足だ。
アクセルが横目でちらりと見る。
「荷車、静かだな」
カインは穏やかに答える。
「揺れると傷む品がありますから」
「商人らしいな」
短いやり取り。
だが、空気は悪くない。
ノアが前を見る。
「この辺りは見通しがいい」
「ああ」
頷いた、そのときだった。
林の奥で枝が折れる。
乾いた音。
アクセルの足が止まる。
わずかに重心が落ちる。
「来る」
低い声。
次の瞬間、獣型の魔物が飛び出した。
灰色の毛並み。
牙が光る。
アクセルが前に出る。
地面を蹴る音。
剣が振り下ろされる。
ノアの詠唱が重なる。
空気が震え、魔物の足元が崩れる。
もう一体。
横から回り込む。
俺の視界の端に影。
固定を構えようとした。
だが、半歩遅い。
その瞬間、風が横を抜けた。
カインが、いつの間にか半歩前に出ていた。
動きは静かだ。
短剣が、いつの間にか手にある。
踏み込みは浅い。
刃が、最短距離で喉元へ入る。
魔物は声を上げる前に崩れた。
血が地面に落ちる。
終わるのが早い。
アクセルが剣を払う。
「商人、軽いな」
カインが刃を布で拭く。
穏やかな顔。
「旅は危険が多いですから」
肩を竦める。
「昔、少し護身を覚えまして」
軽い言い方だ。
ノアが一瞬だけ視線を向ける。
足運び。
呼吸の乱れ。
刃の戻し。
そして何も言わない。
俺は息を吐く。
喉が少し乾いていた。
「助かった」
自然に出た。
カインが目を細める。
「お互い様です」
押しつけがましくない。
アクセルが鼻を鳴らす。
「旅商人なら身は守れないとな」
「その通りです」
カインは笑う。
ここちゃんが俺の腕の中で落ち着き、鼻先を服に押しつける。
むぎが胸ポケットの中から小さく鳴く。
キュ。
緊張が抜ける。
空気が戻る。
俺は歩き出した。
隣で、荷車の音がまた静かに転がり始める。
戦闘は小さい。
だが、距離は縮んだ。
サイファまで、あと二日。
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