王都の夜
四日目の午後、街道の先に城壁が見えた。
白い石壁が、陽を受けて光る。
高く、まっすぐだ。
ここちゃんが腕の中で耳を立てる。
むぎが胸ポケットの奥で小さく動く。
門前には列ができていた。
荷馬車の軋む音。
兵の声。
規則正しい流れ。
ノアが静かに言う。
「秩序がある」
アクセルが周囲を見回す。
「相変わらずだな」
俺は苦笑する。
門をくぐる。
石畳の感触が足裏に伝わる。
通りは広い。
建物は整っている。
喧騒はあるが、荒れてはいない。
行きは通り過ぎただけだった。
だが、今は急ぐ理由もない。
宿を取ることにした。
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門に近い宿に入る。
前とは違う宿だ。
当然だ。
王都側が用意した、あの高級宿ではない。
今回は普通の旅人宿だ。
木の階段がぎしりと鳴る。
部屋に入り、荷を下ろす。
アクセルが寝台を押す。
ぎし、と鳴る。
身体を乗せる。
沈む。
止まる。
「……硬い」
低い声。
俺は吹き出す。
「前に王命で来た時の宿と比べるな」
アクセルが真顔で言う。
「前回は良かった」
「前回は王都が用意した宿だぞ」
俺は腕を組む。
「あそこは相当高い」
ノアが椅子に腰を下ろし、口元をわずかに緩める。
「確かに」
精霊王都の静けさとも違う。
王国の王都は、整っていて、きっちりしていて、少しだけ息が詰まる。
あのときは客人だった。
今は、ただの旅人だ。
アクセルが天井を見上げる。
「改善の余地がある」
「何を改善する気だ」
俺は笑う。
カインは荷を整えながら言う。
「宿にも階層がありますから」
穏やかだ。
責めない。
ただ事実を置くだけだ。
ここちゃんが寝台の端にぴょんと乗り、くるりと向きを変える。
そのまま布の上に座り込み、前足を揃えた。
むぎが胸ポケットから顔を出す。
キュ。
ノアが小さく息を吐く。
「王都は整っている」
一拍。
「だが、落ち着くのは……」
言葉が途切れる。
俺は窓を開けた。
夜の王都が広がる。
整った灯り。
規則的な音。
「明日からまた北だ」
六日。
サイファまで。
アクセルが小さく頷く。
「帰る」
短い言葉。
だが、部屋の空気が少しだけ柔らぐ。
前に王命で来た時の高級宿も悪くなかった。
だが、あれは用意された場所だ。
今は、自分たちで選んだ道の途中にいる。
それで十分だった。
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