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王都の夜


 二日目も。


 三日目も。


 街道を進んだ。


 昼に休んで。


 夜になれば火を囲む。


 ここちゃんとむぎにも水と食事を出して、それぞれの敷物で休ませる。


 カインも、頼んだことを手伝ってくれた。


 そうして。


 四日目。


 午後。


「あ」


 街道の先に、見覚えのあるものが見えた。


 遠くからでも分かる。


 王都だ。


「着いたな」


「ああ」


 アクセルが答える。


 ノアも前を見ていた。


 ここちゃんは腕の中。


 むぎは胸元だ。


 何日も街道を歩いてきたせいか、人の出入りが増えていくのを見るだけでも少し気が緩む。


 王都へ来るのは、これが初めてじゃない。


 前は。


 ここへ着いてから、色々あった。


 白兎の庭を登録して。


 鉱山へ行って。


 そのあとも、すぐには帰れなかった。


 今回は違う。


「王都だな」


 もう一度言う。


「そうだな」


 アクセルの返事も軽い。


 カインが俺たちを見る。


「皆さんは、以前にも来られているんですよね」


「ああ」


「しばらくいた」


 ノアが短く答えた。


「そうでしたか」


 カインはそれだけ言って、また前を向く。


 王都の門が近づいてくる。


 でも。


 前に来た時みたいな、ようやく目的地へ着いた感じはなかった。


 今日はここで寝る。


 明日になったら、また出る。


 それだけだ。


 王都へ入り、俺たちは宿を取った。


 前に泊まったところとは違う。


 あの時は王都側が用意してくれた宿だった。


 今回は、自分たちで普通の宿を選んだ。


 部屋へ入る。


 俺はここちゃんを片腕に抱いたまま、空いた手で薄い敷物を出した。


 床へ置いて。


「ここちゃん、少し休むか」


 きゅる。


 敷物へ下ろす。


 それから、むぎ用の小さい敷物も出した。


 胸元からむぎを手へ移す。


「むぎも」


 キュ。


 小さい敷物へ下ろすと、そのまま身体を丸めた。


「疲れたか」


 鼻が少し動く。


 まあ、四日だもんな。


 二匹に水を出す。


 ここちゃんが飲み始める。


 むぎも少しして顔を上げた。


 俺もようやく荷物へ手を伸ばす。


 街道を歩くのと。


 宿へ着いてから腰を下ろすのと。


 同じ休憩でも、全然違う。


「ああ……」


 思わず声が出た。


 アクセルが寝台へ腰を下ろす。


 少し沈む。


 そのまま、手で確かめるように押した。


「どうした?」


「……前の方が柔らかかった」


「お前、覚えてたのか」


「ああ」


「地面よりいいだろ」


 アクセルが少し考える。


「それはそうだ」


「ならいいだろ」


「だが、前の方が柔らかかった」


「二回言うなよ」


 ノアが寝台を見る。


「贅沢になったな」


「違いが分かるようになっただけだ」


「それを贅沢って言うんじゃないのか?」


 アクセルは黙った。


 そこは考えるんだ。


 カインが口元を少し緩めている。


「昨日も地面の硬さを気にされていましたね」


「ああ」


 アクセルが普通に頷く。


「寝台は柔らかい方がいい」


「すっかり好きになったな」


「悪いか」


「いや」


 別に悪くはない。


 森で平気で寝てた頃を知ってるから、ちょっと面白いだけだ。


 ここちゃんが敷物の上で身体を伸ばした。


 むぎはもう丸い。


 俺も休みたい。


 ものすごく休みたい。


 けど、腹も減っていた。


 夕方。


「飯行くか」


「ああ」


 まずむぎを胸元へ戻す。


 キュ。


 ここちゃんのところへ行って、抱き上げる。


「お前も行くぞ」


 きゅる。


 二匹を連れて、宿の食事へ向かった。


 席へ着くと、ここちゃんは俺の膝の上。


 むぎは胸元だ。


 四日間の移動が終わったせいか、座っているだけで身体が軽い。


「明日は?」


 カインが聞いた。


「朝から出る」


 アクセルが答える。


 カインが少し目を瞬かせた。


「もう出発されるんですか?」


「ああ」


 俺は頷く。


「特に王都で用もないしな」


「そうなんですね」


「サイファまで、あと六日」


 ノアが言う。


「六日ですか」


「長いな」


 アクセルがぼそっと言った。


「お前、昨日も三日で長いって言ってただろ」


「六日はもっと長い」


「当たり前だよ」


 少し間があって。


 アクセルが呟く。


「……また地面か」


「まだそこ気にしてるのか」


「六日」


「数えるなって」


 ノアが静かに食事を続けながら言う。


「帰れば寝台がある」


 アクセルの耳が少し動いた。


「そうだな」


「それで納得するんだ」


 ノアは特に気にした様子もない。


 でも。


 今の言い方が少し引っかかった。


 帰れば。


 サイファへ。


 カインがノアを見る。


 それから、俺たちを見る。


「皆さん、本当にすぐ戻られるんですね」


「戻るよ」


 俺は答えた。


「ここまで来たし」


「王都は、本当に途中なんですね」


「ああ」


「早く帰りたいし」


 俺が言うと。


「ああ」


 アクセル。


「帰る」


 ノア。


 二人とも、迷いがない。


 カインは何も言わなかった。


 ただ。


 少しだけ目を細めて、それから頷いた。


「では、明日も早いですね」


「ああ」


「また六日よろしく」


「はい。よろしくお願いします」


 それだけだった。


 食事を終える。


 ここちゃんを膝から抱き上げる。


 むぎは胸元のまま。


 そのまま一緒に部屋へ戻った。


 ここちゃんを薄い敷物へ下ろす。


 むぎも胸元から出して、小さい敷物へ。


 ここちゃんの耳が一度動いた。


 むぎも小さく身体を丸める。


「お前らも、あと六日な」


 二匹に言ってから。


 長いな、と少し思った。


 ヴァンを出て。


 四日歩いて。


 王都まで来た。


 それでも、帰る場所はまだ先だ。


 窓の外には王都の灯りが見える。


 前に来た時は、ここで何日も過ごした。


 今日は一晩だけ。


 明日の朝には、また街道へ出る。


 サイファまで六日。


 早く帰りたい。


 それだけだった。

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