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こら、アクセル。お座り!


一瞬緊張感が高まったものの


「登録を行いますので、こちらへ」


気を取り直し、ミアが書類を差し出す。


俺はペンを握る。


レイン。


人族。


武器欄、空白。


(そのうち決めよう)


ミアが淡々と告げる。


「はい、では登録完了後、Fランクとなります」


「再度お伝えしますが、瞬狼様との正式なパーティー登録は規定上――」


「組む」


アクセルが即答。


また空気がぴりつく。


ミアが心底困った顔で言う。


「規定でございますので……」


アクセルが一歩前に出る。


「レインは俺が守る」


その一言。


周囲にざわ、と波が広がる。


「守る、だって?」


「……あの瞬狼が?」


「どういうことだ」


声が増える。


「弱みでも握られたのか?」


「怪我して抵抗できないうちに従属契約でもさせられたんじゃないか?」


「見るからに弱そうな新人のくせに生意気な――」


その瞬間。


空気が落ちた。


アクセルの瞳が、完全に変わる。


殺気。


床板が軋む。


「……今、何と言った」


低い。


だが底にあるのは怒り。


ギルド内の冒険者が後ずさる。


俺の背筋を冷たい汗が流れる。


アクセルが一歩踏み出す。


「レインを侮辱するな」


牙がわずかに覗く。


銀の耳が立つ。


本気で怒っている。


俺のために。


それは、正直。


少し嬉しい。


だが。


ここは街だ。


ギルドだ。


暴れたら終わる。


街で生活ができなくなるかもしれない。


アクセルがさらに一歩出る。


床が鳴る。


殺気が刃のように広がる。


椅子が倒れる音。


ミアの耳がぴんと立つ。


「瞬狼様、落ち着いて――」


だめだ。


止まらない。


このままだと本気で斬る。


俺は、ほぼ反射で叫んでいた。


「こら、アクセル!」


ぴたり、と止まる。


全員の視線が俺に集中する。


そして。


「お座り」


静寂。


本当に、静寂。


アクセルの身体が、止まる。


数秒。


長い。


やがて。


無意識のように。


膝を折る。


完全に。


お座り。


ギルド内、凍結。


「……は?」


誰かの声。


ミアの緑の瞳が見開かれ、耳が震えている。


「瞬狼が……」


「座った……?」


アクセルは自分の姿勢に気づき、ゆっくり俺を見る。


怒りは消えている。


代わりに、困惑。


「……なぜ」


「知らん」


俺も知らん。


完全に大型犬を止めるノリだった。


俺は低く言う。


「街だ」


「ここで暴れるな」


アクセルは数秒、俺を見つめる。


やがて、小さく息を吐く。


「……分かった」


立ち上がる。


俺の隣へ戻る。


殺気は、完全に消えている。


ギルド内、ざわざわ。


「瞬狼を止めた……?」


「命令したぞ今」


「従ってる……」


「主……?」


誤解が加速する。


俺は頭を抱えたくなる。


ミアが震える声で言う。


「……登録、完了しました」


ギルドカードを受け取る。


「レイン様、Fランクです」


アクセルは静かに立っている。


さっきまでの怒りが嘘のようだ。


俺は小声で言う。


「深い意味はないからな」


「ああ」


「だが恩人への侮辱は許さない」


真顔。


ポンコツなのに真面目。


俺は小さく息を吐く。


ここちゃんはのんきにウトウト。


むぎちゃんは胸ポケットで静かに瞬く。


そしてギルド内では、すでに噂が生まれていた。


“孤高の瞬狼を従えた人族”


“瞬狼をお座りさせた男”


誤解は、もう止まらない。


ひとつため息をつき


俺は思う。


(平穏は遠いな)



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