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約束の手前


 それから。


 しばらく歩いた。


 リノアまでは。


 あと半日らしい。


 森を抜ける手前。


 道の脇に開けた草地が見えたところで。


 テラが足を止めた。


「時間がある」


 その言い方に。


 前にも似たことがあった気がする。


 アクセルがすぐに振り返った。


「やるか」


「ああ」


 早いな。


 俺は二人を見る。


「またか」


 テラは背の弓へ手を伸ばす。


 アクセルも剣の柄へ手を置いた。


 本気らしい。


「怪我するなよ」


「分かっている」


「ああ」


 俺は少し離れる。


 ここちゃんを抱き直して。


 胸元のむぎにも手を添えた。


「ちょっと下がるぞ」


 きゅる。


 キュ。


 ノアも俺の近くまで下がる。


 草地の中央に。


 アクセルとテラが向かい合った。


 前にやった時は。


 互いの強さを確かめるような戦いだった。


 今回は。


 始まる前から。


 二人とも迷いがない。


 テラが弓を構える。


 アクセルが身体を低くした。


 合図はなかった。


 矢が放たれる。


 でも。


 矢が届くより先に。


 アクセルの身体はもう横へ動いていた。


「……早」


 避けた直後。


 二射目。


 今度は。


 アクセルが踏み込もうとした先へ飛ぶ。


 そのまま進めば。


 矢の方へ入る。


 アクセルの足が止まった。


 いや。


 止まったのは一瞬だけ。


 すぐに踏み込む向きを変える。


 三射目。


 低い。


 足元。


 アクセルが跳ばない。


 半歩ずらして。


 矢をかわす。


 そのまま。


 距離を詰める。


 テラも下がった。


 ただ離れるんじゃない。


 アクセルが進む先から。


 少しずつ位置をずらしている。


 矢が飛ぶ。


 アクセルが避ける。


 また矢。


 今度は。


 避けた先へ。


「……息が合ってる」


 隣でノアが言った。


「戦ってるのに?」


「ああ」


 確かに。


 変な話だけど。


 見ていると分かる。


 どちらかが。


 相手の動きを見てから対応しているだけじゃない。


 アクセルが動く。


 その先へテラが射る。


 テラが射る。


 その前にアクセルが進路を変える。


 何度も一緒に動いて。


 森でも、互いの動きを見てきた。


 それが。


 今の戦いに出ているように見えた。


 アクセルが一気に前へ出た。


 テラが矢を放つ。


 アクセルは身体を傾ける。


 矢が肩の横を抜けた。


 次。


 テラが弦へ指をかける。


 でも。


 アクセルの方が近い。


 剣が抜かれた。


 テラも。


 構えを崩さない。


 一歩。


 アクセルが踏み込む。


 距離がなくなった。


「……っ」


 剣先が。


 テラの喉元へ伸びる。


 同時に。


 テラの矢も。


 アクセルの胸へ向いていた。


 前と。


 似た形。


 でも。


 止まった時。


 俺は気づいた。


 アクセルの剣先は。


 喉から少し外れている。


 テラの矢も。


 胸の中心からずれていた。


 どっちも。


 急所には向いていない。


 少しの沈黙。


 風が草を揺らす。


 先に。


 テラが弓を下ろした。


「……強い」


 アクセルも剣を引く。


「お前もだ」


 短い。


 それだけ。


 でも。


 前にやった時とは。


 少し違って聞こえた。


 ノアがもう一度言う。


「……息が合ってる」


 今度は。


 俺も否定しなかった。


 テラが矢を戻す。


 それから。


 アクセルを見る。


「戦場では、背を預けられる」


 アクセルは。


 すぐには答えなかった。


 少しだけ。


 テラを見る。


「ああ」


 それだけだった。


 テラも。


 それ以上は言わない。


 アクセルが剣を収める。


 そして。


「中央大陸に来い」


 今度は。


 テラが少しだけ目を動かした。


「俺が?」


「ああ」


「……機会があればな」


 アクセルが頷く。


 それで。


 話は終わった。


「終わったか?」


 俺が聞く。


「ああ」


 テラが答える。


「なら行こう。まだ半日あるんだろ」


「ああ」


 テラが弓を背負い直す。


 俺も。


 ここちゃんを抱いたまま歩き出す。


 むぎは胸元。


 アクセルが続いて。


 ノアも一緒だ。


 テラはまた。


 少し前を歩く。


 さっきまで剣と矢を向け合っていた二人も。


 何事もなかったみたいに。


 同じ道を進んでいった。

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