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精霊王都の門で


 翌朝。


 精霊王都の門まで来た。


 頭の重さは、まだ少し残っている。


 身体も完全に戻った感じはしない。


 でも、歩く分には問題なかった。


 ここちゃんは腕の中。むぎは胸元だ。


 アクセルはいつも通り。


 テラは少し前で、門の外へ続く道を見ている。


「リノアまでは陸路だ。森沿いを抜ける」


「ああ」


 まずはリノア。


 そこから、中央大陸へ戻る。


 森の件も終わった。報告も済んだ。


 あとは帰るだけだ。



 俺は門の方を見る。


 ノアが立っていた。


 門の内側。


 昨日までと変わらない、落ち着いた顔でこっちを見ている。


 ここはノアの故郷だ。


 帰ってくる理由だった場所。


 だから、ここで別れる。


 俺はそう思っていた。


「世話になったな」


 ノアが俺を見る。


「ああ」


 短い返事。


 少しして。


「中央大陸へ戻るのか」


「ああ」


 俺は頷く。


「まずはリノアだな。その後はサイファに戻る」


「そうか」


 それで、会話が止まった。


 風が吹く。


 門の上で、旗が揺れた。


 ノアは動かない。


 何か言うでもなく、こっちを見ている。


 少し、間が長い。


「……ノア?」


 呼ぶと、ノアが口を開いた。


「……同行する」


「え?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「俺たちに?」


「ああ」


 返事は変わらない。


「いいのか?」


「王には報告済み」


「もう?」


「ああ」


 昨日の夜。


 あの話をしたあとか。


 いつ決めたのかまでは分からない。


 でも、もう必要なことは済ませてきたらしい。


「一定期間、外洋調査という形で動く」


「それって」


 俺は少し考える。


「王命か?」


「違う」


 すぐに返ってきた。


 ノアは、まっすぐ俺を見る。


「私が希望した」


 俺は黙った。


 昨日。


 命令を待たなかった。


 そう言っていた。


 でも、今度はもっと分かりやすい。


 自分で決めて、そのために王へ報告して、今ここに立っている。


「なんでまた」


 俺が聞く。


 ノアは少しだけ視線を外した。


「次に何が起きるかは分からない」


「ああ」


「今回も、分からないことばかりだった」


 靄。


 俺の固定。


 むぎに起きたこと。


 確かに、分からないものだらけだった。


 ノアが続ける。


「理屈だけでは測れないものがあると知った」


 声は静かだ。


 いつものノアと、何も変わらない。


「それを確かめたい」


「何を?」


 聞くと、ノアは少しだけ黙った。


「……それも含めて」


「そこも分からないのか」


「ああ」


 珍しいな。


 と思ったけど、口には出さなかった。



 ノアが、一歩前へ出る。


 門の内側から、外へ。


 そのまま、俺たちのいるところまで来た。


 ただの一歩だった。


 ノアは俺の隣で止まる。


 アクセルが見る。


「増えたな」


「そうだな」


 旅をする人数が、一人増えた。


 テラも振り返る。


 ノアを見る。


「……そうか」


「ああ」


 それだけだった。


 テラはそれ以上聞かない。


「なら、リノアまでは俺が案内する」


「頼む」


 ノアが答える。


 俺は二人を見て、少しだけ息を吐いた。


「じゃあ、またよろしくな」


「ああ」


 ノアが短く返す。



 腕の中で、ここちゃんの耳が動いた。


 きゅる。


 胸元からも。


 キュ。


「お前らも聞いてたか」


 別に、返事の意味なんて分からない。


 ただ、二匹ともいつも通りだった。


「行くぞ」


 テラが言う。


「ああ」


 俺たちは歩き出した。


 テラが前を歩く。


 アクセルも続く。


 俺も。


 そして、ノアも一緒に歩いている。


 一度だけ、後ろを振り返った。


 朝の光の中。


 精霊王都の門が、少しずつ遠くなっていった。

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