精霊王都の門で
王都の朝は澄んでいた。
塔の上に朝日がかかる。
白い石畳が、やわらかく光を返す。
門前には、すでに旅支度を整えた俺たちが立っていた。
ここちゃんは腕の中。
むぎは胸ポケット。
キュ。
アクセルは手ぶらで立っている。
荷はすべて魔法袋だ。
相変わらず身軽だな、と一瞬思う。
テラは少し前に立ち、街道の方角を確認している。
「リノアまでは陸路だ。森沿いを抜ける」
副団長の声。
任務ではない。
だが最後まで責任を持つ顔だ。
ノアは門の内側に立っている。
姿勢は整っている。
だが、足はまだ動いていない。
俺は振り返る。
「世話になったな」
自然な別れの言葉。
任務は終わった。
報告も済んだ。
ここは故郷だ。
ノアが残るのが普通だ。
ノアは俺を見る。
静かな目。
「中央大陸へ戻るのだな」
「ああ」
肩をすくめる。
「しばらくはサイファだ」
特に計画はない。
いつも通りだ。
一拍。
風が鳴る。
門の上で旗が揺れる。
ノアの視線が、少しだけ遠くを見る。
精霊王の間。
森の戦い。
あの夜の会話。
「選んだから守る」
理ではない。
選択。
ノアはずっと、理を先に置いてきた。
国。
精霊。
均衡。
最適。
だが、あの森で。
自分は命令を待たなかった。
王に問われたとき。
自分で答えた。
そして今。
ここは故郷だ。
安全だ。
戻る場所もある。
だが――
胸の奥が、静かにざわめく。
門の外。
あちら側は未知だ。
不確定だ。
レインは何も保証しない。
それでも進む。
理屈より先に。
選んで。
ノアはゆっくりと息を吸う。
そして言う。
「……同行する」
短い。
はっきりしている。
俺は目を瞬く。
「いいのか」
「王には報告済みだ」
淡々と答える。
「一定期間、外洋調査という形で動く」
命令ではない。
許可でもない。
選択だ。
ノアの視線がまっすぐ俺を見る。
「次に何が起きるかは分からない」
「だが」
ほんのわずかに、口元が動く。
「理屈だけでは測れぬものがあると知った」
一歩、門を越える。
内と外の境界を越える。
「それを、確かめたい」
朝日に踏み出す。
完全にこちら側に立つ。
アクセルが静かに言う。
「増えたな」
それだけ。
当然のように受け入れる。
テラが振り返る。
一瞬だけ目を細める。
「……そうか」
短い。
だが否定はない。
「なら、リノアまでは俺が案内する」
副団長の顔に戻る。
俺は笑う。
「賑やかになるな」
ノアはわずかに目を細める。
否定しない。
ここちゃんが腕の中で耳を揺らす。
きゅる。
むぎが小さく鳴く。
キュ。
風が背中を押す。
精霊王都が、後ろにある。
前には、道。
俺は一歩踏み出す。
アクセルが隣に並ぶ。
ノアも続く。
テラが先頭に立つ。
選んだのは、俺たちだ。
門は、静かに遠ざかる。
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