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謁見、そして反動


白い門が、音もなく閉じる。


森の匂いが、薄れる。


精霊王の間は変わらず静かだ。


淡い光。


高い天井。


細い柱。


広い空間。


だが、圧がある。


俺はここちゃんを腕に抱いたまま膝をつく。


白い毛並みが、わずかに揺れる。


きゅる。


胸ポケットの中で、むぎが小さく動く。


キュ。


テラが前に出る。


「森の異常は解消しました」


簡潔な報告。


王は、ゆっくり頷く。


「詳細を」


ノアが続ける。


「再形成を確認。中心部と交戦。最終的に、内側から維持不能となり崩壊しました」


王の視線が、静かにこちらへ向く。


俺へ。


そして。


腕の中のここちゃん。


胸元の膨らみ。


一瞬だけ。


「内側から、か」


低い声。


問いではない。


確認。


俺は顔を上げる。


「空間が歪みました」


事実だけを言う。


「私が固定した領域内で、中心部が維持できなくなりました」


固定。


そこまで。


否定という言葉は出さない。


王は、じっとこちらを見る。


深い。


測るような視線。


胸ポケットの中で、むぎが小さく鳴く。


キュ。


王の瞳が、ほんの一瞬だけ細まる。


だが、追及はない。


「森の流れは戻った」


断言。


「異常は終息した」


沈黙が落ちる。


張り詰める。


ここちゃんが、腕の中で静かに体勢を変える。


きゅる。


王の視線が、わずかに柔らぐ。


「森は救われた。それでよい」


それだけ。


そして、静かに続ける。


「……深追いはせぬ」


空気が、わずかに緩む。


守られた。


森も。


そして。


むぎも。


「よくやった」


重くはない。


だが、確かな言葉。


謁見は終わる。



廊下に出た瞬間。


足の感覚が、抜けた。


視界が揺れる。


ここちゃんを抱く腕が、わずかに下がる。


きゅる。


「レイン?」


ノアの声。


膝が崩れる。


倒れ込む前に、アクセルが支える。


ここちゃんは、落とさない。


胸ポケットで、むぎがキュ、と鳴く。


息が荒い。


どくん。


どくん。


頭が重い。


固定。


無理に引き出した。


発現したばかりの力。


制御できていない。


体が、今さら悲鳴を上げている。


テラが低く言う。


「無理をしたな」


責めない声。


事実だ。


ノアが膝をつく。


「魔力の流れが乱れている」


俺は壁にもたれる。


目を閉じる。


暗い。


耳鳴りがする。


それでも。


ここちゃんの体温が腕にある。


むぎの小さな鼓動が胸にある。


それで、十分だ。


「……守れたなら、安い」


本音が漏れる。


アクセルが、静かに言う。


「次は一人で抱えるな」


短い。


だが重い。


俺は、ゆっくり頷く。


ここちゃんを抱き直す。


むぎを押さえる。


二匹とも、無事だ。


「帰ろう」


声は弱い。


だが、確かだ。


森は救われた。


王は察していた。


だが、何も言わなかった。


否定という言葉は、胸の奥に沈む。


まだ、俺だけのものだ。


廊下の窓から光が差し込む。


王都は静かだ。


戦いは終わった。


だが。


あの掠れた震えだけが、まだ記憶に残っている。


説明できないまま。


静かに。


胸の奥で。



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