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精霊王都


船がゆっくりと岸へ寄る。


川面が朝日を跳ね返し、白く光った。


森が開ける。


石造りの桟橋。


その奥へまっすぐ伸びる白い道。


そして――塔。


川の上流に、細く高い塔がいくつも立っている。


中央大陸の城とは違う。


重厚でも威圧でもない。


空へ伸びる線。


静けさの象徴のような建築。


それでも、目を離せない。


船が接岸する。


衝撃はほとんどない。


乗員が板を渡す。


動きは静かで無駄がない。


テラが先に降りた。


背筋を伸ばし、周囲を一瞥する。


副団長の顔だ。


「行くぞ」


アクセルが一歩踏み出す。


足が精霊大陸の土に触れる。


わずかに息を吸い込む。


「……軽いな」


踏みしめる。


土は柔らかい。


だが沈まない。


弾力がある。


地面が沈まずに押し返してくる感覚。


俺も降りる。


森の匂いが濃い。


湿り気と、青い葉の香り。


ここちゃんが腕の中で耳を揺らす。


きゅる。


むぎが胸ポケットから顔を出す。


キュ。


小さく鼻を動かす。


ノアが静かに周囲を見渡す。


視線は遠く、王都の中心へ。


「警戒は強い。だが、外からは見えない」


穏やかな口調。


テラが頷く。


「守りは見せない。だが、常にある。それが王都だ」



桟橋の奥。


白い装束の騎士たちが整列している。


鎧は装飾が少ない。


だが立ち姿が揺れない。


無言。


それでも、視線は鋭い。


テラが歩み出る。


足音が石に響く。


「副団長テラ、帰還した」


声は抑えられているが、よく通る。


騎士の一人が一歩前に出る。


胸に手を当て、頭を下げる。


「確認した。精霊王がお待ちだ」


その一言で、空気がわずかに張る。


アクセルが小さく鼻を鳴らす。


「早いな」


ノアが静かに答える。


「事態が進んでいる証拠だ」


俺は王都を見上げる。


白い塔の間を、風が抜ける。


葉擦れの音。


遠くで水が流れる音。


静かだ。


だが、静かすぎる。


森の中にいるはずなのに、ざわめきがない。


抑えられているような空気。



テラがこちらを振り返る。


「謁見はすぐだ。余計な動きはするな」


アクセルが腕を組む。


「荒らす気はない」


ノアが続ける。


「状況の報告が先だ。感情で動く場ではない」


俺は肩をすくめる。


「分かってる」


呼ばれていなくても、ここまで来たのは俺の意思だ。


テラが短く言う。


「同行は許可済みだ」


視線が俺に向く。


はっきりと。


俺は頷く。


「了解」


胸の奥がわずかに熱い。


アクセルが俺を見る。


何も言わない。


だが、目は静かに肯定している。



騎士が先導する。


白い石畳を進む。


道の両側に並ぶ木々は高い。


葉が光を受けて揺れている。


王都の中心へ近づくにつれ、空気が変わる。


魔力、というより圧だ。


森そのものが意識を持っているような感覚。


アクセルが小さく呟く。


「強いな」


ノアが目を細める。


「精霊王の領域だ。自然が応えている」


城門が見える。


白い門。


装飾は少ない。


だが、近づくほどに存在感が増す。


テラが足を止める。


振り返る。


「ここから先は王の間だ」


一拍。


門がゆっくりと開く。


白い光が、奥から差し込む。


ノアが小さく息を吐く。


「……始まるな」


俺は一歩踏み出した。


精霊王との謁見が、始まる。



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