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駄狼とサイファの街


森生活、一週間。


水は安定。


塩も確保。


肉も取れる。


香りも増えた。


生活は、回っている。


……回ってはいるが。


岩塩の塊を手に取り、俺は小さく呟いた。


「減ってきたな」


まだある。


でも無限じゃない。


「スパイスも増やしたいし……」


ぼそっと言った瞬間、


アクセルが何気なく返す。


「塩なら街に行けばある」


俺は止まる。


「……街?」


「ああ」


普通の顔。


ここちゃんが草をもしゃもしゃ。


むぎちゃんが胸ポケットでキュッ。


「どこに」


「森を抜けて半日」


沈黙。


「……半日?」


「ああ」


風が吹く。


俺はゆっくり振り向く。


「一週間だぞ?」


「お前は森に住むのが好きだと思っていた」


真顔。


悪気ゼロ。


「……は?」


「不満があるようには見えなかった」


俺は口を開けたまま固まる。


確かに。


サバイバルはしていた。


文句も言ってない。


でも。


「文明圏が半日圏内なら言えよ!」


アクセルは首を傾げる。


「言う必要があったか?」


そこで、頭の中に電子音。


《補足報告》

《南東方向七・二キロメートルに都市“サイファ”存在》


(あ、そう言えばあるよ、みたいなノリで言うな!)


《優先度判定の結果、生活維持に問題なしと判断していました》


ポンコツ×2。


俺は天を仰ぐ。


「なんで俺だけ文明欲しがってるみたいになってるんだ」


アクセルは首を傾げながら淡々と続ける。


「森は静かだ」


「落ち着く」


「街は騒がしい」


「面倒だ」


「好きで森に住んでたのか?」


「ああ」


即答。


ここちゃんがぴょんと跳ねる。


むぎちゃんがキュッと鳴く。


俺は深く息を吐いた。


理解した。


こいつは


駄狼である。


「俺は街に行く」


「なぜ」


「服が欲しい」


アクセルが一瞬、俺を見る。


森生活で擦れ、煙でくすんだ服。


確かにボロい。


「……必要か」


「必要だよ!」


即答。


アクセルは少し黙り、


やがて頷く。


「なら案内する」


渋々。


まるで散歩を嫌がる大型犬。



森を抜ける途中、魔物が現れる。


アクセルが一歩前へ出る。


速い。


音が遅れて聞こえる。


一閃。


血が弧を描く。


二体、三体。


瞬く間に沈黙。


(やっぱ強ぇ……)


森で重傷だったとは思えない動き。


ここちゃんは草を探している。


むぎちゃんはポケットから顔だけ出して観察。


平和と戦闘の温度差がすごい。


「強いな」


「当然だ」


即答。


自信は揺らがない。


だが。


「街あるって最初に言え」


アクセルは魔物から素材を剥ぎ取りながら平然と言う。


「森で足りていた」


反省ゼロ。


本気でそう思っている顔。


素材を淡々とまとめて俺に差し出す。


「これはやる」


「ギルドに持っていけば金になる」


受け取りながら礼を述べる。


「お、おう…。ありがとな。」


こいつめちゃくちゃ強いけど…


うん。これはポンコツ確定。



森を抜ける。


視界が開ける。


石壁。


見張り塔。


煙。


人の声。


(……文明)


胸がじわっと熱くなる。


ここちゃんがぴょん、と跳ねる。


むぎちゃんがキュッ。


門番は普通に人族のようだ。


門番の一人がこちらを見る。


止まる。


目が見開かれる。


「……おい」


隣に合図。


空気が変わる。


視線は俺ではない。


アクセルへ。


「漆黒の瞬狼……?」


俺は横を見る。


「え?」


アクセルは普通に立っている。


「死んだって話は……」


「死んでいない」


淡々。


門番が槍を地面に打ちつける。


「通れ!」


え、そんな簡単?


俺、小声で聞く。


「そんなに有名なのか?」


「それなりに」


信用ならない温度。


門をくぐる。


石畳。


パンの匂い。


革の匂い。


金属音。


人のざわめき。


文明の音。


(帰ってきた感じがする……)


異世界だけど。


通行人には俺と変わらない人族


獣人と思われる特徴を持つ人もいる。


さまざまだ。


視線が刺さる。


「瞬狼だ……」


「本物か?」


噂。


ざわめき。


そして。


視線が、ここちゃんに移る。


「うさぎ……」


ざわめきが少し和らぐ。


瞬狼 → うさぎ → 俺。


何だこの構図。


アクセルが言う。


「まずはギルドか?」


「おう、買い物するにもまずは金が必要だ」


森生活は回っていたが、文明的にはゼロ。


俺は小さく息を吐く。


「あまり目立ちたくないんだが」


アクセルは即答する。


「無理だ」


その通りだろうな。


この時はまだ知らない。


この街で、


アクセルが本気で殺気を放ち、


俺がつい


「こら、アクセル。お座り」


と口走る未来を。


今はまだ、


その一歩手前。


ポンコツ×2と、


俺の胃痛だけが増えていく。



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