庭付き即決
物件は、街道から一本入った場所にあった。
木の門、低めの塀。
中には、青々とした草。
「……庭だ」
俺が呟く。
腕の中で、ここちゃんが前のめりになる。
きゅる。
「まだだ、待て」
門を開けた瞬間。
ぴょん。
一直線。
もしゃ。
早い。
アクセルが腕を組む。
「良い庭だ」
「評価そこ?」
ノアがしゃがみ込む。
土に触れ、草を確かめる。
「日当たり、排水、問題ない」
ここちゃんは完全に聞いていない。
もしゃもしゃ。
《草質、良好。草食個体満足度上昇》
(分析するな)
⸻
物置を開ける。
むぎが胸ポケットから身を乗り出す。
キュ。
「危ないぞ」
手を差し出すとポケットから出て手に乗る。
そっと地面へ下ろしてやる。
次の瞬間、物置へ一直線。
「探索か」
アクセルが言う。
「たぶんな」
がたん。
中から音。
物置の奥にあった小さくて古い桶を転がして出てくる。
キュ!
なんだか誇らしげだ。
自然と頬が緩む。
《戦利品、価値低》
(言わなくていい)
⸻
家の中へ入る。
少し床がきしむ。
だが悪くない。
俺は台所を見る。
広い。
棚も多い。
流し台もある。
石の台に、黒い面が埋め込まれている。
「……何だこれ」
ミアが言う。
「魔石コンロです!」
石台の端を指さす。
「ここに火の魔石を入れるんです。ドワーフ大陸産ですよ!」
「へぇ」
流し台の蛇口をひねる。
水が出る。
「こっちは水の魔石です!」
「……ちゃんとしてるな」
ミアがうなずく。
「こういう設備、整えるのにお金かかるんです!」
俺はもう一度台所を見る。
広い。
棚も多い。
「……スパイス棚、作れるな」
アクセルが真顔で言う。
「鍋は置ける」
「そこか」
「寝られる」
最低基準らしい。
ノアが壁を軽く叩く。
「少し補強は必要だ」
アクセルが言う。
「壁は厚い方がいい」
「なんでだ」
「囲まれる」
まだ言うか。
《出入口一箇所推奨》
(乗っかるな)
《防衛効率、向上》
(ここは家だ)
一瞬、静かになる。
俺は言い直す。
「……拠点だな」
アクセルが小さくうなずく。
「そうだ」
ノアが続ける。
「根を張る場所だ」
⸻
ミアに案内されながら確認する。
ダイニングと、他に部屋が五つもある。
奥の小部屋も見る。
壁も床も、つるりとしている。
足元に排水口。
「こっちは水場です!」
ミアが言う。
蛇口をひねる。
水が流れる。
「こっちは水!」
もう一つ。
「こっちは、お湯が出る魔道具です!」
ひねる。
少し間。
湯気。
「……出たな」
「熱湯ではないですけど、そこそこ熱いので気をつけてくださいね!」
俺は桶を見る。
水を張る。
少し足す。
「……混ぜればいいか」
「そうです!」
ミアが笑う。
「古い型ですけど、十分便利ですよ!」
高いだけあるな。
⸻
俺は庭を見る。
ここちゃんが草をはむ。
むぎが桶に入り込む。
キュ。
アクセルが見回して言う。
「問題ない」
ノアが続ける。
「資金はある」
ミアが期待の目で見る。
俺は少しだけ息を吐く。
……確かに悪くない。
むしろ、かなりいい。
「ここにする」
ミアが両手を上げる。
「即決!」
アクセルがうなずく。
「良い拠点だ」
ノアも静かに。
「妥当だ」
《白兎の庭、名称適合率上昇》
(勝手に統計取るな)
《看板設置、推奨》
(誰が作る)
《自動化希望》
(無茶言うな)
⸻
門の外から声がする。
「おーい!決まったかー!?」
例の神輿好き冒険者だ。
早い。
情報が早すぎる。
疑いの眼差しでミアを見る。
「なんでここだと知ってる」
ミアがにやりと笑う。
「受付ですから!」
やっぱり拡散源だ。
⸻
庭の真ん中に立つ。
風が抜ける。
草が揺れる。
ここちゃんが楽しそうに足元を回る。
きゅる。
むぎが桶の中から顔を出す。
キュ。
俺は小さく言う。
「家、か」
アクセルが即座に訂正する。
「拠点だ」
ノアが続ける。
「選んだ場所だ」
《定住確率、上昇》
(お前は黙れ)
でも。
悪くない。
騒がしくて。
少しズレていて。
それでも。
ここは――
俺たちの庭だ。
⸻




