受付嬢は情報が早い
翌朝。
サイファの空は青い。
昨日の騒ぎが嘘みたいに、風が静かだ。
……静かすぎる。
「今日は平和だな」
俺が言うと、アクセルが横でうなずく。
「昨日より少ない」
基準が昨日なのが怖い。
⸻
ギルドの扉を開ける。
数人が振り向く。
「あ、白兎の庭だ」
もう完全に定着したらしい。
カウンターの向こうで、ミアがぱっと顔を上げた。
「おはようございます!」
とてもいい笑顔。
「情報、回るの早くない?」
俺が言うと、ミアは胸を張る。
「符写盤入りましたし!」
やっぱりそこか。
ノアが小さく言う。
「受付は拡散点だ」
「聞こえてますよ?」
ミアがにやりと笑う。
最初に会ったときの凛とした受付嬢はどこへ行った。
いや、いる。
そのまま、進化した。
⸻
「それでですね」
ミアが身を乗り出す。
目が仕事モードだ。
「今日は拠点、探しますよね?」
俺は瞬きをする。
「なんで知ってる」
「ドランさんが“もう決まりだ”って」
言うな。
アクセルが即答する。
「屋根は必要だ」
ノアが淡々と続ける。
「物資管理と情報整理に有効」
完全に外堀が埋まっている。
⸻
ミアが書類を広げる。
動きに迷いがない。
「候補は三つです」
机に並べる。
「一つ目、川沿い。安いけど狭い」
アクセルが即答。
「却下」
「早い!」
「武器が置けない」
そこ基準か。
「二つ目、倉庫付き。でも庭なし」
ここちゃんが腕の中で、きゅる、と鳴く。
俺はうなずく。
「却下」
ミアが笑う。
「やっぱり庭は必須ですよね」
“ですよね”で断定するな。
⸻
「三つ目」
少しだけ声のトーンが上がる。
「街道近く。物置あり。部屋数多め。そして庭付き」
紙を差し出す。
「ちょっと高いです」
俺は値段を見る。
……高い。
正直、胃が重い。
アクセルが横から言う。
「鉱脈三割」
それを言うな。
ノアが淡々と補足する。
「長期的投資として妥当」
《拠点確保、推奨》
くさえもんが便乗する。
今日はまともだな。
俺は紙を見る。
庭は広すぎず、狭すぎず。
周囲に高い建物はないらしい。
日当たりも悪くなさそうだ。
悪くない。
⸻
「見に行きます?」
ミアが期待の目で言う。
俺は小さく息を吐く。
「…行くか」
ミアがぱっと立ち上がる。
「案内します!」
仕事が早い。
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ギルドを出る。
日差しが強い。
石畳が温まっている。
歩き出した瞬間、声が飛ぶ。
「おーいレイン!」
鍛冶屋の親父だ。
「鉱山すげぇな!」
パン屋の娘が顔を出す。
「うさぎ元気!?」
八百屋の婆さんが手を振る。
「干し果物ありがとね!」
足が止まる。
アクセルが小さく言う。
「囲まれている」
「違う」
俺は笑う。
囲まれてるけど、違う。
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
「やっぱ可愛いな!」
むぎが胸ポケットから顔を出す。
キュ。
「ハムも顔出してるな!」
距離が近い。
顔が見える距離。
声が届く距離。
王都とは、違う。
ノアが静かに周囲を見る。
「監視ではない」
アクセルが小さく言う。
「隣人だ」
俺は肩の力を抜く。
「ああ、帰ってきたな」
ミアが振り返る。
「ほら、もう人気者なんですから」
人気者かは分からない。
でも。
名前を呼ばれる街は、悪くない。
俺は前を見る。
拠点を持つ。
庭を持つ。
ここちゃんとむぎが走れる場所を持つ。
どうやら――
白兎の庭は、本当に根を張るらしい。
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