サイファ帰還
門の内側は、もう騒がしかった。
「白兎の庭が戻ったぞ!」
叫ぶな。
「鉱山どうだった!?」
「石化戻したって本当か!?」
「王宮呼ばれたんだろ!?」
早い。
情報が早すぎる。
俺は両手を上げる。
「ちょっと待て!」
ノアが小さく言う。
「伝達が早い」
アクセルが周囲を見る。
「囲まれた」
戦闘態勢に入るな。
⸻
半ば押されるようにギルドへ入る。
中はさらに騒がしい。
カウンターの奥で、ドランが腕を組んでいた。
「やっと戻ったか」
その前に、見慣れない板が置いてある。
金属枠に刻印。
淡く光っている。
ドランが顎で示す。
「王都から符写盤が入ってる」
板に文字が浮かぶ。
『鉱山失踪事件解決。石化解除確認。ミスリル鉱脈三割帰属』
ざわ、と空気が揺れる。
「三割って……」
「王宮直だぞ」
俺は小声でノアに聞く。
「符写盤?」
「ドワーフ大陸産の通信魔道具だ」
ノアが淡々と答える。
「主要ギルド間のみ接続される」
アクセルが板を覗き込む。
「板だな」
「ああ、板だな」
俺は板を軽く叩く。
「こんなんで通信できるのか。便利だな」
ノアが続ける。
「維持費は高い」
アクセルが即答する。
「高いのはギルドの問題だ」
俺が言う。
「お前は払わないもんな」
アクセルは真顔だ。
「払う理由がない」
ぶれない。
⸻
「おめでとう!」
「やったな!」
「土産は!?」
包囲が完成する。
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
「うさぎだ!」
むぎがキュ、と続く。
「ハムもいるぞ!」
ついでみたいに言うな。
俺は干し果物の袋を掲げる。
「落ち着け! 配る!」
手が伸びる。
多い。
アクセルがぼそり。
「投げるか」
「やめろ」
《高所散布、効率的》
(お前もやめろ)
⸻
俺はノアを見る。
「逃げるか」
ノアが頷く。
「合理的だ」
アクセルは出口を見る。
「道はある」
だから戦闘突破しようとするな。
俺が声を張る。
「今日はここまで! 宿に――」
低い声が落ちる。
「待て」
ぴたりと静まる。
ドランがカウンターから出てくる。
腕を組み、俺たちを睨む。
「いつまで宿に泊まるつもりだ」
俺は瞬きをする。
「え?」
ドランが一歩近づく。
「白兎の庭は即席じゃねぇ」
符写盤を親指で叩く。
「王都で名が通った」
もう一度、叩く。
「ここでも通った」
視線が真っ直ぐ刺さる。
「なら、腰を据えろ」
ざわ、と空気が動く。
「逃げ場を拠点にするな」
言葉が、重い。
俺は言いかける。
「いや、金が――」
ドランが遮る。
「鉱脈三割だろうが」
正論。
アクセルが言う。
「屋根はあった方がいい」
ドランがうなずく。
「武器も置ける」
ノアが静かに補足する。
「情報の集約にも使える」
周囲の冒険者が騒ぐ。
「庭付きにしろ!」
「うさぎ用に!」
「倉庫広いやつ!」
ドランが一喝する。
「騒ぐな」
静まる。
それから俺を見る。
「物件なら紹介してやる」
逃げ道が、きれいに消えた。
アクセルが真顔で言う。
「門は一箇所だ」
ドランが眉をひそめる。
「城にする気か」
《出入口一箇所、防衛効率向上》
(余計なこと言うな)
ギルドがどっと笑う。
⸻
俺は天井を見上げる。
王都で名を知られ。
サイファで囲まれ。
逃げるつもりだったのに。
「家、か……」
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
むぎがキュ、と続く。
アクセルが言う。
「屋根は必要だ」
ノアが静かに続ける。
「拠点は戦力だ」
ドランが鼻を鳴らす。
「庭も付けてやる」
周囲が笑う。
俺は小さく息を吐いた。
サイファに拠点。
逃げ道じゃない。
戻る場所。
「……それも悪くないか」
ここちゃんが、もう一度鳴いた。
今度は、肯定みたいに。
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