王都を出る
翌朝。
王都の門が開く。
石畳の道を抜け、外へ出る。
振り返ると、塔が高い。
石の街は朝日に白く光っている。
「終わったな」
俺が言う。
アクセルは前を向いたまま答える。
「用は済んだ」
ノアが静かに付け足す。
「王都は、拠点ではない」
短い滞在。
だが、名は残した。
それだけで十分だ。
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街道を進む。
しばらくして分かれ道に出た。
右は大通り。
安全だが遠い。
左は森沿い。
早いが魔物が出る。
俺は足を止める。
「どうする」
アクセルは迷わない。
「左だ」
ノアが言う。
「魔物出現率は上がる」
アクセルはうなずく。
「出たら斬る」
即答。
俺は笑う。
「軽いな」
「問題ない」
確かに。
ミスリルリザードを倒したばかりだ。
狼程度でどうこうはない。
「じゃあ左で」
帰り道は決まった。
⸻
森沿いの道は、静かだ。
風が抜ける。
王都のざわめきが嘘みたいだ。
アクセルが小さく言う。
「落ち着く」
「森の匂い?」
「違う」
少し考えてから。
「見張られていない」
俺は一瞬だけ笑う。
ああ、そういうことか。
ノアが淡々と補足する。
「都市は常に視線がある」
アクセルはうなずく。
王は記憶すると言った。
王都は覚えた。
だが森は――
何も覚えない。
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昼。
鍋を火にかける。
王都で買った乾燥ハーブを取り出す。
「今日はこれ入れるぞ」
アクセルが見る。
「薬だ」
「違う。神の調味料だ」
「神?」
「気分の話」
鍋にひと振り。
香りが立つ。
アクセルが一口食べる。
噛む。
「悪くない」
「だろ?」
アクセルは続ける。
「だが、鍋でも焼いても同じだ」
「そこか」
ノアが小さく言う。
「香りの層は増えている」
アクセルは首を傾げる。
「匂いは腹に入れば同じだ」
ブレない。
《味覚評価:良好》
(お前は黙れ)
《神認定:未確認》
(そこに食いつくな)
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午後。
森の奥でガサリと音がする。
アクセルの手が自然に剣にかかる。
狼が二匹、飛び出す。
アクセルが一歩前に出る。
一閃。
早い。
「ほらな」
「本当に軽いな」
アクセルは剣を払う。
「この道の方が近い」
理由はそれだけだ。
⸻
干し果物の袋を確認する。
「数は足りるな」
アクセルが覗く。
「囲まれるのか」
「たぶんな」
アクセルは少し考える。
「なら、やるしかない」
「何を」
「囲まれたら、耐える」
戦闘前提か。
「歓迎だぞ」
アクセルは間を置く。
「……押し返さなくていいのか」
やっと理解した顔。
ノアが肩を揺らす。
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数日後。
森を抜け、街道に出る。
遠くに、見慣れた外壁が見えた。
サイファだ。
石は粗い。
塔も低い。
だが。
「帰ってきたな」
アクセルが短く言う。
「静かだ」
「今はな」
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
むぎがキュ、と続く。
《予測:高確率で包囲》
(だからその言い方やめろ)
門番がこちらに気づく。
目が見開かれる。
次の瞬間――
門の内側が、ざわついた。
俺たちは顔を見合わせる。
アクセルが小さく言う。
「来るぞ」
俺は干し果物の袋を持ち直す。
「戦闘態勢?」
「歓迎態勢だ」
そして門をくぐる。
次は、静かじゃない。
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