森の夜の香り
宿の厨房を借りた。
鍋に湯を沸かす。
乾燥ハーブをひとつまみ。
香りが立つ。
背後でアクセルが眉を寄せた。
「……それは」
「うん?」
「森で怪我をしたときに巻くやつだ」
俺は手を止める。
「湿布用?」
「腫れを引かせる」
「食うぞ」
沈黙。
アクセルが本気で戸惑う。
「……巻くものだ」
「煮るものだ」
「塗るものだ」
「食べるものだ」
ノアが口元を押さえる。
「用途が拡張されたな」
「拡張するな」
⸻
俺は笑いながら言う。
「森で葉を肉と一緒に焼いただろ」
アクセルは少し考える。
「あれは臭み消しだ」
「それだよ」
「だが、これは薬だ」
「量だって。少しなら香りになる」
アクセルは鍋を覗き込む。
香りが立つ。
戸惑いながらも、否定はしない。
「……森の匂いはする」
「だろ?」
「だが、怪我を思い出す」
「そこか」
ノアが静かに言う。
「用途の記憶が強いのだろう」
アクセルが小さく頷く。
「薬は、食事とは分ける」
なるほど。
森基準だ。
⸻
肉を焼く。
塩のみ。
もう半分は香草を油に移してから。
じゅ、と音が変わる。
アクセルの耳が動く。
「……森で焚き火に投げた葉に近い」
「それそれ」
「だが、刻むな」
「なんでだよ」
「刻むと薬になる気がする」
ノアの口元が僅かに緩む。
「気分の問題だ」
「大事だ」
⸻
焼き上がる。
アクセルが塩を食べる。
うなずく。
香草側を食べる。
止まる。
噛む。
「……」
水を飲む。
俺がにやりとする。
「湿布の味するか?」
「しない」
即答。
間。
「……悪くない」
ノアが追撃する。
「水を飲んだ」
「乾いていただけだ」
むぎがキュ。
ここちゃんがきゅる。
⸻
スープを出す。
アクセルが一口。
ゆっくり飲む。
目を閉じる。
「……これは」
「湿布か?」
「違う」
少し考えて。
「森の夜だ」
ぽつり。
「怪我の匂いではない」
そこが分かれ目。
俺は頷く。
「料理だろ?」
アクセルは小さく息を吐く。
「……量は守れ」
「はいはい」
⸻
くさえもんが割り込む。
《用途再定義成功》
(黙れ)
《湿布→調味料へ分類更新》
(更新するな)
《……混乱》
ポンコツ。




